第3話 もちろん死ぬ運命を変えるため
死神が何も喋らない。
どうすればいいんだろう。とりあえず声かけてみるか。
「君何があ……ひいっ!」
また鎌を向けられた。
突然のことで驚いた。しかし今度は恐怖を感じることはなく、逃げようとは考えなかった。
そう、授業で先生に指名された時みたいな感覚になっていた。「あ、指されちゃった」みたいな感じだ。
「あんたまだ生きたい?」
死神の口から出た言葉は意外なものだった。
ついさっきまで俺を切ろうとしていた人とは思えない言葉だ。
「いきなりどうし──」
「はいかいいえで答えなさい」
威圧感のある声。
理解したことを伝えるために首を縦に振る。
「もう一回聞くよ。あんたまだ生きたい?」
「はい」
「生きるためなら何でもする」
「……はい」
「少しくらい大変な思いしてもいい?」
「はい」
「私の言うこと聞ける?」
「…………はい」
「よし、じゃあ過去に戻ろう」
「はい……えっ?過去?マジ?」
予想外のことに動揺が隠せない。
過去に戻るなんて某ハリウッド映画でしか見たことない。物語の中だけに存在するもの。現在の科学でも不可能なことを死神があっさりと言っている。
最初から思っていたが、この子ヤバいやつかもしれない。いや、ヤバいやつだ。断言できる。
「今失礼なこと考えてない?」
「いやいやいや、考えてないよ。それより過去に戻るってタイムスリップみたいなもんってこと?」
「そんな感じ。ちなみに戻るのは高校生の頃」
「それは何で?」
「もちろん死ぬ運命を変えるため」
また理解が追いつかない。
それどころかさっきから色んなことがありすぎて頭がパンクしそうだ。まるで俺自身が物語の中に入ってしまったかのようだった。
よし、1回言葉に出して整理しよう。それがいい。少しは理解できるようになるだろう。
「えっと、ちょっと整理させて。俺は死んで魂の状態なんだよね?」
「そこからなのね。うん、あんたは魂だよ」
「それで君は魂の俺を刈るために鎌で切りかかってきた」
「そうだね」
「けど突然切るのを止めた」
「ちょっとこのままじゃかわいそうだと思ってね」
「その後にいきなり過去に戻ろうと言った」
「言ったよ。戻らないと死ぬ運命は変えれないから」
うん。言葉に出しても理解できないぞ。理解はできないけど、とりあえず生きるためにはこの子の言うことを聞く必要があるらしい。
ちょっと謎の部分もあるが、受け入れるしかなさそうだ。
「理解できた?」
「できないけどできたことにする。そうしないと生きれないんでしょ?」
「あんた思ったよりお利口さんね。じゃあ契約成立ってことで」
手を差し出される。
「何これ?」
「契約の握手。握手して契約しないと過去に戻せない」
「分かった」
死神の手を握った。
昨日みたいな何もなくて当たり障りのない日常はもう過ごせなそうだ。
「よしっ、契約成立。じゃあさっそく過去に戻るよ」
死神が鎌の柄を下に付けると魔法陣のようなものが出てくる。その瞬間、辺りが明るくなる。やがて目を開けれないほどの明るさになった。
最後に俺が見たのは笑顔の死神だった。その笑顔はかわいくて、少しだけドキッとしたのであった。
「これからよろしくね」
この言葉を聞いたのと同時に意識を失った。
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