第2話 お兄ちゃん? えっ俺に妹なんて
確かにはっきりと聞こえた。
「兄ちゃん」と。
俺には妹なんていねぇんだけど。
「んっもう寝てるの? 開けるよ」
おいおい、ちょっと待て……心の準備が。
ドアノブが動く。
ゆっくりとその次にドアが開かれていく。
ま、待てな、なにが起きているんだいったい誰なんだ。
まだその姿は見えてない。
お兄ちゃんと呼んだこと。つまりは俺の妹になるということなんだろうが。
えっ、じゃぁ女なんだよな。
お・ん・な。
同じ家に女がいる。しかもお兄ちゃんなんて俺のことを呼んでいる。
おい、マジかよ。
思わず毛布をかぶってしまうこの軟弱者。
「なんだ、寝ていたのお兄ちゃん」
ドアは完全に開かれた。だから、今のこの俺の姿を声に出している。
「んっもう、起きてよお兄ちゃん。ご飯冷めちゃうよ」
ベッドに座ったのか。振れている。妹と名乗る女の体が俺の体に触れている。
「ねぇ、本当に寝ているの? 寝たふりじゃないの?」
そっと彼女の手が、俺の頭のところに毛布越しに触れる。
「ねぇお兄ちゃん。本当はさぁ、寝ていないんでしょ。寝たふりしているんでしょ」
な、なんだこの甘ったるい声は。
まだ顔は見ていねぇ。姿は見ていねぇ。
どんな子なんだ。
俺の妹ていうやつは。
それにしてもこれはもしかしてものすごくいい雰囲気ジャン。
なんだか恋人に頭撫でられているような感じみたいで、ドキドキしてしまうじゃねぇか。
見てみたい。
不細工だっていい。……失礼か?
「ねぇお兄ちゃんてばぁ」
ゾクゾクとくる甘えた声。そんなに俺のことを兄として慕ってくれているんだ。
感激して涙が出てきそうだ。
まだ見ぬ妹よ!
「ええい! いつまでそうしてんのよ」一気に毛布がはぎとられた。
恐る恐る頭を動かしその
すらりとした体系。少し上の方に視線をずらせば、程よく膨らんだ胸が目に入る。
おお、間違いなく女だ!
俺の部屋に女がいる。
そしてさらに上の方に目を向ける。
さらりとした髪の端が見え、ぷっくりとした柔らかそうな唇が欲情を高める。
視線をさらに上へと向け
「お、お前。
きょとんとする彼女を目の前にして、フルネームを叫んでいた。
そうなのだ彼女はクラスメイトの高垣明日奈。
告って撃沈して、『きもい!』とまで言われてフラれた女なのだ。
だから俺の脳裏には深く刻まれている。彼女のその姿と顔が。
何故だ! どうして高垣が俺の妹と言う美味しい……も、基。こんなことになっているんだ!
「ど、どうしたの? 何そんなに驚いているのお兄ちゃん?」
「な、なんでお前が俺の家にいるんだ! それもお兄ちゃんってなんだ!」
「何、どうしちゃったのよ? お兄ちゃん」
お兄ちゃん? そもそもお前とは同じクラスだろ。年も同じじゃねぇのか。で、なんで俺がお前からお兄ちゃんて呼ばれなきゃいけねぇんだ。俺、お前にフラれたんだぜ!!
『きもい!』とまでいわれたんだぜ。
「なんか変な夢でも見ていた? 今更どうして高垣の姓なんか口にするの?」
「だってお前高垣だろ。同じクラスの……」
「前まではそうだったけど、今は赤城明日奈だよ。それに同じクラスだていうのは違わないけど。なんでそんなこと言うの? もう一緒にこうして生活して1年以上経つのに」
「い、一年以上? 嘘だ俺、つい最近お前に告ってんだぜ」
「――――告ったって、私に? うっそだぁ――!」
「嘘じゃねぇ『きもい!』とまで言われて散々だったんだ。だから忘れることなんかねぇんだよ」
「兄妹で? 妹に告ったの? そりゃぁさ普通は『きもい』て言われて当然だけど、私がお兄ちゃんにそんなこと言う訳ないでしょ。だってこんなに……お、お兄ちゃんの事す、好きなのに。わかる? 私の心臓の鼓動」
俺の手を取り、自分の胸に押し当て高垣は言う。
や、やわらかい……心臓の鼓動よりも触れる胸のやわらかさに感動を覚えながら、自分の鼓動も高鳴っているのを知る。
ふにゅ! としたこの感触。女の胸。おっぱいってこんなにやわらかいんだ。
手を動かしたくなるのを必死にこらえながら、この時間がいつまでも続くことを切に願う。
じゃない!!
この状況。高垣がなんで俺の妹になっているんだ?
しかも、もう一緒に暮して1年以上になるっていうじゃないか。
それって本当の事なんだろうか?
まったくその記憶がねぇ。
ふと高垣の顔を見ると目が潤んでいた。
「やっぱりお兄ちゃんまだ私の事、認めてくれていないんだ……」
今にでも泣き出しそうな切ない顔が、俺の胸を締め上げる。
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