#17
突然現れた者は、ジムたちがいるダンスホールを、身体から吹き出した蒸気で埋め尽くす。
それから身を縮めて丸まっていた状態から身体を起こし、目元だけ隠している仮面の下の口を大きく広げて咆哮した。
その開いた口からは鋭い牙。
間違いない。
いきなり天井を突き破って現れたのは不死者――ジムたちの敵、アンデッドだ。
その身体を見て、四人の中で誰よりも先にエドワードが気がつく。
身体から吹き出す蒸気に、身に付けている衣服から見える肌には歯車や計器。
このアンデッドは、ジム·スティーヴンソンと同じ蒸気機関を体内に入れている改造人間だと。
「やっぱりまだいたんですね」
「バカ離れろジムッ! そいつは今までの奴らとはちげぇぞ! 」
エドワードが止めるのも聞かずに、ジムは現れたアンデッドへと突進。
スチームガンを構えて発砲しながら、先に付いたナイフを突き刺した。
だが蒸気を吹き出すアンデッドの肌は貫けなかった。
ガキンという金属同士がぶつかる音が鳴り、そのまま反撃を受けたジムは、ダンスホールの壁へと吹き飛ばされてしまう。
「ジム!? 待ってて今助ける! エドはジムをお願い! オウガイはこいつを止めるのに手を貸して!」
ブルーノが声を張り上げる前から、すでにエドワードとオウガイは動いていた。
走りながらエドワードは思う。
アンデッドと化した者は、身体能力が異常に上がる。
その力は、元の人間の筋肉量に依存はするが、たとえ非力な女性でも、アンデッド化した者は鍛え抜かれた軍人を軽く凌駕する。
そんな相手と戦えるブルーノとオウガイは特別なのだ。
だからこそ自分は後衛やサポート要員であり、ジムは蒸気機関改造をその身体に施している。
それが、ただでさえ凄まじい強さを誇るアンデッドが、ジムと同じように蒸気機関改造を施したのなら、いくらブルーノのオウガイといえど勝てるかどうか――。
「最悪、最悪だ! これまで連中が星の光なら“あれ”は月の光だ!」
これを張り上げながら壁に叩きつけられたジムに駆け寄るエドワード。
ふとジムが叩きつけられた壁に目をやると、頑丈な舞踏会場の壁が粉々なっている。
軽く払っただけの攻撃だったというのにこの威力。
「マジかよこれ……レベルがちげぇぞ“あれ”はッ!」
エドワードはさらに独り喚きながら、気を失っているジムを担ぐ。
そして、ブルーノとオウガイが戦っているアンデッドから素早く離れた。
ジムがエドワードに運ばれているのを横目で見たブルーノとオウガイは、防戦一方から打って変わって攻勢に出る。
左右から言葉もなく同時に飛びかかり、ブルーノのはスチームガン、オウガイは忍び刀をそれぞれの刃を振り落とした。
だが当たらない。
二人の攻撃は空を切る。
並みのアンデッドならばこれで決まると思われた同時攻撃だったが、蒸気機関改造を施されたアンデッドは二人の閃光のような斬撃を避ける。
元からアンデッド自体が常人をはるかに上回る身体能力を持っている。
そのうえジムと同じように、蒸気機関によってさらに強化されているのだ。
そんな相手を、さすがのブルーノのオウガイでも捉えることは難しかった。
何度も刃を繰り出しても、敵との身体能力に差があり過ぎる。
蒸気機関で改造されたアンデッドは、その屍斑が浮き出たどす黒い腕を振り回し、向かって来るブルーノとオウガイに拳を放つ。
「これなら避けられないだろ!」
ブルーノが叫ぶ。
彼はその野生の勘ともいうべき反応で、飛んできた改造アンデッドの拳をスチームガンのナイフで突き刺した。
吹き出した鮮血と共に骨の感触がはっきりと伝わるが、内部が何かの金属で守られているらしく、周囲を埋め尽くす蒸気に火花が消えていくだけだ。
しかし、ここが攻め時と思ったオウガイがすでに飛び出していた。
忍び刀をアンデッドの伸ばした腕に振り落とし、不死者の腕を切断。
屍肉の下の固い感触をものともせずに、アンデッドの右腕がダンスホールの床に転がった。
それでもアンデッドのは止まらない。
赤黒い血肉をまき散らしながらも反撃に出て、目の前にいたブルーノとオウガイにその膨れ上がった身体で突進。
体術も何もない粗暴な攻撃は、二人を先ほどのジムと同じように、ダンスホールの壁へと吹き飛ばす。
「ぐはッ!?」
「うぐッ!?」
ジムが叩きつけられた以上に壁が半壊し、ブルーノとオウガイは崩れる壁の瓦礫の埋まってしまう。
「ブルーノ!? オウガイ!?」
エドワードが走りながら二人に向かって叫んだ。
彼の大声で目を覚ましたのか、担がれて運ばれていたジムがその両目を開く。
「エド……。お願いがあるんですけど」
「あん!? なんだよこんなときに!? このままじゃあいつらが殺されちまうってのよッ!」
声を張り上げて答えたエドワードに、ジムは改造されたアンデッドを倒せる作戦があると口にした。
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