第5話 『首から上がないおじさん』 その2
となりのふたりにも、あっという間に、ホットドッグとおそばが出来上がってきた。
あつあつで、湯気がほかほか上がっている。
🌭 🍜
見た目にも美味しそうだが、実は、たしかに、間違いなく、美味しいのだ。
唯一、心配なのは、どうやって作っているのか、解らないことである。
見ていると、彼女のほうが、根性座っているらしく、『これは、おいしい。』
と、連発しながら、さっさと、食べてしまった。
こういう場合、昔読んだ、アラジンの冒険譚でも、食べるほうが、圧倒的に危険になる。
故意に太らされて、逆に、食べられてしまう。
日本の落語でも、悪い狐に化かされている場合、非常によろしくない、ものを、食べさせられてしまう。
しかし、実際、仕入れをしている張本人であるやましんは、『実はね。』とは、なかなか言いにくい立場ではあるが、まあ、大丈夫だろう。
なにしろ、この屋台の仕組みは、いまだ、さっぱり、解らないからでもある。
なぜ、無視してはならない、無視したら、病気になったり、悪くすると、死に至ったりするのか。
いや、実際にそうなのか。
単なる、うわさではないのか?
無視しなかったやましんには、どうにも言いようがない。
ただ、無視しなかったばあい、ちゃんと、おいしく頂いた場合、悪いことはなにも起こらなかったことだけは、確かである。
『経済的に困っているから、お安いものでご免なさい。』と、うっかり電子ボードに書いてみたら、バイトをさせてもらえているわけだ。
で、心配したその二人も、とにかく、完食し、ちゃんと、支払いもして、さっさと、帰っていった。
男性のほうが、なんだか、ストレスが残りそうで、心配である。
とはいえ、いつも、また、いまも、落ち込んでいるやましんは、あまり、さっさとは、動かない。
『あんた。冬場に長居は、体によくないぜ。』
『え?』
それは、つまり、どう考えても、となりにいる、首から上がないおじさんから、発せられたとしか思えなかった。
『おいらは、この屋台の管理人だ。』
『え? そうなんですか。つまり、オーナーさん?』
『ま、そうは言っても、間違いではない。正しくはないが。』
『はあ。』
『あんた、おいらが、幽霊だと思うか?』
『この、屋台のことですか。』
『おうよ。両方だ。』
『いやあ。あの、答えたら、罰、当たりますか?』
『おいらは、そう言うことは、しない。また、できない。しかし、屋台本体は、そうも言えない。ときに、人間に害を与えることはある。たしかにな。』
『げげ。』
『こいつは、実際に、この世のもので、ない。おいらもな。まあ、あんたがたの概念なら、幽霊、または、宇宙人だ。しかし、地球の幽霊が、自己紹介をするかい?』
『さあ、怪談話しでは、もともと、幽霊さんの素性が分かるし、オカルト番組では、逆に、あまり、はっきりはしないですね。自分は、いつ、どこで、どうなったものですが、と、言ったというのは、霊能者が通訳した以外は、聞いた覚えがないような。』
『まあな。そういう、わけよ。しかし、あんたは、すでに、我々の協力者だからな。しかも、おいらは、事実上、組織から、無断脱走した宇宙幽霊だからな。ふふふ、積み深いやつなんだ。』
あたりには、やたら、冷たい空気が漂い始め、屋台全体が、怪しげに、揺らめきだしたように感じられたのである。
・・・・・・・・・・
つづく 🔥🔥👻
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