第9話 家族の反応

 危ない、危ない!

 思わず、サンダー呼びが出そうになった!

 

 キッパリとそう返事したものの.....

 本音では、やっぱりサンダーと一緒がいい......

 でも、時恵さんといると、必然的にサンダーと逢える機会が増えそうな感じはする!


「......って事だから、俺抜きで、どうぞご自由に」


「嬉しいわ~!日菜ちゃん、ありがとう!私の周り、もう家庭持ちが多くて、気軽に一緒に食べてくれそうな女友達っていないのよ~」


 見かけからは、女性の年齢ってよく分からないけど、時恵さんは、サンダーと年がけっこう離れているような言い方している。

 彼氏はいるようだけど、結婚には至らないのかな?

 こんなに時恵さんは美人なのに、女医さんだから、お給料が普通の男性より高そうだし、男の人って、そういうハイスペックな女性を敬遠してしまうもの?


 食後も少し雑談してから、仕上がった頃を見計らい、喫茶店を出てメガネ店へ向かった。

 オーバル型の淡い桜色のフレームのメガネを試着して、ガラスケースの上に置かれた汚れ1つ無いキレイな鏡を覗くと、今までとは違って明るく柔らかい印象の自分。


「思った通り!日菜ちゃん、可愛い!來志らいしもそう思うでしょう?」


 褒められ慣れてないせいか、お世辞でも嬉しく感じる。


 サンダーは何て言ってくれるかな?

 新しいメガネの私への第一声は......?


「キレイな目が引き立ってて、いいじゃん」


 キレイな目って、またサンダーが言ってくれた!

 時恵さんからも言われたし、お世辞じゃなく思えてしまいそう.......

 2人の言葉を素直に受け止めたいって思ってしまう自分は、どこか図に乗っているのかな?


「ありがとう」


「ほら、日菜ちゃん、こんな可愛くなってモテまくるよ!どうする、來志らいし?今のうちに、引き留めておかなくていいの?」


 時恵さんが、サンダーの腕をグイグイ突く。


「だから、俺は、そんなんじゃないって......そんな言い方したら、松沢さんだって、迷惑だろうし」


「私は別にそんな......」


 そんなんじゃない......なんて

 サンダーに2回も続けてそんな風にあしらわれたら、さすがに凹まずにいられない......

 やっぱり、私とサンダーがつり合うわけなんてないものね......


 時恵さんは、車で、私を家まで送ってくれた。

 眼科医さんなんだから、ベンツとかに乗っていても不思議は無いけど、時恵さんの車は、小回りの利きそうな国産の軽自動車だった。

 乗っている車を見るだけで、何となく見栄とか張らないで生きている感じの時恵さんの性格も伺える。

 助手席には、サンダーが座って、私は後部座席の運転席の時恵さんの後ろ辺りに座った。


「ご両親は、今、御在宅なの?」


「もう畑仕事が終わってる頃なので、家にいます」


 畑仕事と言っただけで、またサンダーが笑い出した。

 ただの笑い上戸なのか、一軍女子みたいに私をバカにしているのかな?

 多分、元から笑い上戸なんだよね、意地悪されている感じは、サンダーから感じ取れないもの。


 でも、私、自分でもおかしく思えるんだけど......


 例え、今バカにされて笑われていたとしても、サンダーの笑顔が見られるだけで嬉しく思えそう。

 

「もう、笑わないで、來志らいし!メガネが変わって、日菜ちゃんの親御さんが驚くから、ちゃんと説明しに行きなさい」


「了解」


 私がサンダーの立場だったら、クラスの女子の親に会って、学校での事を報告するのは、恥ずかしくて面倒そうなのに、サンダーは心の準備はしていたかのように、すんなり時恵さんの言葉に従った。


「初めまして、日菜さんのクラスメイトの岩神です」


 お母さんが玄関に出て来ると、サンダーは礼儀正しくお辞儀してから言った。

 日菜さんって、サンダーが初めて、私の事を名前で呼んでくれた!

 嬉しい!

 今の録音して、何度も再生したかった!

 でも、私の記憶の中で、何度でも再生して楽しめるよね!


