第5話 ほんとに高校生に戻ったのか……

「やべぇ文房具がない」


 準備をしていて気づいた。

 これから高校生になるというのに文房具が1つもないのはヤバい。これでは高校に行く意味がなくなってしまう。

 いや、正確には死ぬ運命を変えるために行く必要はあるけど、世間一般的には意味がなくなるだけの話だ。……俺は一体誰に説明してるんだ。


「買いに行くか」


 リビングに置いてあった鍵を持って出かける準備をする。

 そういえば死神も出かけたんだった。鍵持ってなさそうだったし、俺が出かけると家に入れなくなるよな。

 まぁ、死神ならさっきみたいなテレポートもできるぽいし大丈夫か。気にしないでおこう。

 

「よし。それじゃ、いってきます」


 誰もいない家にそう告げた。

 返事が帰ってくることはないが、今までずっと言い続けていた。もはや長年の習慣になっていた。

 けど、これからは死神が一緒に住むみたいだから返事が返ってくるようになるだろう。きっと。

 外は明るかった。

 時刻は午後の2時。

 こんな時間に外に出るなんていつ以来だろうか。思い出せないくらい久しぶりだ。なんかうまく言葉に表せなれないが、気分がいいという表現が当てはまる。


「ほんとに高校生に戻ったのか……」


 いまいち実感がない。

 けど納得はしている。

 それでも車にひかれた記憶もあるし、昨日まで普通にサラリーマンをしていた。だから実感なんて湧くことない。

 俺はこう考えることにした。すぐに実感できる方がおかしいと。そう自分に言い聞かせていた。

 しばらく歩いていると地図を見て首を傾げている人がいた。

 同じ歳くらいの女の子だった。右手にキャリケース、左手に地図を持っていた。旅行にでも来た人だろうか。

 てか、いくら過去だとしても地図を片手に歩いている人なんて珍しい。2025年でも大体が自動で案内してくれるスマホの地図アプリを使っていたはずだ。

 よく見ると女の子が地図を回してるのが確認できた。

 あ、あれ絶対に迷子の人だ。地図を回すなんて迷子の人しかしないことだよ。あれすると余計に場所が分からなくなって迷子が悪化するんだよな。

 無視して進もうとするが、どこか目が離せなかった。

 ふと死神が言っていたことを思い出す。


「……青春しなさいか」


 あの子を助けて青春に繋がるかは分からない。それでも可能性としてはゼロではない。もしかしたら高校で再開するかもしれない。よくある物語みたいに青春が始まるかもしれない。

 つまり、俺の死ぬ運命が変わることになる。

 これは助けるしかない。死ぬ運命が変わる。やった!

 勘違いしないでくれ。俺には下心はない。俺は困っている人がいたら助ける主義なんだ。うん。助けるんだ。


「大丈夫ですか?」

「ぐすん……助けてください」


 泣いていた。女の子の泣き顔を見るなんて久しぶりすぎて動揺してしまう。

 どうすればいいんだ?ちょっと誰か助けて。

 周りを見ると、通行人から変な目で見られていた。

 これ絶対俺が泣かせたみたいになってるやつだよ。ヒソヒソ話させてるし!このままじゃ女の子に言い寄った変なやつ認定されちゃう。


「あの、とりあえずこっち。ついてきて」

「はいぃ。ぐすん……」


 泣きながらもついてきてくれた。

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