#18

ジムはエドワードに自分を床に下ろすようにいうと、瓦礫に埋もれたブルーノとオウガイに向かって叫ぶ。


「ブルーノ! オウガイ! 少しの間でいいです! 時間を稼いでください!」


突然何を言い出すんだと驚愕するエドワードに、ジムは作戦を伝える。


彼の作戦とは、自分の体内にある蒸気機関の出力を上げてほしいというものだった。


蒸気機関を意図的に暴走させて出力を増幅。


一時的でも構わないので身体能力を増加させる。


たしかに、それならば同じく蒸気機関改造を施したアンデッドを倒せる可能性はある。


だが、血管や筋肉に繋いだ蒸気機関の出力を上げるということは、ジムの身体にかなり負担のかかるブーストアップだ。


最悪、暴走した蒸気機関の圧力で内蔵が破壊される可能性が高い。


今のジムの身体の構造自体が、人体と機械の融合をギリギリで可能にしている状態なのだ。


それで、そこからさらに出力を上昇させたら間違いなく命にかかわる。


「そんなことしたらお前がもたねぇよ! それにブルーノとオウガイも限界だ! ここは出直してホーリー姉さんの指示を――」


「大丈夫……大丈夫です。二人なら必ずなんとかしてくれます。エドは、少しでも早く出力を上げてください」


エドワードは最低限の工具は持ち歩いている。


それは、戦闘中にジムの身体に異常が出たときのためのもので、けして蒸気機関の出力を上げるためではない。


彼の蒸気技師としての判断では、ジムのいう作戦はとても受け入れられるものではなかったが――。


「オッケーだよ! やってやる!」


「ジム……。長くは持たんぞ!」


瓦礫から立ち上がったブルーノとオウガイは、ジムに声を張り上げて答えた。


すでに数十体のアンデッドを相手にし、改造された不死者の強烈な一撃を喰らっても、二人の声からはまだ戦う意志は消えていなかった。


二人の応える声をを聞き、エドワードは顔を激しく歪めながらも決断。


腰に巻いたベルトから工具を取り出し、ジムの服を破って出力を上げる作業へと入る。


「クソが! お前ら全員頭おかしいんじゃねぇか!? “あれ”はこれまで戦ってきたアンデッドとは違う! “あれ”はモビーディックみてぇなもんだ! エイハブ船長みてぇに足を喰われるだけじゃ済まねぇんだぞ!」


口悪く喚きながらもジムの身体を弄り始めるエドワード。


ジムはそんな彼を一瞥して微笑むと、立ち上がったブルーノとオウガイのほうへ視線を向けた。


「自分に厳しい者は他人にも厳しい……。ジム·スティーヴンソンはそういう男だったな」


吹き飛ばされた衝撃で折れた忍び刀を構え、オウガイがブルーノに声をかけた。


ブルーノはそういった彼に、眉間に深く皺を寄せながら返事をする。


「そう、そうなんだよ。ジムは……紳士のくせにむっつりスケベで……喧嘩が弱いくせに絶対に負けを認めない……。そのうえ人にお願いばかりするんだ……。ムチャなことばっかりね……。真面目過ぎて冗談も通じないし、皮肉や嫌味はしょっちゅういうし、会話を無理に盛り上げようとして、変な冗談を言った結果で逆に場が凍りつくことなんていつもで、空気の読めない発言を繰り返す……。そんな奴なんだよ、ジムは」


罵詈雑言ばりぞうごん……。ブルーノお主……。こんなときによくそれだけ口が回るな」


「本人に向かってもっと言ってやりたいけどね。奴が来るよ、オウガイッ!」


壊れたスチームガンを手に取り、その銃口の下部の柄からナイフを外したブルーノは、ゆっくりと近づいて来る改造アンデッドを見据えた。


先ほど彼がオウガイと協力して斬り落としたはずの腕が再生している。


まだ馴染んでないのか、改造アンデッドは呻きながらその腕を振って鳴らしているようだった。


まるで蜥蜴とかげかイモリか、ブルーノとオウガイはその様に驚愕しながらも身構える。


そんな二人向かって、改造アンデッドは自らの優位を見せつけるように雄たけびをあげる。


それまで鈍かった動きから一変し、凄まじい速度で襲いかかって来る。


震える足を強引に動かし、ブルーノとオウガイはそれぞれその場から散って武器を振るう。


一分でも一秒でも時間を稼ぐため、ジムに頼まれたことを実行する。


「うおぉぉぉッ!」


「刀は折れても心は折れんッ!」


そして二人は、互いを鼓舞するように喉が擦り切れんばかりにときの声をあげた。

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