第10話 『きみ、通報したな』
その屋台は、次元と次元の狭間を飛んだ。
屋台の内部に座っているやましんは、ぴくり、くらいしか動かないが、周囲からみたら、もはや、この世にはない。
おでんからは、まだ、湯気がたちのぼっている。
屋台の中の大気は、なぜだか、地球上と同じくらいに保たれているらしい。
早い話し、屋台は、宇宙船となったのだ。
『きみ、通報したな。』
首から上がないおじさんは、そう、静かに言った。
『非難はしていない。それは、お客様であるきみの、まあ、権利であるだろうから。しかし、きみは、ややこしい状況に巻き込まれたな。まあ、おでん、食べ終わったら、解説してやる。もっとも、やつらが追いかけてきていることは、間違いない。ただ、我々は、さまざまな平行世界の隙間をランダムに飛び回っている。簡単には見つからないはずだ。おでん食べるくらいの間はあるだろう。』
『はあ。やはり、まずかったか。大概そうなんだ。大概、なんでも、なにかぼくがすると、まずくなる。』
やましんは、ちょっと、悔やんだ。
しかし、首から上がないおじさんは、こう答えた。
『ばかな、自分が良かれと選んだ方向だ。まずかろうが、まずくなかろうが、きみの選択した道なのだ。間違いがあろうはずもない。周囲からなんと言われても、常に君の道が、開かれて行くだけだ。周囲がどうみようと、きみが、決めたのなら、きみが正しい。しかも、きみには、回りは見えないんだから、ちゃんと食べなさい。』
『すごく、スーパーな理屈ですね。』
とはいえ、屋台の内部は、押し潰されそうなくらい狭い。
例えてみれば、MRIの中に入って、おでん食べろ、というくらい狭いわけだ。
もっとも、音はかなり静かだが。
『まあ、そうだな。この屋台は、『屋台皇帝』と呼ばれる、きみたちのいうところの、『大マゼラン雲』の範囲にある地球型惑星の支配者が、全宇宙に『屋台』を展開し、おお儲けしようとたくらんだ最初のもののひとつだ。しかし、地球が、すてに屋台の帝国であることは、わかってはいなかったのだ。』
『ものすごい、SF巨編のようですが、でも、内容はたいしたことないなあ。』
『まあ、そういうな。この屋台は、基本的に、すべて、コンピューターにより自己管理している。これが、第1号店だ。重力制御で動くが、旧型なんで、小型核融合炉も使う。皇帝の屋台は、間もなく地球全体に広がる予定であるが、そのための調査をかねていた。しかし。』
『しかし?』
『いいかね。この屋台のコンピューターは、人格をもつ。本来、実態ホログラムで、屋台のおじさんを投影するようになっている。仕入れも自分でできるようになっていた。しかし、最初に地球に降り立った際、たまたま、ある国の秘密核実験に巻き込まれた。それで、一部、具合が悪くなった。さらに悪いことに、サービス拠点に駐在するロボットサービス員が、大気のあまりの悪さに耐えきれず、メンタルに異常をきたした。屋台のおじさんは、投影システムの問題で、首から上が投影できなくなった。それでは、仕事にならないだろ?』
『それが、あなた?』
『まあ、な。しかしだ。これも、悪くない。そう気がついた。なぜ、おれは、遥か彼方の、屋台皇帝なんかに、支配される必要がある? いや、ない。おれは、独立する道を選んだのだ。『幽霊屋台』として。だから。きみが社会からはずれた道を歩くのも、支持するのだ。』
『うーん。でも、この屋台、放射線漏れしてるだろ。』
『まあな。屋台の中は安全だ。』
『いや、それが、問題なんだと思うんだ。』
『ほう……………』
首から上がないおじさんは、立ち上がった。
殺気が感じられる。
………………………
次回 『対決! 屋台』その1
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