第3話 鋭い刃のような言葉に

 他の一軍女子達の暴言よりも、本川亜由あゆの言葉が鋭い刃のように毎回、胸に突き刺さって来る。

 どんなに嫌な言葉を向けられても、私は決して言い返せない......

 

 両親が作った無農薬野菜を契約しているお店の中で、本川さんの店は、一番のお得意先。


 元々、一軍女子達は、私を見下す発言が多いけど、本川さんは、親同士の立場の優劣をわきまえていて、尚更、自分が優位に立っている発言が多い。


 もう随分と慣れっこだから、大抵の私に対する暴言は傷付きつつも聞き流せる。

 でも、両親の事を悪く言われるのだけは、すごくイヤで、自分の事よりももっと切ない気持ちにさせられる......


 皆に聴こえる大声で、そんなにまで、バカにしなくてもいいのに......


 我が家が無農薬野菜を作るようになったのは、祖父母の代から。

 それまで、会社勤めをしていた祖父母が、心機一転し農家を志したのは、幼少期の母がアトピー性皮膚炎に悩まされていた為。

 母の肌を薬ではなく、自然の力でと願い、畑を買って安全な野菜を作り出したのがきっかけ。


 今まで、どんな薬を使っても、治ってもすぐリバウンドで、ステロイド軟膏薬の強度が上がる一方だった母が、無農薬野菜を沢山食べるようになって、体内に溜まった毒素のデトックスに成功して、アトピーは劇的に回復した。


 その無農薬野菜の恩恵を受けて、私と妹の月菜つきなの代では、アトピーもアレルギーも発症してない。


 私達の身体にとっては、すごく有難い無農薬野菜だけど、それを私達姉妹の名前に含ませるのは、私も正直、どうなのかと思うところ。


 月菜は、まだ可愛らしい名前だけど、日菜なんて!

 自分でも白菜に見えてしまうし、担任からも時々書き間違えられて哀しい。


 一軍女子達は、何かにつけ『ハクサイ』ってバカにして、事有る毎に呼んで笑っているし。

 元々、外観から受け付けられていないせいも有ると思うけど、一軍女子達の私に対するヒドイ扱いのせいも有るのか無いのか、私はクラスメイトから相手にされない爪弾き者となっている。


 孤独は......確かに辛いけど、意見の合わない人と無理して一緒にいて疲れるよりは、いいのかもと思える時も有る。

 だって、私が一軍女子達の中にいて、誰かを中傷して嘲笑っているなんて、想像出来ないもの。


 ただ、孤独が一番辛いのは、授業でグループやペアを組むように指示される時。


 うちのクラスは女子が奇数で、私はいつもあぶれて、1人になる。

 欠席や見学者がいると、残った男女とペアになるけど、その時は、相手が私を見るなり、怪訝そうな顔付きになる。

 でも、体育の授業って、それほど欠席も見学もいなくて、大抵は、先生とペアを組まされる事が多い。


 今日の体育も、例によって、先生と整理体操をさせられた。


「また、ハクサイ、先生と組んでる」


「ミジメ~」


「先生の同情もらって、成績アップ狙いとか?」


 隣のクラスの女子との合同授業で、侮蔑の視線と言葉を浴び続けるのは、どんなに慣れても毎回心が萎れる......


 授業の終了のチャイムが鳴った時、女子は既に解散し、更衣室に向かおうとしていた。


 男子はまだサッカー中で、誰かの蹴ったボールが、グラウンドから離れようとしている私の方に飛んで来ている!

 視界に入ったものの、私の反射神経では咄嗟に避けられなくて、気付くと顔面で受け止めていた。


「痛たた......」


 メガネが地面に落ちた。

 

「ゴメン、大丈夫か?」


 遠くから聴こえるのは、サンダーの声!

 

 えっ、もしかして、サンダーが蹴ったボールにあたった、私......?


 他の人が蹴ったなら、とことん不運過ぎる自分を嘆くけど......

こんなすごく有り得ない確率で、私にサンダーのボールにあたったなら......

 これは災難で片付けるなんて、とんでもない!

 私にとっては千載一遇のチャンスの到来にしか思えない!


 夢見とは、かなり展開が違い過ぎるけど、やっぱり、今朝の夢のメッセージは、サンダーと関われる事を示唆していた!


 それなのに......


來志らいし、私達なら大丈夫よ~!」


 私の代わりに、跳ね返ったボールをサンダーに投げて戻してから返事したのは、一軍女子の中でもサンダーへの接近度が高い本川さん。


「見て、亜由。ハクサイのメガネ、片方割れてんの!」


 本川さんが勝手にサンダーに勝手に返事したのを咎めるのかと思ったら、落ちた私のメガネを見て、高笑いし出した東浜らん

 こっちに向かって来ようとしていたサンダーは、本川さんの返事を真に受けたようで、ボールを受け取ると、サッカーの練習に戻った。


「ブザマなメガネになっちゃって!まあ、ハクサイにはお似合いじゃん」


 亜由と共にサンダー推しの浅村真知まちがメガネを拾って、私の足元にポンと投げた。


 片側だけでも裸眼よりマシと思い、砂を払ってメガネをかけると、女子3人は爆笑した。


「超絶ダサい、ハクサイ!砂ぼこりまみれの片側レンズだけのメガネって!」


「ボールを顔面受けって、運動神経クズ過ぎ」


「も1つのレンズの方は無事で良かったじゃん!ハロウィンのコスプレかよ!」


 甲高い笑い声は、彼女達が離れてもしばらく耳に届いた。


 サンダーのボールだったと分かった瞬間だけ、その幸運に小躍りしてたけど、一軍女子達に何事も無くあしらわれて、サンダーに接近するきっかけも消え失せてしまっていた。


 頭は痛いし、レンズは片方割れてしまったし......


 サンダーは、ボールが私の顔面にあたった事すら、知る由もないなんて......


 夢のお告げが実現しそうだって、1人空回りして喜んでいた私が、バカみたい。

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