第9話 体育祭
高校に通えば色々ある。そう、体育祭が近いのだ。偽りの車椅子なので不参加なのは心苦しい。なにが辛いかと言えば、女子クラス対抗の騎馬戦の話で誰が上をするのかもめているのである。
運動神経を優先するのか体重を優先するのかであるしかも、男子の聞こえる場所で自分の体重を暴露せねばならないのだ。
「いっその事、天野さんに任せてみる?」
誰かがそんな事を言い出した。いや、歩けるのバレるし。運動神経も体重の平均を考えると無いでしょ。
そう、わたしはさぼりたい訳ではないが……。
わたしは謝りながら辞退する。結局、自分の体重を暴露して候補から外れることになった。体重を信也くんに聞かれたかな?本当に泣きたい気分である。
それでから長い議論のすえにバトミントン部のエースが上を担当する事になった。
なんか、バトミントンなら騎馬戦の上でも強そうなのが理由である。
色んな競技で代表が決まっていき。わたしは天使である。もっと、自分に自信を持った方がいいと考える。
「天野さん?」
ひぃー
完全に臆病者になってしまった。
「は、はい、なんでしょう?」
「一通り、代表が決まったから、一覧表を学年主任のいる職員室まで持って行って」
「勿論です」
わたしはクラスの代表として仕事をするのだ。意味としては薄いが、使命感は十分であった。
体育祭、当日の事であった。
わたしは高校の敷地の堺にある林に来ていた。ここは普段は人気が無いが、水道の蛇口があるので、給水に生徒がやってくる。わたしは違うクラスの人でも洗い立てのタオルを貸し出していた。ホント微妙な役割であった。
「疲れたろ、変わるよ」
信也くんがやってきてわたしに声をかける。
「ありかとう、ご飯にするね」
わたしは信也くんにお礼を言って、林の小道を校舎の方に向かって車椅子を押す。
さて、何処で食べよう。
今日は辻美さんがお弁当を作ってくれた。普段は購買の菓子パンであったが体育祭なので辻美さんが早起きをして作ってくれたのだ。
ふーう、微妙な役回りなのに、感謝、感謝である。
体育祭も無事に終わり。わたしは夕焼けを背にして帰路についていた。役回りは微妙であったが達成感はあった。結局、午後は校舎の前でタオルを貸し出すだけの仕事であった。そうそう、クラス対抗のリレーでアンカーの信也くんは大活躍であった。
「天野……」
うん?
後ろから信也くんの声が聞こえる。
「ほれ、クラス対抗のリレーの優勝賞品だ」
わたしが振り向くと紙袋を渡される。中を見るとクッキーである。洋菓子研究会の手作りクッキーであった。
「いいの?賞品でしょ」
「構わないさ、俺には賞品なんてむずがゆくていけない」
わたしは紙袋を開けて一つ食べてみる。
……美味しい。
「やっぱり、独りで食べたらダメだよ」
わたしは信也くんにクッキーを幾つか手渡す。信也くんは素直に受け取り口に運ぶ。
「確かに美味いな」
照れくさそうに語る信也くんであった。二人でクッキーをぼりぼりと食べていると。水筒にお茶がある事を思い出す。わたしは信也くんにお茶を勧める。
「おう、ありがとう」
あ!間接キスであった。
信也くんが水筒を手に取り、お茶を飲み干すと胸はドキドキ。
顔は真っ赤になる。せ、切ない……。
「どうした?天野?」
「いえ、何でもないです」
必死に恋心を隠すわたしであった。わたしは……素直に好きと言えたなら……。
天使失格のわたしにそんな勇気は無かった。
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