第8話 オオカミになれない自分が憎らしいACT3
「お兄ちゃん」
心配した表情で息を切らしながら高垣がやってきた。
「あなた達、お兄ちゃんにこれ以上いじわるしたら私が許さないんだから。言いたいことがあるんだったら、私にも言いなさいよ!」
ああああああああ! なんという兄想いの妹なんだ。
いいとこ見せないと…………高垣にいいところ……見せないと。
かっこいいところ。兄として。
俺は高垣のことを妹として自分は兄としての自覚が持てているというのか。
好きで気になって……告った人。
吠えろ! オオカミのように吠えるんだ。
「好きだ! お、俺はお前の事が好きなんだ……妹として」
いや違うだろ。妹としてじゃなく、彼女としてなんだけど。
「お兄ちゃん」
俺の言葉に高垣は顔を薄く染め、じっと俺の顔を見つめる。
「お兄ちゃん明日奈もお兄ちゃんの事大好きだよ」
見つめ合う俺たち、これは禁断の兄妹愛。ああああ! 俺と高垣はこうして二人結ばれるのである。
――――て、違うだろ!
「なんでだよ、そこは彼氏としてだろ!」
「だってお兄ちゃんは、私の大好きなお兄ちゃんだし」
な、なんていい子なんだ。兄想いの妹。
ああ……高垣にはかなわないな。
俺では高垣の兄にふさわしい男になるのには時間がかかる気がする。だが、俺は必ず高垣にふさわしい男になってみせる。
「おにいちゃん」
「ん?」
「お・に・い・ちゃん!」
「え? おにいちゃん?」
「おにいちゃん、おにいちゃん」
「なんだよ、高垣」
「おにいちゃん!」
高垣は俺に向かって『お兄ちゃん』と連呼する。
「だからなんだよ、高垣……明日奈」
俺は高垣の『お兄ちゃん』という連呼が気になり、つい聞き返してしまった。
「おにいちゃん! お・に・い・ちゃ・ん!」
「だからなんだよ、さっきから」
「おにいちゃん!」
「なんだよ、だから!」
俺は高垣が『お兄ちゃん』と連呼することについに耐えきれなくなり、大声をあげてしまった。
すると、俺の声量にびっくりしたのか、高垣は体をビクつかせる。そして目に涙をためながら俺に向かって叫んだ。
「おにいちゃんのバカ! お・に・い・ちゃん! ばかぁぁぁぁぁぁ!!」
そう叫ぶと高垣は俺の前から走り去ってしまった。
あ、……高垣。
やっちまったか。マジやべぇんじゃないのか。この状況って。
茫然と立ちすくんでいると。
「何をやっておるのじゃ、早く追いかけてやらんか。全くおぬしは女ごころと言うものをまるで理解しておらん。ダメな奴じゃのぉ」
そ、そうなのかこう言う時って追いかけていくべきなんだ。で、その後どうすればいいんだ?
神様俺、高垣になんて言えばいいんだ?
「ヤレヤレ、そこまで手をかけないといけないのか。謝るのじゃ、ひたすら謝るのじゃ。心から謝るのじゃぞ」
分かった。
俺は高垣の後を追った。
まぁこの状況を第三者的に傍観していた因縁を付けてきた男子生徒たちはぽかんとしながら、何か覚めてたようにその場に立ちすくんでいた。
まぁこれはこれでこの場は一件落着と言う事になるんじゃないかのぉ。あははは、さすがわし、出来る神じゃのぉ。
しかしのぉ、赤城翔太よ。おぬしは気が付かんじゃろうな。高垣明日奈の真の気持ちを。
われは高垣明日奈を赤城翔太の妹としたのは間違いはない。されど、われはただ単に妹と言う位置につけただけじゃ。明日奈が翔太を好くようには仕向けてはおらん。
つまり、明日奈のあの思いは彼女の本心と言う事なのじゃ。
翔太よ、明日奈はお前のことを好いているのじゃ。妹と言う存在以上に。
さて、おぬしはその意を受け入れることが出来るんじゃろうか。
なぁ翔太よ。
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