第6話 『首から上がないおじさん』 その3


 まるで、氷山がまるまる、直ぐ側にやって来たような雰囲気だった。

 

 『おわ、さぶ!』


 やましんは、思わず声をあげた。


 『わるいな。ちょっと、冷却してるんだ。この屋台は、原子力屋台だよ。君たちの小型原子炉より遥かに進んでいるがね、どんなに、優秀な機械も、ときには、調子が悪くなる。


 つまり、こいつ、本当には、修理が必要なんだがね。それが、ちょっとな。


 こうして、止まっている場合は、まったく問題ないが、動いているときには、ちょっとばっか、放射線漏れが多くなるんだ。その状態では、人間は被爆する。まあ、そこは、運なんだが、さっさと中にはいって座れば問題にならない。屋台の中は、シールドされていて、被曝しないんだ。』


 『ぎわわ〰️〰️〰️。じゃ、逃げ回ると……』


 『よけいに、被爆するな。屋台は、入ってほしいから、暫くは追跡する。そう、決まっている。』


 『んな、むちゃくちゃな。それは、よくないなあ。』


 そう言って、やましんは、しまった。


 と、思った。


 この幽霊を怒らせるとまずいに違いない。


 自分は、大丈夫な立場なのかも、やはり、気になる。


 しかし、こいつ、放射線漏れをしながら走る欠陥幽霊屋台なのか。


 なるほど、体調が悪くなる人が出るわけだ。


 そいつは、大変だ。


 何とかしなければならぬぞ。


 首から上がないおじさんは、それ以上の返事をしない。


 不気味な沈黙だ。


 しかし、話しかけてきたのは、向こうからだ。


 この場合は、どうなる?


 この際だ、もう、ひとおし、してみよう。


 いったい、誰が造ったのか?


 どこから、来たのか?


 修理は、どうしたらよいのか?


 どこかに、連絡先とか、書いてないかしら?


 『修理ができないんですか? そんなに、素晴らしい屋台さんならば。宇宙最先端じゃないですかあ。メンテナンスもあるんでしょう。』


 意外に、この称賛は、いくらか、効いたらしい。


 『うむ。まさに、そうなのだ。宇宙最先端である、確かにな。それは、正しい。正しいのだが。しかし。』


 話しは、そこで、また、止まった。


 首から上がないおじさんは、また、ブスッとしてしまった。


 やましんは、考えた。


 この、不気味なおじさんこそが、屋台の意識そのものなのではないのか?


 つまり、屋台の精。


 屋台の幽霊なのではないか?


 この屋台は、なにかしらの、不満を抱えたまま、営業しているのではないか?


 修理=カウンセリングが、必要なのだが、屋台は、どうやら、それを、したくないらしい。


 そうなると、自分の力では、手に負えないかもしれない。


 やましんは、そう、思った。


 見回す限りは、連絡先とかは、見当たらないし。


 今夜は、もう、引き時であろう。


 これでは、氷ってしまいそうだ。


 



  ・・・・・・・ 👂≦💧😃♨️



             つづく


 


 

 

 


 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る