第7話 オオカミになれない自分が憎らしいACT2

「お兄ちゃん。お昼一緒に食べよ」

昼休みを告げるチャイムが鳴るやいなや、俺の所にやってきた高垣のその言葉にクラス中の男子生徒からまた鋭い眼光が浴びせられる。


俺は席を立ちそして後ろを歩く高垣に小さな声で呟くように言ってみた。

「なぁ、そのぉお兄ちゃんて呼ぶのはやめないか?  いや何と言うか恥ずかしいというかなんというか……」


そんな俺の言葉に高垣はそのつぶらな瞳で俺を直視しながら答える。

「どうして?  明日奈はお兄ちゃんって呼びたいよ。お兄ちゃんは明日奈の事嫌い? それに学校でもお兄ちゃんって呼んでもいいって言ったじゃない」

その、上目づかいで小首を傾げる様は男心をくすぐる破壊力がありすぎて困る。

「い、いやそれはそうなんだけど」

そう言いかけたその時だった。そんな俺たちの会話に割って入る男子生徒の声が教室に響いたのだ。


「こら赤城!  おめぇ~高垣さんと一緒に飯か? 一体どうゆうこったこれは!」

その声は教室の入り口の方から聞こえて来た。そこにはいかにも喧嘩上等と言わんばかりの男たちが十名ほど此方に向かってきていた。

教室の入り口からこちらに向かって来るのは見るからに喧嘩上等とばかりに髪の毛を逆立てた男たちだ。俺はその異様な光景に何事かと思い、席を立つとその男どもが俺の前に立ちふさがりそして……。

『ドン!』

と大きな音を立てて俺の机に両手をついたのだった。


ああ、またかよ。

なんだ神様の力ってほんと中途半端だよなぁ。一層の事せめて学校だけでも俺と高垣のこの関係を公認にしてもらわないと。なぁ神様出来ねぇわけでもねぇんだろ。

…………。

あれ。神様。ねぇ神様返事してくれないんですか?

俺の心の叫びをとどろかせても神様からの声は朝のようには響いてこなかった。


「なぁ赤城ぃ! いってぇこれはどういうことなんだよう。俺たちの女神さまである高垣明日奈を独り占めとはいい度胸してんじゃねぇかよう」

「いや待て、これはだな」

いきり立つ男の乱れた心に何を言ってももう聞く気は持たんと言うこの状況。マジやばいんではないんだろうか。実際非常にやばい。

で、クラスの男子どもはこの状況でも誰も俺に助け舟を出そうともしない。いやそれどころかこの状況をむしろ楽しんでいるかのように冷たいオーラが俺に注がれているのを感じるのは気のせいだろうか。


なぁ神様。おい神! なんで黙ってるんだ。何とかしてくれ。

しかし神様は沈黙を保ったままだ。

マジやべぇんだけど。

「なぁ赤城よ。ちょっと顔貸してくれねぇか」

俺はこの状況を何とか打破すべく考えを巡らすが、しかし何も思いつかないまま俺はその男どもに校舎裏まで連行されるのだった。


* * *

* *

「で、高垣とはどうゆう関係なんだ?」

校舎裏に俺を連れてきた男どもは俺を囲むように立ちながらそう聞いてきた。


「どうゆう関係って別に……」

「別にってお前な。この高垣明日奈はうちの学校じゃトップクラスに可愛いと評判の女生徒なんだぜ。そんな子がお前みたいな冴えないやつと一緒に飯食ってるのを目の当たりにした俺たちの心の痛みをお前はどう責任取ってくれるんだ」

「そうだ、そうだ!  てめぇマジで許せねぇ」

「高垣さんに近づくんじゃねぇ!」

その男たちは口々に俺に対して罵声を浴びせてくる。しかし俺はこの状況を何とか打開すべく考えをめぐらすのだった。


「いや、だからそれはだな……」

俺がそう言いかけると、校舎の陰からクスクス笑い声が聞こえてくる。

「おいお前何を笑ってるんだ!」

その笑い声に一人の男がそう声を上げる。

「いえ、だってねぇ」

そんな声が響いてくると一人の女生徒が校舎の影から姿を現す。


その女生徒は長い髪を風になびかせながら俺の方に向かって歩いてくる俺の前で立ち止まると腕を組んで片足に重心を置きながらその綺麗な顔を俺に向けるのだった。

「あなたって本当に冴えない男よね。女の一人も自力で守れないなんて。ああ情けない」


お、そのお姿は神様。やっぱり助けに来てくれたんだ。それも実写化してまでありがたい。

ささ、神様、朝のようにこの連中を何とか排除してくれ。

「やだね」

はぁ? 聞き間違いですか?

「だから我は手をださん。おぬしの自力で何とかしてみせい」

そ、それが出来ないから神様に頼っているんですけど。


「だからおぬしは情けないのじゃ。これではおぬしの妹が可愛そうじゃのぉ。あんなにおぬしのことを好いているというのに。好かれている男ならばそのその意を見せてみぃ」


いやいや、そう言っても確かに俺も高垣のことはそりゃす、好きなんだけど、


その気持ちは半端な気持ちじゃねぇのは確かなことだ。


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