第10話 負の感情
明日になったら良くなる。明日になれば……。そんな言葉を信じて生きてきた。
折れた羽根には絶望が近くにいた。わたしはラジオから流れるビートルズを聴いていた。
彼らは愛と平和を歌にしていた。
天使であるわたしが励まさられる、人々の中から選ばれた人種である。この世界からすれば天上界は異世界に近い。天使がこの世界に修行に来る以外、交流はないのであった。
お互いに不干渉なのである。
ただ、天使の修行は別だ、町の人々は修行に来た天使に優しくれる、天使の修行の来る町は祝福があると信じられているからだ。
しかし、羽根が無いわたしは天使失格である。飛べと言われても飛べない。そんな負の感情は車椅子生活に成り果てていた。
偽りの天使に偽りの車椅子である。わたしは自室で出された課題をしながらそんな事を考えている。不意に机の上に置いてある香水に目がとまる。
辻美さんから貰った物だ。
「女子は気を抜いてはダメ」と言われたのだ。
軽く付けると爽やかな香りであった。わたしはその香りに導かれてベッドに倒れ込む。どうやら、疲れていたらしい。静かに眠りに落ちると夜中に目が覚める。
「水……」
キッチンに行くとコップで水を飲む。渇いた喉を潤おす水は美味しかった。自室に戻ると携帯をチェックする。
ありゃー
信也くんからメッセージが届いている。時計を確認して返事を返すか悩む。
いいや寝ちゃえ。わたしは携帯を机の上に置くと。再びベッドになだれ込む。
天井を下から眺めると微睡に落ちて行く。
気がつくと朝であった。
アラームが鳴り心地良い眠りの時間が終わりを告げている。そんな感情の中で不意に背中を見ると羽根が折れている。今日も天使失格な毎日の始まりだと思い気分が暗くなる。そうだった、信也くんからメッセージが届いていた。内容は『起きてる?』だった。ここは『今、起きた』にしよう。
***
恋愛とは上手くいく日と上手くいかない日がある。その日の朝、わたしは独りでいた。信也くんは友達と雑談をしている。
この感情はなんだろう?屋上の風が欲しい……。ショーホームルームの終わりに息苦しくて風をも求めていた。
わたしは教室を抜け出すと屋上に向かう。エレベーター前で待っていると。
「天野!」
信也くんだ。わたしは授業にも出れない自分の弱さに目をそらす。
「風が欲しいのか?」
その言葉に小さく頷くとエレベーターに独りで乗る。最上階の屋上に続く小さなフロアーに着くと青空が見えた。
「天野!」
信也くんがエレベーターの隣にある階段を駆け上がってくる。
「バカ……」
それは最大限の喜びの言葉であった。その後は信也くんが車椅子を押して屋上を周る。満たされた時間にわたしは永遠が欲しくなっていた。青空はどこまでも続いていて、流れる飛行機雲が印象的であった。
わたしは家の近くの大きな河川の土手に来ていた。土手沿いの道を車椅子で進む。
信也くんに会いたい……。
家に引きこもっていても叶わぬ願いならと、こうして外に出ていた。スクリーンショットで地図を撮り、わたしの位置情報を添付メールで送ってみる。
あ~文面は無くカラメールになってしまった。愛の言葉などおこがましく感じて文面の追加は出来ないでいた。わたしはこの場所に留まるか迷っていたが待つ事にした。三十分待つが信也くんは来ない。
あと、十分だけ待とう。土手沿いの道は車が通れなく、散歩やジョギングをする人などしかいないのであった。
ダメだ、わたしが帰ろうとすると。信也くんが走ってくる。嬉しさと恥ずかしさが混ざった気持ちになった。
……本当にくるなんて……。
わたしは心の中で叫んでいた。あまりにもよくできた話なので素直に素直になれないでた。
「よ!元気そうだな」
「は、はい、来てくれたのね」
信也くんは自然に声をかけてくれた。わたしの罪悪感は消えて、土手沿いを一緒に歩きたいとの願望を言う。その願いは簡単に叶った。信也くんが車椅子を押して、ゆっくりと歩き始める。
「ここは紫陽花の名所なんだ。季節になれば天野も気に入ると思うよ」
この偽りの車椅子生活はただ、大好きな人に押してもらうだけで幸せであった。
「でも、不思議だな……こんなに近くにいるのに、天野が何処かに行ってしまいそうだ」
折れた羽が疼く……。
今は悲しい事は考えたくない、流れる景色は二人に言葉は要らなかった。信也くんとの距離が縮まってもこの想いが何処に行くのか分からなかった。
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