「あっ、初めまして、日菜の母です......日菜、メガネ、どうしたの?」


 すぐにメガネが変わった事に気付いて質問して来た、お母さん。


「体育の授業で、僕の蹴ったボールが日菜さんにあたって、メガネを破損しました。幸い、姉は眼科医で、新しいメガネを用意出来ました。報告が後になってすみません」


 一人称を「僕」って使っているサンダーは初めて。

 いつも「俺」って言うのを聞いていたから少し驚いたけど、不思議なくらい違和感が無い。

 成績優秀なだけじゃなく、こういう時に臨機応変な言葉遣いで、親が相手でも適切に報告する事が出来るなんて!

 同じ高3でも、私なんて初対面の大人の前では、こんな風にスラスラと話せないのに、サンダーってスゴイ!


「そうでしたか、色々とお気遣いして頂いてありがとうございます。メガネ代、おいくらでしたか?」


 慌てて奥に引っ込んで、財布を用意しようとするお母さん。

 

「いえ、結構です。姉の伝手で安かったですし、僕のせいなので、弁償するのは当然です」


 サンダーが大き目の声で呼び止めると、お母さんはかなり戸惑いながら、頭を下げてお礼を言っていた。


「ありがとうございます。あの、お礼にはほど遠いですが、うちの畑で採れたての新鮮な野菜をどうぞ」


 そのままサンダーを帰すのは、お母さんの気持ちが収まらなかったらしく、玄関に所狭しと置いてあった今日の収穫した野菜から、キュウリと人参と白菜をビニールに入れて手渡した。

 野菜の中に、白菜が有るのを見たサンダーが、今までの社交辞令的な笑顔ではなく、吹き出しそうな状態からの笑顔になった。

 

 あ~、お母さんったら、よりよって、白菜まで!

 サンダーの笑い堪えていた苦しさが、私にも伝わって来そう!


「ありがとうございます。家族で早速頂きます!」


 サンダーが帰った後、質問攻めになった。


「あのイケメン、何者?」


 帰りが遅かったはずの月菜もいて、獲物を狙うような目付きしている。


「月菜、今日はデートだったんじゃなかったの?」


「バイト休んだ人がいて、誠大が急遽駆り出された。それよか、さっきのイケメン、日菜の彼?」


 誠大君がいながら、サンダーの方に興味津々の月菜。


「違うけど......」


「すごく感じのいい男子ね!あんな人が、うちの娘達の相手だったらと願いたいけど、我が家の娘達には、もったいないわね。育ちも良さそうで、将来有望な感じ」

 

 お母さんもすっかり、サンダーが気に入った様子。

 

「将来は、お医者さん目指しているよ。お医者さんの家系だから」


 医者という言葉に鋭く反応して、うっとりとした顔で、溜め息を漏らす月菜。


「お医者さん!なんかもう、私、誠大じゃ物足りない!あのイケメンに乗り換えようかな!」


「岩神君は......そんな風に言うほど、簡単に行かないと思う......」


 私だって、2年半も片想いしているし。


 でも、月菜だったらどうかな?


 月菜は私と違って、積極的で可愛いし、男子ウケもいい。

 クラスの一軍女子達でも射止められなかったサンダーが、月菜といきなり付き合い出す可能性は、もしかしたら無きにしも非ずかも。


「日菜のそのメガネ、よく似合うけど、誰のお見立て?」


 私の判断だったら、例えレンズが割れても、元のフレームにそのまま新しいレンズ入れると予想しているお母さん。


「岩神君のお姉さんが、これが似合うって勧めてくれたの」


「お姉さん、センスいい!私も、会いたかった~!」


 私に対して、月菜が羨ましそうにしている。

 今まで、私が月菜を羨ましいと思った事は何度も有るけど、月菜から羨ましがられたのって初めて!


 今朝の最高の夢見から始まって、信じられない事ばかりが立て続けに起こり過ぎて、正直、まだ頭も心も追い付けない!


 私、さっきまで、ずっと憧れていたサンダーと一緒の時間を過ごしたなんて!

 思い出しただけで、幸せ余韻で、脳内も心臓もパンクしそう!


 あの夢のおかげか分からないけど、今日1日だけで、私、一生分くらいサンダーとの思い出を蓄積出来た!

 この後、何が起こっても、このサンダーと一緒に過ごした時間の思い出が有るなら、乗り越えられるほどの幸せを充填してもらえたも同然なくらい!

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