第10話 新しいメガネでの登校

 朝から夢見心地の1日が終わった翌朝の登校時。

 いつもなら殆ど感じられない視線が、今朝は、あちこちからレーザービームのように飛び交い、顔面に突き刺さる!


 周りは、今までの私との違いに気付いているの......?


 サンダーも似合うとか、キレイな目とかって褒めてくれていたし、自分でも満更でも無いような感じに見えているし......


 メガネのフレームが変わっただけで、こんなに他の生徒からの注目を感じるようになるなんて......


 地味系メガネ女子の私のイメージが、新しいメガネになって、随分とくつがえされたって期待出来るかな?


 メガネを変えただけでこんな感じだったら、思い切ってコンタクトにしたら、どうなるんだろう?


 別人のように生まれ変わって、サンダーも彼女の候補の1人くらいにカウントしてくれる?

 今までだったら、私はただ笑われる道化くらいの役回りだったけど、これからは、一軍女子達みたいなキレイ系女子のレベルに少しずつ近付けるかな?


 そんな風に期待していた矢先......

 

「おはよ、松沢さん。昨日の新鮮野菜、美味しかった。ご馳走様!」


 教室に向かう階段を上ってた時、サンダーが後ろから、それだけ言って、私が返事をする隙も与えてくれないまま、さっさと階段を上って行った。


 サンダーに声かけられて嬉しかったけど、結局、それだけだった......


 サンダーは、ただ、受け取った野菜のお礼を言いたかっただけ。


 私の事なんて何とも思ってないサンダーが、声かけられた時に、一緒に階段上って教室に入る事になるかも知れないって、有り得ないような期待した私が愚かだった。


 教室に入ると、一軍女子の視線がさっきまで受けていた他の生徒達からの視線よりも強度を増して、チクチクと突き刺さって来る。


「ハクサイ、そのメガネ似合わなくね?」


「昨日、まさか、來志らいしと一緒にフケて、メガネ選んでもらったとか?」


「ボールぶつかったくらいで、被害者ヅラぶら下げて、來志らいしに接近するなんて、図々しくね!」


「メガネ萌え狙い?たかがハクサイの分際で!」


「萌えどころか、メガネ負けしてるじゃん、何やってもダサっ!」


「農民の娘なんだから、ダサくて当然!ハクサイが、背伸びしようたって所詮ムダムダ!」


 サンダーに目がキレイって言われた時とか、時恵さんに可愛いって言われた事とか、頑張って昨日の幸せ風景を思い出そうとしても、目の前で悪口を言われ続けるダメージの方がずっと強く過ぎて、心折れてしまう......


 サンダーと時恵さんの前では、言われ慣れてるなんて言ったけど、あれは、ウソ。

 悪口を何度言われても、慣れる事なんて無い。


 昨日は、朝の夢見から、信じられないほど幸せな気持ちの連続だった。

 あの時は、その満たされた思い出さえ有れば、教室で何言われても乗り越えられるって思ってたけど、実際はそうじゃなかった......


 一軍女子達の中傷を聞き流せなくて、すぐ涙目になってしまう。

 泣いたら負け、余計に面白がられるって分かっているんだけど、どうしたら、涙が零れ落ちないくらい涙腺を強く保てるのか分からない。


 私が大人になったら、こんな仕打ちくらい、他愛無い思い出話の1つに感じられるようになるのかな?

 どれくらいガマン続けたら、平然と聞き流せるくらい自分を保っていられるんだろう?


「お前ら、いい加減にしろよ!」


 サンダー......?


 ううん、違った......

 サンダーとは正反対の爽やかスポーツマンの荻川享平きょうへい君。

 私が、荻川君に助けてもらえるなんて思ってなかった。


「はいはい、享平は敵に回したくないからね」


 野球部で声が大きい荻川君の一声だけで、一軍女子達もひるんでしまった。

 スゴイな、荻川君って......

 あっ、そうそう、一軍女子の東浜らんは、荻川君推しだから、強く出られないせいも有るのかも。

 荻川君のおかげで、私を取り巻いていた一軍女子達は、解散して机に戻った。


 性格も雰囲気も全く違う2人なのに、荻川君は、サンダーとは同じ中学出身のせいか、一緒にいる事が多い。

 日焼けして逞しい体形をした荻川君は、正義感の強い性格とリーダーシップを発揮出来る頼もしい人柄で、校内でもサンダーに匹敵するくらいの人気者。


 こんな2人だから並んで歩くと、異次元に存在しているかのように神々しい。

 3年になって、この2人がクラスメイトにいる事で感激している女子は、かなり多いと思う。

 私だって、もしもサンダーがいなかったら、荻川君が好きになっていたかも知れない。

 そんな好印象の荻川君が、一軍女子達の嘲笑から、私を守ってくれたなんて......


 私ったら、サンダーが大好きなのに......

こんな風に庇ってもらって、不覚にも、荻川君にトキメキそうだった......


 荻川君は、下心無しで、そういう行動に出ても不思議は無い感じの人。

 人一倍正義感が強くて、主導権を握るようなタイプだから。

 クラスメイトの1人が、よってたかって虐められているのを決してスルー出来ないだけ。

 

 少女漫画の世界だったら、間違いなくサンダーに助けてもらう展開が用意されているんだろうな。


 もちろん、私だって、それが本望なんだけど......


 サンダーに対しては、そんな期待しても無駄だって、何か諦めにも似た気持ちが働いてしまう。

 そういう性格してないし、今朝だって、お礼の言葉だけ、私からは何も言わせないうちにさっさと離れてしまって......


 私とは必要以上に関わりたくない感じが漂っていた。

 いくら私が鈍くても、それくらいは、感じ取れるんだから。


 昨日はずっと舞い上がっていたけど、上りつめたら、後は落ちるだけって自覚も有るし、今は、そのシナリオ通りになっているだけ。

 それが昨日の今日だから、この急降下が思いの外、堪えているんだけど......


 昨日、サンダーが私に親切にしてくれたのは、自分がメガネを壊した罪悪感が有ったから。

 私に好意を抱いているわけではないんだから、勘違いしたらダメなのに......


 連続した夢の中で、サンダーとのハッピーエンドが見られたからって、そんな事を現実で実現出来るわけ無いのに......


 私、何、期待していたんだろう......?


 メガネが変わって、他の生徒達から視線を浴びせられても、やっぱり、私は私。

 みにくいアヒルの子が白鳥になって仲間が増えるハッピーな結末、私には当てはまらない!

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