第12話 ヘタレにもいらぬ意地はある……かも

「おはようお兄ちゃん」


次の朝、リビングに行くと高垣はいつものように俺に声をかけてきた。昨日あんなことがあったのに、何もなかったかのように普通に接してきた高垣に少し安心した。

もし、気にしてギクシャクしていたらどうしよう。そんな心配なんかする必要もなかったのかもしれない。


「お兄ちゃん朝食出来ているよ、冷めないうちに早く食べちゃお」

「ああ、うん」

テーブルの上に用意されたハムエッグとサラダ。オニオンスープからはほのかに湯気が立ち上っている。


エプロンをかけた高垣のその姿はどことなくおさな妻のように感じる雰囲気が、微妙なエロさを醸し出している。

昨日ちらっとしか見ていない。うんそうだ、ちらっとしかだけこの目に焼き付けていた高垣の生おっぱい。大きくてやわらかそうで、つんと先がとがっていたような……。


ガチ見してんじゃねぇか。


そのおっぱいのふくらみがあの中にあると思うと、朝なのに、いや朝だからか若かりし暴走を拒否できない部分が反応している。


「ん? どうしたの?」

分かんねぇだろうなぁ。これは男にしか分かんねぇ反応なんだよ。

「な、なんでもない……。いただきます」

高垣がテーブルの前に座ったので俺も食パンにマーガリンを塗りながら、朝食を食べ始めた。


「お兄ちゃん今日はバイト?」

「いや、今日は休み」

「そっか、じゃあさ……」

と言いかけたところで高垣は言葉を止めた。そして少し考えた後。

「……ううん何でもない」

と言葉を飲み込んだ。


「何だよ?  言いかけてやめんなよ」

「あ、うん……。そのね、もしよかったら今日一緒に映画見に行かないかなって……」

と、高垣は言いにくそうにそう言った。

「映画?  何見るんだ?」

「えっとね、『君の〇臓をたべたい』って映画」

「ああ、あの小説が原作になっているやつか」

「うん。その小説の実写版なんだけどね、すごく泣けるって評判だから見に行きたいなぁって」

確かに泣けると評判だ。俺も原作は読んだことがある。「いいよ、今日は何も予定ないから」

「本当に?  やった!」


嬉しそうに高垣は笑った。その笑顔は、俺が見たかった高垣の笑顔だった。その笑顔に少しドキッとしたが、俺はそれを悟られまいと平静を装った。


「じゃあ、9時くらいに出ようか?」

「うん」

「あ、そうだお兄ちゃん。ちょっと今日部活でミーティングあるんだ」

「そっか、じゃあ映画は明日にするか?」

「う~ん……。それはやめとく」

高垣は少し思案した様子を見せた後そう言った。どうして?  と言おうとしたが何となくわかった。きっと高垣は見たいんだろうと思った。だから俺はそれ以上何も言わなかった。


でもその前に聞いておきたいことがあったので、それは聞いてみたかったのだ。

「なぁ高垣……明日奈」

「何?」

「その、昨日のことだけど……」


「……うん」


「明日奈が、俺のことをその……。す、好きだっていうのは分かった」

「う、うん……」

でも俺、高垣に告っていたんだよなぁ。ふられたしぃ。

それが今はこの状況だ。


「お兄ちゃん。あのさ、昨日の夜のことだけど……」

「あ、う、うん」

「私さ、いい加減な気持ちであんなことしたわけじゃないんだよ。私のすべてをお兄ちゃんに知ってもらいたかった。だから……」

「う、うん」


「私さぁ、こうしてお兄ちゃんと一緒に暮せるようになってとても幸せなの。これは本当のこと。だからお兄ちゃんが望むことなら私はなんでも受け入れられるんだよ。もしお兄ちゃんが望むなら……私いいよ。たとえ兄妹であってもそれを越えたって……私はいい」


「うっ!」飲み込もうとしていたパンが喉に詰まった。


「きゃぁ! 言っちゃったぁ!」


あわてて、牛乳を飲んで最悪の事態は回避したが、胸のドキドキは落ち着きがなくなっていた。

しかしここまでくると本当に今のこの状況が、現実であるのかと言う事が夢でも見ているかのように感じてくる。


ならば高垣の気がかわらないうちに……食ってしまうか! 


この場で高垣の体を抱きしめて、自由をなくした体を俺の本能のままにスキにさせてもらう。あの大きな柔らかなおっぱいに顔をうずめて、高垣が返す反応を楽しみたい。

小刻みに漏らす甘い声と柔らかな唇をふさぎ込み、溶け合うように高垣と一つになる。


て、そんなリア充になれないヘタレな俺がいる。

よからぬ妄想だけは膨らむが、実行に至るまでの体の動きはピクリとも動かないのだ。


相手は望んているんだろうが、この俺自身ももちろん望んではいるけど、肝心の体が動いてはくれない。いざ実行しようとすれば体だけじゃなく男の部分も萎えてきてしまっている。


ああああ! 俺ってここぞと言う時に何にも出来ない男なんだなぁってこの時つくづくそう思ってしまう。

とにかく話題を変えよう。この雰囲気をぬぐい去らなければ……それも自然に。


「あ、あのさ……」

「な、なぁに……お、お兄ちゃん」

ちらっと見る高垣の顔も少し赤みを帯びているような感じがした。


その赤みを帯びた顔を少し俯きにしながらじっとテーブルを見つめる姿。エプロンを着ている高垣のその姿を目にすると頭が真っ白になってしまう。いかんぞ、これは本当にやばい。もう何も考えられなくなってきた。


どうする俺! どうしたらいい?


「ああ、ここまでヘタレだと表彰もんだわ」

声のする方に目を向けると。



そこには明日奈によく似たギャル? が……いた。

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