#5
身体から次第に激しく吹き出す蒸気。
まるで走り出す前の蒸気機関車のように音を鳴らし、ジムの周辺へと煙を撒き散らす。
そして、ジムは腰のベルトに繋いでいたスチームガンを手放し、中年の男へと飛びかかった。
加速する身体は一気に男との間合いを詰め、その懐に入り込む。
「迷わず
ジムはそう呟きながら握った拳を男の顎へと放った。
肘を曲げたまま下から突き上げるように拳を振るい、男の顔面が起爆した手榴弾のように破裂し、肉片を散らす。
ジム·スティーヴンソンは改造人間だ。
彼は養成所時代に、英国軍少将ホーリー·ドイルに被験体として選ばれ、その身体には蒸気機関が埋め込まれている。
この改造が施されているのは、特殊調査隊シャーロックのメンバーでもジムのみであり、世界で唯一の実験成功者でもある。
それは不死者――動く死体アンデッドを狩る者として、ホーリーが長年追い求めていた戦闘兵器。
それがジム·スティーヴンソンだ。
「また派手にやったな~」
中年の男を仕留めたジムに、ブルーノが呆れながら言うと、オウガイも彼に続いて口を開く。
「今の一撃は見事だった。日々の鍛錬の賜物だな」
オウガイはそう言いながら、首のない中年の男の死体と娼婦の死体の胸に忍び刀を突き刺した。
すると、どういうことだろう。
二人の死体は灰へと変わり、風に吹かれて周囲を覆っている霧と混じった。
現場には、撒き散らされた赤黒い鮮血と、二人が着ていた服や装飾品だけが残った。
現在、世界中で起きている死体が人を襲うという怪奇な事件。
それは今ジムたち四人が倒した者らのことだ。
彼らの上司である英国軍少将ホーリー·ドイルは、そんな動く死体のことをそのままアンデッドと呼んだ。
アンデッドを仕留めるには、脳を潰すか心臓を潰すかすれば灰へと変わる。
「なッ!? おいオウガイ! 灰にしちまったら調べられないだろうが!?」
後退していたエドワードが声を張り上げると、オウガイは忍び刀についた血を払って彼に背を向ける。
「また動き出されても厄介だ。ともかくここでの仕事は終わった。ホーリー殿に報告しに戻ることにしよう」
「そりゃそうだけどよぉ。つーかお前ら、もうちょっと加減てものを知らねぇのかよ。アンデッドに関してはまだまだ情報が足りねぇんだぞ。たまには死体の一体や二体、無傷で手に入れてみろっての」
「命あっての物種。屍らとの戦いで手加減などできぬ」
オウガイはエドにそう答えると、そのまま歩き出した。
ジムも無言で彼に続き、納得できないといった表情をしているエドワードを宥めながら、ブルーノもその後を追う。
とりあえずホテル街での事件は終わった。
しばらくはここらも安全になるだろう
大した情報は得られなかったがまあよしとするかと、エドワードも三人を追いかけた。
「あッ泊まるっていったホテルをキャンセルしなきゃ」
「どこに泊まろうとしていたんだ?」
ブルーノのが部屋を借りたホテルのことを思い出すと、エドワードが訊ねた。
訊ねられたブルーノは、顔をしかめながら答える。
受付の男が屈強な身体した怪しいホテルだと。
「それってここらで有名な男同士が集うとこじゃねぇか。なんでそんなとこに泊まったんだよ?」
「そうだったの? そうと知っていれば泊まろうとしなかったよぉ」
「そうですね。あやうく僕のお尻がブルーノに掘られるところでした」
エドワードとブルーノの会話にジムも入って発言すると、三人がギョッと顔をしかめた。
「ブルーノお前、そんな趣味があったのか……。でもまあ、俺は気にしねぇからお前も気にすんな」
「少々驚いたが、英国はやはり進んでいるのだな。人の好みは千差万別。
エドワードとオウガイは顔をしかめながらも、慌てているブルーノの顔を見ていた。
そんな彼らの態度に、ブルーノが声を張り上げる。
「ちょっと待て! エドもオウガイも勘違いしてんじゃない! おいジム! なんでお前はそうみんなが誤解するようなことを言うんだよッ!」
「誤解ですか? 僕はホテルであったことをそのまま伝えただけですけど?」
「言い方! 言い方だよ! もっと誤解されないような言葉を選べってことッ!」
「そんなに言っちゃいけないことだったんですね。では、もうブルーノがお尻を狙っていた話は言わないようにします」
「だからその言い方ッ!」
四人がそんな会話をしながら歩いている間に、空はうっすらと明るくなっていた。
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