最高の夢見を実現させられたなら
ゆりえる
第1話 そのまま目覚めたくない夢見
雲間から降り注ぐ眩いばかりの天使の梯子と同時に、不可視であるはずの天使達が今にも舞い降りて来そうな瞬間がもしも有るのだとしたら、こういう感じなのかも知れない。
我が目を疑わずにいられないような......
これを本当に鵜吞みにする事が許されるのか、自問せずにいられないようなシチュエーション。
今、私は、その中にいる!
白い手袋の男性の手が、私をエスコートしてくる。
私もまた白い手袋の片手を、男性の手に重ねた。
結婚式......?
まさかね......
私はまだ高校3年生だから。
年齢的には可能かも知れないけど、そんなのは全く現実味感じられない。
現実味感じられないといえば、この状況。
私が通う誠楠高校で、毎年恒例の『ミスター&ミス誠楠コンテスト』の真っ最中だったみたい。
えっ......私がミスコンに?
私の頭には、精巧な銀細工のティアラが輝いている。
これって、まるで『ミス誠楠』?
そんな奇跡としか思えないような事が、スクールカースト最下位で、どうひいき目に見ても冴えない私、松沢
だけど、今日の私は、いつもと全然違っている!
サラサラのロングヘア―で、メガネも無しで、薄くメイクしているその姿は、いつものダサイ私と違って、あたかもグラヴィアから抜け出して来た美少女のよう!
『ミスター誠楠』にエスコートされても、ひけ目を感じさせない。
今年の『ミスター誠楠』は、我が校きってのイケメン、クラスメイトの岩神
『雷神』っぽい名前の響きから、私が勝手に『サンダー』呼びしてる憧れの君。
サンダー呼びの理由は、例えば授業中、私、すぐ眠気を催してしまうのだけど、ウトウトしている時に、寝言で岩神君の名前をそのまま口に出したら、恥ずかしいから!
本人の前で、サンダー呼びがポロッと出てしまう心配の方はって......?
どうせ、私、サンダーとは接点が皆無だから、大丈夫!
入学した当時から、スレスレ肩まで届きそうな艶やかなロン毛が中性的だけど、彼の退廃的な美しい顔立ちを引き立て、特に目立った言動しなくても、常に注目を浴びずにいられないハンパ無く強力なオーラ。
サンダーはそんな類稀なる逸材だから、1、2年の時からずっと『ミスター誠楠』に選ばれ続け、今年のコンテストでも当然、最有力視されていた。
片や、私は......
クラスメイトにも名前覚えられているか、まだ覚えられていないのか疑問なくらいの地味系メガネ女子。
自分からは誰かに話しかけ難いし、周りの誰からも話しかけられなくて、友達もいない。
卒業後、同窓会が有っても、多分、誰も私の事、覚えていなさそう。
そんな目立たな過ぎる私が、事も有ろうに、目立たずにいられないサンダーにエスコートされて、『ミス誠楠』としてステージに......
サンダーの横にいるだけでも、彼推しの女子達からブーイングものだというのに......
なんと!
いつも気怠そうな顔しか見せないあのサンダーが、私に向かって、最上級の笑顔を向けている!
ウソみたい、ウソみたい!
こんなの絶対、有り得ない!
高1の時と高3の今、サンダーとは2回同じクラスになっているけど、1度だって話した事も、目が合った事すら無かったんだから!
この世の終わりが来て、地球上にサンダーとたった2人で取り残されても、津波が襲いかかって、2人っきりで島流しに遭っても、そんな都合良過ぎる状況が起こるとは思えない!
さもなくば、ただの夢......
夢の中で『夢』と気付かされた時、私は目を覚ます事が多い。
こんな滅多に見られないような幸運過ぎる夢を見た時くらい、その法則が外れてくれても罰があたらないのに......
夢と自覚した瞬間、容赦無く、夢の世界から解き放たれてしまった......
やっぱり......夢だった
そりゃあ、こんなよく出来過ぎた話、現実に有り得るわけないに決まっているけど.......
それでも、こんな夢を見せられて、朝からすごくシアワセ気分!
こんな極上な夢見は、今日一日、ううん、何日も余韻が続きそう!
夢だったと分かっても、こんな素敵な余韻の残るような夢なら、いつでも大歓迎!
5時20分......
アラームの30分前に目覚めてしまっていた。
あ~あ、後30分、夢が続いていたら、もっとサンダーと進展していたかも......
ううん、待って!
30分有れば、二度寝出来る!
寝直したら、さっきの夢の続きを見られるかも。
そういう事は何度か有った。
主に、怖い夢が多かったけど......
この余韻に包まれたまま寝入ったら、きっと、夢の続きを見られるはず!
私は、これまでの経験から知っている.......
二度寝で夢の続きを期待した時に限って、見させてもらえない事くらい。
だから、今回もモチロン、ダメ元。
たった30分しかないし、そんな僅かな時間に、自分の思い描いたような夢の続き見られたら、誰も苦労しない。
こんなダメ元で挑んだ、二度寝の夢見だったのに......
神様は、一体どういう気まぐれで、続きを見させてくれたの?
サンダーの笑顔が再び、雷神からの一撃の如く、夢の中の私の心を撃ち抜いた!
いつもの教室での気怠い表情からは結び付かない、破壊力の強過ぎる笑顔!
こんなキラッキラの笑顔を向けられて、落ちない女子がいたら、誰か教えて!
夢の中の私は、サンダーに目が釘付けになりながらも、ステージ上にいるという自覚を何とか保って、微笑んでサンダーを見つめた。
見つめ合っているの、私達!
心臓が今にも飛び出しそうなドキドキ感。
サンダーと私は、ステージから降りて、全校生徒達の羨望の視線を浴び続けながら校門から出た。
そこには、2人の門出を祝うような、真っ白いオープンカー。
サンダーは、紳士的な感じで助手席のドアを開けて、私を誘導してから、慣れた様子でドアを閉めた。
夢の中のサンダーは、運転免許も取得していて、運転もスムーズ。
草木が香るそよ風を受けながら、希望に満ちた微笑みを浮かべ2人だけの世界へと旅立った。
そこで丁度アラーム。
いつもの変わり映えのしない朝に引き戻された。
いつもの変わり映えのしない朝なんだけど、心臓がまだドキドキしている!
......私の願望によって見せられた、ただの儚い夢なのに。
頭がポワンとして学校準備もおざなりだけど、滅多に見られない吉夢だから、余韻から解放されたくない!
それにね、こんな夢見を続けて見せられるのは、啓示的な気がする!
だって、今日は新月!
新月前後の夢見は、何か特殊なメッセージっぽいものが多かったし。
今回も、きっとそう!
神様は私に、夢見という方法を使って、運命の出逢いを示唆してくれたの!
出逢い......ではないかな?
サンダーとは、もう既に1年生の時にも同じクラスだった。
高校生活も残すところ、半年と少しだけ。
このままだと、私、サンダーからクラスメイトという認識もされず、ただのモブキャラの1人として淘汰される運命しか待ってない。
だから......
頑張れ、日菜!
って、何らかの見えない存在達が集まって、夢見でエールを送ってくれたのかも!
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