第2話 接点の無い現実

「あっ、ファンデ無くなりそう!」


 朝食はさっさと終わらせて、これから登校時間だというのに、まだまだオシャレに余念が無い様子の、1歳年下の高2の妹、月菜つきな

 地味なメガネ女子の私と違って、薄化粧でも映えるハデ顔で社交的な性格のせいか、小学生の時からずっとモテている。

 中学生の時から、友達にも疑問持たれるくらい、私達は外見も中身も正反対の姉妹。


「今日、誠大せいたとデートで、帰り遅くなるからね~!行って来ます!」


 月菜の高校は電車を乗り継いで1時間と少しかかる位置にあるから、私よりかなり早く登校している。


「行ってらっしゃい」


 月菜を見送り、まだ夢の余韻に浸りながらノンビリ食べていると、お母さんと目が合った。


「ちょっと、そんな暢気にいつまでも食べ続けていて、学校に間に合う、日菜?」


「大丈夫。私は月菜と違って、メイクしないから、すぐ用意出来るし」


 急かそうとしても、私がマイペースに食べ続けていると、首を傾げたお母さん。


「本当に対照的ね、あなた達姉妹って!月菜は、中学校の時から今まで、何人もの男子と付き合っているのに、日菜はてんで男っ気無し。もしかして、まだ好きな人もいないの?」


 年子の姉妹でありながら、こんなに開いた差を疑問に感じている様子。

 

「いない事は無いけど......どうせ、私が気合い入れたところで、相手にされないような人だから......」


 サンダーみたいに目立ち過ぎるイケメンに夢中になるなんて、私にだって当然、高望みし過ぎているって自覚は有るんだけど......

 いつの間にか、見えない強力な磁石に引き寄せられるように、不可抗力的に好きになってしまっていた。


  どうせ、私みたいな地味系メガネ女子なんて、理想低くした男子を選んだとしても、どっちみち相手にされないんだから。

 せめて、憧れくらいは、目の保養を出来るイケメンでも許されるよね。


 でも、今朝の夢見は......


 あんな心臓に悪いくらいドキドキものの夢見を今朝に限って2回連続で見せられた暁には、自分に都合良く予知夢的に思えてしまうのも無理は無いんじゃないのかな......?


 現実でも、何か起こりそうな期待してしまうのは、単なる私の自惚れ?


 そんな風に、いつもと違う学校生活が待っていそうな気がして、少しワクワクしながら、ふたを開けて見たけど......


 今朝も、教室では、何の変哲もない日常......


 あの夢を見たからって、何1つ特別な事なんて起こりやしない。

 

 そうだよね。

 所詮、ただの夢。


 魔法使いのおばあさんに、サンダーとハッピーエンドの魔法をかけられたわけでも、約束されたわけでもないし、未来から来た子孫に予告されたわけでもない。


 期待する方がおかしいんだって!


 それくらい、頭では分かっているんだけど......

 

 サンダーの周りは、いつでもクラスの一軍女子達が群がっている。


 彼女達は、元々の顔の造りも整っているし、より美しく見せるメイクも心得ているから、彼の周りだけ華やかに彩られて見える。


 でも......

 そんな一軍女子をサンダーは煩わしそうに、ほとんど相手にしないのは、とても嬉しい事実の1つ......


 そして、もう1つの事実は......

私がサンダーの視界に入る事すら無いという、哀しい現状。


 せめて、サンダーも今朝、私と同じ夢を見て、同じ余韻を共有出来ていたら、随分違うのに!


 今まで認知されてなかったと思うけど、これを機に、私の姿を名前と一致出来るくらいになってたかも......


 残念ながら、サンダーとあの夢を揃って見るなんていう、私にとって都合良すぎる奇跡は、どうやったって起こらない!


 私と、サンダーを隔てているのは、机4つ分くらいで、それ自体は大した距離ではないけど、付随するいくつもの障害が、サンダーを実際の距離より遠くに感じさせる。


 どうしたら、ワープのように他の障害を無効化したり、この距離を折り畳んで、周囲を排除してサンダーにだけ近付ける?


「さっきから視線感じね?」


「ハクサイじゃん!」


 一軍女子達が、私の方を見て笑い出したのに気付いて、慌ててサンダーから目を背けた。


「白菜......って?」


 昼下がりの重そうな瞼のサンダーが尋ねているのが、背けた視界の隅に入った。


 あっ、奇跡みたい!


 サンダーが私の方を見ている!


 今、私もそっちの方に向いたら、サンダーと目が合った状態になれる!


 無性に目を合わせたい衝動に駆られるけど、そんな事したら、おまぬけ顔してサンダーと目を合わせる私が、一軍女子達の視界にも当然入って、それこそ何言われるか分からない!


來志らいし、知らないの?」


「色白で地味だから、ハクサイってわけじゃないよ」


 一軍女子達がケタケタと甲高く笑った。


「どうして、白菜呼び?」


 サンダーが名前の由来を尋ねてる!


 信じられない、こんな時が訪れるなんて!


 白菜なんて、サエないあだ名を勝手に付けられて、内心ではすごく不満だったけど、そのおかけで、サンダーの関心をさらっている!


 今はもう、に、ううん、私の名前、に感謝しかない!


「あのメガネ女子、松沢日菜にちなっていうんだけど、日菜にちなって、『日曜日』の『日』に、『野菜』の『菜』って書くから、パッと見『白菜』に見えなくね?」


「マジウケる~!そんな名前、私だったら絶対パス!」


「家も、野菜農家っていうじゃん」


「ちなみに、お情けで家の店でも置いてあげてるけど、この前、ハクサイの親が、農民みたいな超ダサイな服で野菜持ってやって来たの!あんな恰好で出入りされたら、うちの店の品格疑われるじゃん!」


「ヤバっ!親子揃って、ダサ過ぎ!」


 私達親子をダシにして、けたたましく笑い続ける一軍女子達。

 こんな事まで、サンダーの耳に入れたくなかった......

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