第6話 眼科にて
サンダーに連れられて着いた場所は、岩神眼科クリニック。
確かに、サンダーの苗字がそのまま眼科名になっている。
お姉さんは助手ってわけでは無くて、ここの眼科の女医さんだったんだ。
ただ、せっかくサンダーに案内されて来たのに、その日は午後から休診で、『診察終了』の札がドアにかけられていた......
無駄足だったけど、サンダーと一緒に過ごせたのだから、それだけで十分!
眼科に行くのは、家に戻って、お金と保険証持ってから開いている所を探す事にしよう。
「あの......診察時間終わっているから」
そこで、診てもらえない事が分かった以上、その場を離れてようとした。
残念だけど、サンダーと一緒の時間もこれでおしまい。
「大丈夫」
えっ......?
診察終了を知らせる札なんて見ても何の事も無いように、サンダーが近付くと、自動ドアは開いた。
あんな札が出ていたから、もう誰も残っていないと思っていたけど、待合室には、診察を済ませ、会計待ちのような患者3名が椅子に腰かけていた。
もっとも、開いているのは会計の窓口だけで、受付の窓口は閉められていた。
「こんにちは!」
そんな事など気にせずに、受付にいる女性に話しかけたサンダー。
「あらっ、
受付には、20代後半くらいの女性が顔を覗かせ、サンダーを歓迎しているようなムードの声。
サンダーは、お姉さんに用事が有ってよく来ている?
それとも、目が悪かった?
あと、考えられるのは、シスコンという路線......?
まさかね、サンダーに限って、そんな......
「歌美さん、時間外で悪いけど、急患いい?」
受付女性の名札には苗字しか書かれていないのに、下の名前で呼んで、いかにも親しい感じ。
「
時間外なのに仕事を増やして申し訳なく思いながら、慌てて記入している間、サンダーは診察室に行っていた。
多分、お姉さんに、メガネの事を説明していたのかな?
サンダー、お姉さんとはきっと仲良しなんだね。
受付票の記入欄には、よく分からない質問がいくつか有ったけど、急いでいるし、飛ばして書いた。
受付に提出するが早いか、段取り良く、診察室から名前を呼ばれた。
「松沢さん、どうぞ」
アルト声だけど、よく通る感じの良い声。
サンダーのお姉さんの声なのかな......?
「はい、こんな時間にすみません、よろしくお願いします」
サンダーに連れて来られたとはいえ、取り敢えず、時間外に診察してもらう事を謝らないと。
私が謝ると、ニコニコ笑顔で迎えてくれている白衣の女性。
サンダーのお姉さん.....
「そんなふうに、謝られると困るわ」
サンダーのお姉さんというと、ゴージャスな美女を連想して、私なんか見下されそうな覚悟だったけど、私と同じようなオバサン結びをしていて、いかつい黒縁メガネにノーメイクに近い顔で、どちらかというと質素な感じ。
仕事一筋人間っぽくて、お堅いイメージが有るけど、声からは親しみやすさが現れている。
良かった、苦手な雰囲気の人じゃなくて......
「初めまして、
落ち着いた時恵さんの説明で、私の緊張が少しずつ解れていく。
検査は苦手だけど、ぶつけた拍子に目に異常が起こっていて、それに気付かないで、後から失明したら、サンダーに重大な責任感じさせてしまう!
今のうちに、しっかり検査してもらう方が、お互い余計な心配しなくて済む。
「異常は無いわ、安心した!」
時恵さんがホッと息を漏らした。
良かった、サンダーや時恵さんをこれ以上煩わせなくて済む!
「視力も測定終了、後は、処方箋をすぐ用意するから、メガネ屋さんね」
思っていたより、時間がかからないうちに診察が終わった。
待合室に戻ると、他の患者達は既にいなくなっていて、サンダーがさっきの受付女性と話していた。
やっぱり、この2人仲良しみたい。
そういえば、取り巻きや遠目から追っている女子は多いけど、付き合っているって話は無いかも......
受付女性も満更では無いような顔......
ずっと思っていたけど、サンダーって、制服じゃなかったら、大人っぽいし高校生に見えないかも。
2人が付き合っていたとしても、不思議は無いような雰囲気......
もしかして、サンダーって同級生くらいの女子には興味無くて、年上好きとか?
ここに来て、なんかサンダーの知らなかった面を見たような感じ。
私の予想が当たっていたら、ショックだな......
「どうだった、目、大丈夫?」
「うん、異常なかった。ありがとう、岩神君」
処方箋も迅速に用意されて、受け取っても、会計は請求されなかった。
眼科からすぐメガネ屋へ行くと思っていたら、サンダーに少し待つように言われた。
「お待たせ」
振り返ると、キャリアウーマン風のベージュのスーツ姿に、艶やかなロングヘア―の目を見張るほどの美女が現れた。
さっきの受付女性かと思ったけど、また違う女性。
2人は、非の打ち所がないくらいにお似合い過ぎる美男美女。
サンダーは最初から、今日は、この美女と待ち合わせの予定が有るから、そのついでと思って、私をこの眼科に連れて来たの?
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