20××年12月21日<渇望>
大学生になった私は、一人暮らしを始めた。
晴れて自由の身。
なんだってできる。
髪の毛は茶色。
学生になれば、毎日メイクは必須らしい。
飲み会は1回3000円。
アルバイトは居酒屋と家庭教師の掛け持ち。
勉強は、テスト前だけ。
特別何かに没頭するわけでもなく、なんとなく過ごしていた。
中身は空っぽ。
私は確実に、量産型女子の一部になっていた。
望んでいた広い世界のはずなのに。
満たされない、満たされない…。
私は、周りの子たちとは違うと思っていたのに。
自分が、あまりにも平凡な人間であることに焦りが募る。
何でもできる。こんな世界が生きづらいことを知った。
何もできない者は、時間を持て余し、人生の意味を考え始める。
人生に意味なんてないのに。
何にでもなれる。こんな世界が苦しいことを知った。
何者にもなれない者は、その理由が作れない。
「昔は、家を継ぐしかなかった。昔は、今と違って…」
こんな理由が作れた時代がうらやましい。
今は…、平凡な君って、つまらないね。
そろそろ就活が始まる。焦りがおさまらない。
…とりあえず、お腹すいた。
彼の動画を開く。
今日はクリームパスタを作るらしい。
随分と長い間、小麦粉を摂取していなかった体は、食欲を溢れんばかりに製造する。
画面の中の彼は、淡々と喋りながら、麺を茹でる。
腰から上を映したアングルと、手元をアップにするアングル、それ以外に変化はない。
このシンプルさ、一人暮らし(だと信じている)の物静かな雰囲気がいいのだ。
もっちりとした麺に、濃厚なホワイトソースが絡みつく。
口の中で唾液が溢れる。奥歯に力が入る。
もう我慢できない。
彼の動画を見ながら、大量の千切りキャベツを咀嚼し、空腹を紛らわす。
コメント欄は、相変わらず「カッコいい」ばかりだ。
彼女らも、夕飯を食べながら見ているのだろうか。
彼と一緒に食事する場面を想像しているのだろうか。
いつか彼女になって、大勢のファンの姿を想像し優越感に浸りながら、彼と体を重ねることを想像するのだろうか。
今日も私は、満たされない心と食欲に苦しみながら、
ブルーライトで目を潰し、眠りにつく。
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