第12話「桃井瑠美(ももいるみ)」

 いや、そりゃもちろん、あれが『カノジョ』だってことはわかってるんだけど、盗み聞きしてたから、でも改めてアズミにはっきり言われると、いろいろと胸に来るものがあった。


 それでも僕はひるまずに質問を続ける。


「そうなんだ、名前はなんていうの?」


「ん? 『ももいるみ』さん」


「ももいるみ……漢字は?」


「えー? なんか難しい漢字だったから説明できなーい」


「そこをなんとか……」


「んー……」


 アズミは僕を無視して、いきなりスマホをいじり始めた。


 ヤバい。


「そんな週刊誌の記者みたいなこと聞いてくるんじゃねぇよ」とか思われてしまったのだろうか?


 これをきっかけにガン無視とかされるようになったらどうしよう……


「あっ、あった……ほら、優くん。これが『ももいるみ』さんの漢字だよ」


 アズミはスマホの画面を僕に見せてきた。


 そこには『桃井瑠美』という漢字と、電話番号が表示されていた。


 なんだ、怒ったんじゃなくて、この漢字を見せるためにスマホをいじっただけだったのか、僕は安堵する。


 それにしても、今時、ラインじゃなくて電話番号を交換しているとは……聞いたところによると、今はよほど親しくないと電話番号なんか交換しないらしい、やはりふたりはガチで交際中なのか……


 それでも僕はひるまない。


「なるほど……この桃井瑠美さんは何をしている人なの?」


「大学生だよ」


 だい・がく・せいっ!!


 大学生が中学校卒業したばかりの女の子とえっちなことをするだなんて、たとえ同性であっても犯罪じゃないのか?


「どこで知り合ったの?」


「んー? ネット」


 ネットォォォォォッ!!


 出会い系ってこと?


 いや、それって中学生が使っちゃいけないやつなんじゃあ?


「ネットとか……危なくない?」


「危ないって何が?」


「だって、変な人だったら、その……」


「瑠美さんは変な人じゃないよ!!」


「あ、あー、そりゃそうだよね、ごめんごめん……」


 アズミの突然の語気の強さに、さすがの僕もひるみ、即刻謝罪した。


「それにね……」


「それに?」


「アズミみたいな人はね、ネットじゃないと付き合える人に出会えないんだよ。たとえば学校とかでたまたま好きになった女の子が偶然レズビアンな確率って、どのくらいだと思う?」


「まあ……極めて低いだろうねぇ……」


「でしょう。だったら最初から、ネットのレズビアンコミュニティーで相手を探した方が手っ取り早いんだよ、現に探し始めてからわりとすぐにカノジョができちゃったんだからね」


「そ、そうなんでござるか……」


 僕がいきなり侍口調になったのは、動揺の表れである。


「そんなことよりさー、優くんもいい加減、スマホ買ってもらったら? 今日だってさー、せっかく優くんのために焼きそば作ったのにいないんだもーん。たまたま帰ってきてくれたからよかったけど、そうじゃなかったら焼きそば無駄にしちゃうところだったよー」


「そうだね、今度ママンに頼んでみるよ、『今時、高校生がスマホ持ってなかったら、人権失う』とかなんとか言えば、どうにかなると思う」


「アズミからも頼んであげよっか、陽子さんに」


「いや、そこまでしてもらわなくても、ママンぐらい、僕一人で説き伏せてみせるよ」


「そっか……でもよかったなー」


「え? 何が?」

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