閑話─???2

「……………………で、できた……」

「おおっ!! 遂に……遂にできたのかっ!?」

「でかしたぞ!」

「ぎりぎり間に合ったか!」

「ここまで来るのに、どれだけ苦労したことか……」

「ところで、戦況の方はどうなっている?」

「う、うむ……」

「正直、戦線がどんどん食い破られて、押し込まれている」

「あやつとあやつが率いる眷属どもは、我らが陣のすぐそばまで迫っておるわ」

「もはや、我々に逆転の手はない。貴公が作り上げた、この召喚術式以外にはな」

「そうか……貴公らにんには苦労をかけたな」

「なに、これも全て我らにんで相談して決めたこと」

「今更異を唱えるつもりはない」

「まあ…………正直言って、泣きたいぐらい追い込まれているのも事実だがな」

「だが、我が召喚術式があれば逆転は可能だ………………おそらく」

「おい! おそらくってなんだっ!?」

「頼りないことを言うでない! もう貴公の召喚術式だけが逆転の手段なんだぞ!」

「そうだ! 貴公のそういうところ、前々から良くないと思っていたんだ!」

「そうは言うがな! 確実にあやつを倒せる者をあらゆる事象、あらゆる世界、あらゆる空間、あらゆる時間軸から召喚するために、実に精密な設定を術式に加えたのは貴公らも知っていようっ!? しかも、あやつ以上の脅威とならないためにそれにふさわしい人格やら何やらまで細かく設定したんだぞ!」

「それは我らとて理解できる。いくらあやつを倒せる存在を召喚できたとしても、その召喚対象があやつ以上の脅威となっては、元も子もないからな」

「であろう? よって、我らの要求を全て満たすだけの存在を召喚するために開発した召喚術式だが、無理と無茶をこれでもかと詰め込んだせいで、解消できない問題が生じてしまったんだ……」

「解消できない問題だと? どんな問題があるというのだ?」

「そうだそうだ! 本当にその問題を消すことはできなかったのか?」

「貴公は魔と神秘を司る【おう】であろう? 【魔王】ともあろう者が、問題を抱えた術式しか作れなかったのか?」

「ええい、うるさい! 我といえども万能ではないのだ! それは貴公らにも言えることであろうが! そうであろう、【ようおう】! 【流王りゅうおう】! 【ほうおう】! 【げんおう】!」

「む、むぅ……」

「それを言われると弱いのぅ……」

「もしも我らが万能な存在であれば、あやつに後れを取ることもないわけだからな」

「しかり、しかり」

「そ、それで、召喚術式の問題とはどんなものだ?」

「実は……召喚対象を我らの下に留め置く時間が短いのだ」

「召喚時間が短いだと?」

「具体的にはどれぐらいの時間なのだ?」

「うむ………………ゆっくりと息を吸って、その息をゆっくりと吐き出すのと同じぐらいの時間だ」

「そんなに短いのっ!?」

「い、いくら何でも短すぎじゃないのか? もうちょっとこう……どうにかならなかったのか?」

「そんな短い時間で、あやつを討てるのかっ!?」

「逆に言えば、その短い時間であやつを討てるだけの力を持った者が召喚されるのだ。その点は【魔王】の名にかけて保証しよう」

「そ、そうか……貴公がそこまで言うのであれば、信じよう」

「その他の問題として──」

「まだ問題があるのっ!?」

「問題だらけじゃないかっ!! 本当に大丈夫なのか、その術式っ!?」

「だから無理と無茶を詰め込みすぎた結果だっ!! 我も不本意なのだっ!!」

「ま、まあまあ、落ち着け、【魔王】。それで、他の問題とはどんなものだ?」

「まず一つ。召喚された者は、当然ながらこちらの事情など知らない。よって、できるだけ簡潔に召喚者にこちらの要望を伝えねばならぬ」

「なるほど、言われてみれば道理よな」

「召喚者は当然こちらの事情など知らぬわな」

「短い召喚時間内に召喚者に我らの要望を伝える、か。下手をすれば、要望を伝えるだけで召喚時間が尽きてしまうわな」

「【陽王】の言う通りだ。そこで…………【言王】、貴公の出番だ」

「おお、確かに言葉と契約を司る【言王】なれば、簡潔に召喚者に我らの要望を伝えることもできような」

「うむ、任された。【言王】の名にかけてその役目を果たしてみせようぞ」

「そして、もう一つ。我が召喚し、【言王】が要望を伝えている間に、他のさんにんは召喚者にできる限りの力を与えるのだ。少しでもあやつを討つ可能性を高めるためにな」

「ふむ、召喚者の力を我らが更に押し上げるわけだな」

「余力があれば、我と【言王】も召喚者に祝福ちからを与える。それぐらいしないと、あやつを……いや、あやつが纏う黒鎧を打ち破ることはできまい」

「うむ、承知した」

「もう、我々にはそれしか勝利へ道筋は残されておらんからな」

「ああ、我も覚悟を決めた」

「全ては【魔王】の召喚術式と、召喚される者の実力に賭けようではないか」

「む?」

「むむ?」

「むむむ?」

「どうやら、最終防衛線も破られたようだぞ」

「…………いよいよか」

「ああ、いよいよだ」

「よし、【魔王】よ! すぐに召喚術式を発動させるのだ!」

「心得た。術式が発動するまで、わずかながら時間が必要だ。最後の時間稼ぎ……任せたぞ?」

「おう!」

「任せよ!」

「我らも神格だけならあやつと同等。時間を稼ぐぐらいのことはできようて」

「では、我は召喚者に事情を説明する準備をしよう」

「よし、術式を発動させる」

「おう!」

「おうさ!」

「いやさ!」

「いやっはー!」

「いや、【言王】よ。貴公のそのノリは何だ?」

「それを言ったら、【陽王】は硬すぎると我は思うぞ」

「まあ、我らはいよいよ追い込まれたわけだ。確かにノリぐらいは良くせねばやりきれんわな」

「しかり、しかり。【豊王】の言う通りよ」

「おお、さすがは【流王】、話がわかるな!」

「いい加減にしろ! もう、あやつ……【獣王】はそこまで来ておる! あと少しだけ時間を稼げ!」

「任せろ!」

「【魔王】こそ、しくじるなよ?」

「では、我らの最後のあがき……」

「【獣王】に見せつけてやろうではないか!」










~~~ 作者より ~~~


 これにて今章および、今年の更新は最後となります。

 次章(最終章)は新年1月22日(月)より開始の予定。

 年が明けると、また恒例の繁忙期が来たりもしますが、できる限り続けて更新できるようがんばります。



 では、今年一年本当にお世話になりました。皆さまに良き新年が訪れることを願っております。

 来年もまたよろしくな!

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