(3): 隠密
中流階層生活区にある小さなカフェでのこと。
「はぁ、緊張した」
そこで僕は机に突っ伏していた。
「ね、言ったでしょ、へーきだって」
一方、少女は対照的に笑っていた。
何故、こうなっているかと言うと十数分ほど前に遡る。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
僕が住んでいたスラムと中流階層生活区は衛兵たちによって警備された門に区切られている。
故にいくら生活に困窮しようとスラムの民たちは中流階層生活区には入れない仕組みになっていた。
そして、それは当然、僕も同じであった。
だからこそ、僕は目の前の少女に尋ねる。
「ねぇ、本当に中に入れるの?」
彼女は中流階層生活区に入ることを提案してきていた。
「もちろんさ。君はボクのことを一体なんだと思ってるんだい?」
「ただの、流れの吸血鬼じゃないの?」
「ああ、そうだよ。その認識で大方正解さ。ただ、少しだけ補足させてもらおうかな」
「というと?」
「なんと、ボクは〈隠密〉を使えるのだよ!」
少女は誇らしげに胸を張り上げた。
「お、おんみつ?」
しかし、僕は〈隠密〉とは何かわからなかった。
「む、なんか反応が薄いな。君、〈隠密〉だよ〈隠密〉。せっかく教えたのにそんなリアクションが少ないとボクは寂しいよ」
少女は本当に寂しそうに呟く。
「あ、ごめん。でも、〈隠密〉がなにかわからなくて……」
「ああ、なんだそういうことか。なるほど、じゃあ、ボクが、説明してさしあげよう。簡単に言えば〈隠密〉というのは、気配を消すという能力のことなのだよ。つまり、誰にも気づかれないということだね」
「な、なるほど……って、もしかして!?」
僕はある可能性に思い当たった。
「フフ、気づいたかい。中々に察しがいいね。そうさ、君の思ってる通りさ。これからボク達は〈隠密〉を使ってあの門の中に入るんだよ」
そう言って彼女は遠くの中流階層生活区のほうを指さした。
「そんなこと、できるの?」
恐る恐るたずねる。
「ああ、できるとも。ボクにとっては朝飯前みたいなものなんだ。大丈夫、君は安心してボクに任せてればいいよ」
少女は自信たっぷりに言い切った。
「……わかった、任せるよ」
「フフ、いい応えだ。じゃあ早速、やってみせようか。〈隠密〉!」
そう言うと、彼女は僕の肩にポンと手を置いた。
僕は一瞬、耳鳴りのようなものを感じた。
「はい、これで君はボク以外には認識されなくなりました」
「え、これだけ!?」
身体は、特に変わった感じはしないけど。
「ああ、そうさ、では行くとしようか」
言うや否や、少女は門の方へとかけだして行ってしまった。
「あ、ちょっと、待ってよ!」
僕も慌てて、少女の背中へかけて行った。
〜〜〜〜〜〜
そして、今に至る。
「君は何をそんなに疲れているんだい? 余裕だったじゃないか」
彼女は平然と言ってのけていた。
「気持ちの方が疲れたんだよ」
たしかに難なく中には入れた、それは認めるけど。
通り抜ける時、本当に緊張した。なにせバレたら、即死刑になるのだ。
僕だけならともかく、目の前の少女までそうなると思うと気が気ではなかった。
「ふーん、そうかい。まぁ、人間にも色々あるんだね」
「もう、それでいいや……」
僕の緊張は一切伝わってないようなので諦めた。
「でも、疲れてるところ悪いんだけど、そろそろ本題に入らせてもらってもいいかな?」
彼女は言う。
「ああ、そうか。そうだね、本題に入ろうか」
僕も頷く。
そして、少女は話を始めた。
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