第5話 彼女じゃなくて妹であるがゆえに……。
「ああ、それか。それはおぬしがそう願ったからじゃ」
は? どういう事ですか? 俺は何も願ってはいないのですけど……。
「知らぬとは言わせん。あの時――フラれた時、おぬしは確かに『もう一度やり直したい』と強く思ったじゃろう」
いやいやいやいや、神様! そんな、確かにあの時はそう思ったけど。なんでそれが原因なんだよ。そもそも神の力だろ? なんでわざわざラノベみたいな能力で俺の望みをかなえちまうんだよ。
「だってぇ、面白そうじゃから」
は?
「それだけの理由?」
「そう。それだけじゃ。でも面白いじゃろうて神の力なんぞより、人間が考える摩訶不思議現象の方が面白いでな」
いやいやいやいや! そんなんでいいのかよ。神様ってもっとこう……威厳があってさぁ、人間なんかよりも数倍も上の存在だって言うイメージが……。
「まぁいいではないか。おぬしと我とは波長が合ったのじゃろ? それにこの力を使っておるのは我ではない、もっと高位な存在じゃ。そもそも神はそんな細かい事など気にしないのじゃ」
はぁ……そうですか。神様って意外にいい加減なんですね。
「そういう事じゃ」
俺の心の声駄々洩れって事は、俺が思っている事はこの神には筒抜けという訳か?
「まぁそうじゃのぉ。でも安心せい、おぬしに不利益を被らせるようなことはせぬから」
なんでそんなに自信満々なんだよ。俺の考えが駄々洩れって言うならプライバシーもへったくれもないじゃないか。
「神をおぬしなんぞと一緒にするでないわ! 人間風情が」
あ、はい、ごめんなさい……でもちょっと思うんですけど? あの神様ってなんで女の姿なの。まぁ可愛い女の子だから目の保養になっていいですけど。
「それはおぬしが男じゃからじゃろぉ、それにこの方が何かと都合がいいのじゃ」
はぁ、そうですか。
「そうなんです!」
いやに力入ってますけど……わかりましたよ。それで俺はこれからどうなるんですかね。
「それはおぬしのこれからの人生次第じゃがな。まぁそう深刻に考えんでもよい、ただ我とこうして接点を持った事で少し人生が好転すると言う事だけは確かじゃ」
はぁ……そうですか。でもどうして俺の望みをかなえてくれたんですか? 俺みたいな奴の望みなんて叶えても何の得にもならんでしょうに。それに神様ってそんな暇なんですか?
「暇ではないぞ! 神と言えどもいろいろ忙しいのじゃよ」
いや、すいません。
「まぁ我はおぬしの事が気に入ったからじゃよ」
はぁ……そうですか?
「そうじゃ! だからこれからの人生も面白おかしく生きろよ」
面白い人生って……。
「ではな、また来るからのぉ。ポテチを供えるのじゃぞ!」
あ、はい。分かりました。
そう言ってその神様は消えたのだった。
俺はそのまま寝落ちしていたようだ。ドアをノックする音で目が覚めた。
「お兄ちゃん。起きてる? 朝ご飯出来てるよ早く来てね」
まだ夢の続きを見ているんだろうか? 『お兄ちゃん』その呼び名に異常に反応する俺。
聞こえる声は間違いなく高梨の声だ。
「もぉ! 早くしないと学校遅刻しちゃうよ」
少し怒った感じの声がこれまた可愛い。思わず身震いしそうだ。
このまま本当に怒らせたら大変だ。
「分かった今行く」と返事をした。高垣はその声を聞いてすたすたとリビングの方に向かう音がした。
「おはようお兄ちゃん」
制服のブラウスの上に着たエプロン。あの高垣が着こなすエプロン姿はなんとも新鮮だ。
「今日は和食です」そう言いながらお椀にみそ汁を注いでいる姿はなんとも言えない感情がふつふつと湧いてくる。
妹ではなく、なんだ、その……新婚……だはぁ。逝って思ってしまった。
俺と高梨の新婚生活その朝。
思わず妄想に浸ってしまう。いかんいかん。
「どうしたの? お兄ちゃん、なんか変だよ」
「あ、いや何でもないよ。ちょっと考え事をね……うん……なんでもないから!」
「もぉ~変なお兄ちゃん!」
いや、いいのいいの気にしないで。俺も顔洗って来るから。
洗面所で鏡に映る俺を見つめる。そして念を送ってみる『本当に俺は高梨の事を妹として見れるのか?』と念じてみる自問自答だ。
『ただおぬしに都合の良いように書き換えただけじゃから』
え? 神様がまた突然現れてそう言った。
『あの世界じゃと、おぬしは高梨の事を妹とは見れまい?』
いや……まぁそうだけど。でもなんで?
『我にも分からぬよ。ただそなたと波長が合ったと言ったじゃろ』
いや、それは分かりましたけど……それでなんで俺の望みをかなえてくれたのですか?
『だから言ったじゃろう。面白そうだったからじゃよ。それにおぬしは我に願ったではないか、やり直したいとな』
確かに願ったけど……。でもなんで妹にしたんだよ?
『面白そうじゃから!』
いや、だから! なんでそこに繋げるかな~。はぁもういいよそれで……。
「お兄ちゃん! もう用意できたよ」
あ、ごめん今行くよ。
俺は朝飯を食った後学校に向かった。
もちろん高梨と一緒に登校。と言うかもう高梨の方が違和感なく俺と一緒に家を出ていく。
「あのぉ、明日奈……さん」
「なぁニお兄ちゃん」
必至と俺の腕にしがみ付きながら高垣はべったりと俺にくっついている。
俺の腕から高梨のあのやわらかい感触がじんじんと伝わってくる。とても心地いい。て、そう言うことじゃなくて、外でもこうしてべったりて言うのはさすがにこっちが恥ずかしい。だが、振り払う気など全く湧いてこないと言うのが男の性と言うものなのだろうか。そしてふとわき上がる疑問。
俺と高垣って同じクラスなんだよな。もしかして教室でもこんな感じなのか?
クラスの奴らはこの事知っているというのか? クラス公認? いやクラスだけじゃない。高垣の男子への人気は学校全体に及ぶ。いやいやうちの学校だけじゃ治まっていないと言うのも事実であるから、俺はその中ですべての男子生徒の中で注目と言うか、敵意と浴びせられながら存在しないといけねぇていうことなのか。
それは非常に恐ろしい事でもある。
「ああ、こうして毎日お兄ちゃんと学校に登校するのはんと幸せだなぁ」
しがみ付く腕への力がきゅっと強くなり、少し上目使いの潤んだ瞳で見つめられると俺の中の何かが爆発しそうになる。
ああ、このまま学校に行くのが恐ろしい。
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