第14話 明日奈と俺と優実、そして神様と?

やわらかい。そして温かく鼻をかぐわす甘い香りが、脳の奥底をくすぐるように鼻から抜けていく。


なんだこの柔らかみは……このままずっとうずもれていたい衝動にかられてくる。ああ……やわらかい本当にやわらかい。

これは夢? に、してはものすごくリアル感満載なんだけど。でも気持ちいい。

こんなにも温もりに満ちた感覚に包まれたのは……ああ、そうだまだ小さいころに母さんに抱かれていたあの時のような安心感にも似たような感覚だ。


う――――ん、ここちいい。

特になんだこの押し付けられている部分の感触がとてもいい。


「あっ」

こうして顔を押し付けてウニウニと動くと、その反動で弾力のある柔らかみが俺の感覚をマヒさせて……ああああ! やめられません!

「うっ……あっ……ダメ……だよ。そんなに動いちゃ」

プルプル……いいなぁこの感触。


「だ、だから……駄目だってば! 変な気持ちになっちゃう……お兄ちゃん」

ん? お兄ちゃん?

ゆっくりと目を開くと髪がおおいかぶさった顔がまじかにぼんやりと見えた。

ん? あ、明日奈?

 

「もうお兄ちゃん、もっと女の子は優しく扱わないといけないものよ」

優しくって?


「……でもさぁ、私は嫌いじゃないけどなぁ。こうしてぐいぐいと責められるのも」

いやそのぉ……。

「あん……駄目だよぉ―、そんなに強くこすちゃぁ―。だんだん変な気持ちになっちゃう……。ふぁああん!」

その瞬間、俺は突然スイッチが入ったかのように明日奈から離れた。


「あ、あの……」

「……ふにゃ?」


トロンとした目で俺を見上げてくる明日奈の頬は上気したように赤く、その唇もしっとりと濡れているように見えた。そして……。

俺は恐る恐る下の方に視線を移した。そこには……。


「わあああ!  ごめん明日奈!」

あわてて飛びずさる俺に、しかし明日奈はトロンとした目のままあやうい仕草で起き上がると、「もう、強引なんだから……でも、良かったよ」

そういってにっこり笑った。


「あのぉ……明日奈さん」

おそるおそる声をかける俺に、明日奈はふと我に返ったような顔をすると見る見るうちに顔を真っ赤に染めてベットの上に正座すると肩も落とさんばかりに頭を下げた。

「ごっごめんなさい! お兄ちゃんがあまりにもそのう、かわいいからつい出来心で!」

いやその……。俺も出来心でというかなんというか。


「本当にごめんなさい!」

再び頭を下げる明日奈に、俺はやっとのことで言葉を紡ぎ出した。

「あの……その……もしかしてさ」

「はい?」

「ひょっとして俺達……」

「は、はい!?」

俺は深呼吸してカッと目を見開くと言った。


「し、しちゃったの?  もうお兄ちゃんなんて言えないことまで……」


俺のセリフに、明日奈は一瞬きょとんとしたがすぐにプッとふきだすと笑いながら言った。

「なぁんだぁ!  もうお兄ちゃんたら何言い出すかと思ったら。兄妹でそんなことあるわけないじゃない!」

明日奈はそういうとなおも笑いながら「もう、お芝居に夢中になるのはいいけど、寝言は寝てから言ってよね。お兄ちゃん」

そういって俺の肩をポンと叩いた。


……え?  お芝居?  俺はまだ混乱した頭で明日奈をみていたが、やがてその言葉の意味を理解すると同時に全身から力が抜けていくのを感じた。

あ……あせったぁ!

「そ……そっか!  夢だったのか……」

それで私がちょっと触っただけであんなに悶えるんだから。うふっ、思い出したらなんか楽しくなってきちゃった」


明日奈はそういうと両手を頬に当てていやんいやんと頭をふって見せた。その仕草に俺もようやく落ち着きを取り戻すことができた……のだが、しかしそんなに悶えるほど気持ち良かったんだろうか?  そんな俺の内心の声が聞こえたかのように明日奈は言った。


「うん!  もうすごいよお兄ちゃん、まるで新雪に最初に足を踏み入れた時のような……」

「あ、明日奈!  そのへんでカンベンしてくれ!」


俺は再び真っ赤になりながらもうろうとしていった。が、明日奈はかまわず続けようとする。

「そして……この最初の一掻きが……」

「わ――――っ!  もう寝る!  俺寝るから!」

あせった俺はベットに飛び込むと毛布をひっかぶって目をつぶった。

そんな俺に、しかし明日奈はベットの上に乗っかると毛布の上からトントンと叩きながら「ごめんねお兄ちゃん、ちょっと悪ノリしすぎちゃった。でもね……私嬉しいんだ」

「え?」

明日奈はそういうと俺の背に自分の額をつけながら続けた。


「だってお兄ちゃんが私の事を本当に大切に思ってくれてるってわかったから。

だから私もね、今すごく幸せなの……ありがと」

俺はしばらく黙っていたがやがて毛布の端をめくるとベットの上に座った。そして明日奈の方に向き直るとその肩に両手を置いて言った。


「ありがとう明日奈。俺もすごく幸せだよ」

俺を見上げると明日奈はちょっと照れたように笑った。が、すぐにまじめな顔になると「でもね……お兄ちゃん一つだけ覚えておいてね」

そういうと俺の頬に両手を当てて続けた。


「私はいつでもいつまでもお兄ちゃんの味方だけど、それは同時に強い女の人になることでもあるんだからね!  だからもし私が間違ったことをしたらちゃんと叱ってね。お願いよ」


俺はそんな明日奈に大きくうなずくと言った。「約束するよ。俺が明日奈を叱れるようになる時まで、ずっとずっと明日奈の味方だよ」

俺の言葉に、明日奈は花のような笑顔を浮かべた。


「うん!  あ……でもね……」

「ん?」

「えっとね……お兄ちゃんが間違ったことをしそうになったら私が叱ってあげるから安心してね!」

俺を見つめながらそういう明日奈に俺は一瞬絶句したがやがて噴き出すと、その体を引き寄せながら言った。


「ああ!  お、お手柔らかにな!」

そしてそのままベットの上に倒れこむと、明日奈の体をしっかりと抱きしめながら目を閉じた。


ああ……なんて幸せなんだろう!  こんな時間が永遠に続けばいいのに……。

俺は心からそう思いながら眠りの中に落ちて行った。

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