千年ぶりに現れたとかいう安倍晴明レベルの陰陽師(ただしヘタレ)は、チート過ぎてバトルには向かない!?〜もふもふ式神×3とあざとい系神主のわくわくデート尾行〜
宇部 松清
ヘタレ陰陽師、デートに誘う!
第1話 みかどに新入り!?
「いらっしゃいませぇ〜」
「え、あ、はい……?」
外観は普通にオシャレなカフェなのに、中に入ると「あれ? ここ高級料亭?」と錯覚するような空間、それが『
通い続ければそんなギャップにもすっかり慣れるもので、従業員のイケメン達ともすっかり顔馴染みのあたしである。
いつもなら出迎えてくれるのは、このイケメンカフェの総大将とも言うべき、着流し姿の和風イケメン店長、慶次郎さんのはずなのだが――、
今日は、違った。
いや、確かに、今日は彼の方でも予定があるのだ。だから、店は
だけれども、いま出迎えてくれたのは、いつもの三人ですらない、全く見たことのないイケメンだったのである。
確実に地毛ではないと思われる、薄ピンク色のマッシュルームヘアーで、学生、かな? にこりと笑うと八重歯が可愛らしい、どちらかといえば、ゆるふわ系
「お好きな席へどうぞ〜」
「え、あ、はい」
とりあえず、いつものカウンター席へ座る。
と、やはりカウンターの向こうでお皿をキュッキュと拭いているのも、いつもなら
「ただいまお冷をお持ちしますから」
「はぁ……」
えっ、ここ、みかどだよね? 合ってるよね? 何、あの二人、クビにでもなった?
「いらっしゃいませ! お冷です!」
「うぉ! あ、すんません……」
背後から、にゅ、と手が伸びてきて、お冷の入ったグラスが置かれる。もしかして、と恐る恐る確認してみるが、やはり違う。ヤンチャ系
何何何?
やっぱり三人まとめてクビ!?
ここ、そういうシステムあるんだ!?
「ご注文が決まりましたら、お呼びください」
「はぁ……。えっと、じゃあアイスコーヒーを」
と、普通にオーダーしてから気付く。あたし、ここにコーヒー飲みに来たんじゃないんだった。
「すみません、それと」
「何ですかぁ?」
白髪イケメンの隣に並んだ、フード担当らしきピンク頭君がにこにこと身を乗り出してくる。あっ、これはあれか? まーたフードメニュー(しかも定食系)を勧められる流れか!? と声をかけたのはあたしの方なのに、つい身構えてしまう。というのも、初めてここに来た時、
けれど待てど暮せど、このほんわかピンク君からフードをお勧めされる気配はない。まぁ、それが普通か、などと考えていると、
「あ、あのぉ、お客様ぁ?」
ピンク君が、おどおどと「ぼく、何か不手際でも……」と顔を覗き込んでくる。眉を八の字に下げ、心なしか背中が震えている気がする。
「っあ――! ごめんなさい!
ていうか、ここほんとにみかど? 何かもう混乱してきた。どうしよう、これで
まぁ普通なら、だ。
なぁーんちゃって、パラレルワールドとかほんと何言ってんのあたしったらやーねー、と笑い飛ばすところなのだ。
けれども、そう出来ない理由がある。
ありそうな話だったりするのだ。
だって、店長の慶次郎さんは、この
店長で陰陽師? どっちが副業なの、って? まぁ神社の息子なんだからそりゃあ
ってそうじゃなくて。
注目ポイントそこじゃなくて。
陰陽師よ、陰陽師。
いや、陰陽師自体は全然いるのよ、全国に。いるよね? 全国に。
違うのよ、小説や漫画に出てくるやつなのよ。手をこう……シュッシュッてやってホンワカパッパって何か唱えて、そんで式神とか出しちゃうファンタジー寄りにガチなやつなのよ!
ね? ね? そんな人が身近にいるとなればよ。パラレルワールドの一つや二つ、あってもおかしくないって思うじゃない。
てことは何!?
これからあたしの大冒険か何かが始まるってこと!? ここから元の世界に戻るための大スペクタクルアドベンチャーが開幕しちゃうの――!?
まぁぶっちゃけ『大スペクタクル』ってやつの意味なんて全然わかんないんだけど、とにかくそんなことを考え、これから何が起こるかわからないけど、何としても元の世界に戻るんだ! と謎の決意を固めていると、ゆっくりと勝手口が開いた。そこから出て来たのは――、
「あぁ、はっちゃん。遅くなりまして」
で、出た――!
普通に出て来た――!
全然普通に慶次郎さん出て来た――!
「何でだよ! そこは別人が来いよ! 始まれよ、大冒険がよぉ! 大スペクタクルなやつがよぉ!」
「えぇっ!? な、何の話ですか!?」
というわけで、この珈琲処の店長である和風イケメンのお出ましである。彼が普通に出て来たということは、とりあえずパラレルワールドの可能性はなくなったな。
「いや、店員さんがさ、いつものケモ耳ーズじゃな――」
と口に出して気がついた。
「えっ、待って。耳がない!」
ないのである。
みかどの従業員なのに、ケモ耳がないのである。
いや違う違う。別にここ、そういうお店じゃないから。コスプレカフェとかじゃないから。店長の慶次郎さん以外ケモ耳と尻尾が標準装備ではあるけど、そういうのじゃないから。
ガチのやつだから。
生えてるやつだから、マジで。
「え? 耳ならありますよ?」
ちょん、と顔の横に付いている自身の耳を軽く引っ張って、慶次郎さんが首を傾げる。いやまぁそうなんだけど、そうじゃなくてな?
「いや、そっちじゃなくてさぁ。アンタ前は『そっちが飾りです』とか言ってた癖に! 彼らよ! 彼らは違うの? 式神じゃないの?」
と、ここまでしゃべって気付く。
もし彼らが普通の人間だったらどうするのだ、と。迂闊に式神とか口に出して良かったんだろうか。ていうか、あたし以外にも普通にお客さんいるし。何だよみかど儲かってんな。
そう、この『珈琲処みかど』の
式神、という言葉を聞いた慶次郎さんはやっと気付いたのか、あぁ、と納得したように頷いてから新入り達をぐるりと見回して言った。
「彼らは臨時ですよ」
「えぇっ!? 臨時!?」
臨時ってことはバイトでしょ!?
面接して、採用したってことよね!?
慶次郎さん面接とか出来るの!?
いや、その辺はオーナーの歓太郎さんがしたかもだけど!
新人教育とか大丈夫!?
ちゃんと接客出来てる(何ならあの三人より出来てる)ってことは、そういうのもちゃんとやったのよね? まぁでもその辺りも歓太郎さんがやれば良いのか。
そう考えると、
いずれにせよ、だ。
例え、募集、面接、採用の手続き、新人研修などなどをすべて慶次郎さんの兄である歓太郎さんが行ったとしても、である。慶次郎さんが自分の家族やあたし以外の人間とまともに会話が出来るなんて大した進歩ではないか。そこはもう純粋に褒めるべきだよね。
などと考えていると――、
慶次郎さんは、どこからか人型の式札を取り出し、それをトランプのように、べらり、と広げ、
「彼らは
と得意気に言った。
「何だよ! 結局式神なんじゃねぇか!」
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