第2話 何をって魂の浄化。私死神だから

「死人って俺死んでるのか!?」

「お察しの通りですね。ついさっき死にました」


 信じられない。驚きが大きすぎる。

 だって俺まだピンピンしてるぞ。意識だってハッキリとしている。痛みなんて存在しない。それなのに死人なんてあり得ない。

 きっと何かの間違えだ。そうに違いない。


「その顔は信じてなさそうね。なんで私のことが信じなれないの」

「当たり前だろ。確かに車にひかれたけど死んでる実感なんてないぞ。証拠あるのかよ。証拠!」

「あんま見せたくなかったんだけどなぁ」


 少女が指パッチンをすると足元が明るくなる。さっきまで俺と少女しかいなかった黒い空間の足元がガラス張りになったようだった。そこから交差点を見れることができた。

 交差点には救急車やパトカー、テレビ局の車まで集まっていた。そして複数人が倒れているのが確認できた。俺の周囲にいた人も巻き込まれているようだった。

 倒れている人の中に見つけたくなかったものを見つけてしまった。

 それは少女の言い分を証明するものだった。


「俺が…………倒れてる。しかも血が流れてる……」

「これで納得した?あんたは車にひかれた衝撃で頭をぶつけて死んだの」

「マジかよ……」


 信じがたい話だが、血まみれの自分の体を見せられたら信じるしかない。俺は死んでしまった────いや待て。死んでいるのに何でこの少女と会話できているんだ。おかしいとしか思えない。


「ちょい待ち。何で俺は死んでるのに君と話せてる?おかしくない?」

「あー説明してなかった。あんたは魂の状態だから私と話せてる」

「魂?」

「人間は死んだらまず最初に魂になるの。肉体から意識が飛んでる状態」


 まるでライトノベルにでもありそうな設定を言われた。もしかしてこの子は中二病なのか?


「そんなこと言って冗談でしょ」

「冗談なんかじゃない。あんたは魂になってて、これから私に刈られるの」

「刈られる?って!危なっ!!」


 首に鎌を向けられた。

 パチもんかと思っていたが、近くで見ると本物の刃物だと分かる。刃の部分には俺の顔が反射して写っていた。それがより一層現実味をもたせる。


「ちょっと!いきなり何するんだ!?」

「何をって魂の浄化。私死神だから」

「はぁ!?」


 さっきから理解が追いつかない。死んでるとか、魂の状態とか、死神とかあり得ないことばかりか起こっている。

 これは本当に現実なのか。夢を見ているだけで、現実ではないと信じたくなる。


「あんたはここで死ぬ運命だよ」


 そう言った死神は鎌を俺の首に近づける。このままだとマジで鎌で刈られてしまう。そう考えると俺は自然と行動をした。

 全力で走り出した。

 この状況を打開すふには死神から逃げるしかない。アラサーの体力だと厳しいものがあるが、耐えて走るしかない。そうしないとヤバいことになると直感が告げている。

 振り向くと死神が小さくなっていた。

 追いかけてきてない。これは逃げれる。


「ぐへっ」


 振り向きながら走っていたせいで、何かにぶつかってしまう。そして、その衝撃で尻もちをついた。

 顔を上げると────


「はい残念。私からは逃げれないよ」


 笑顔の死神がいた。

 おかしい。さっきまで後ろにいたはずだ。この目で確認した。

 俺の疑問を知っているかのように死神が答える。


「死神は対象の魂に瞬間移動できるんだ。だからいくらあんたが逃げても今みたいになるってこと」

「逃げても無駄ってことか……」

「そうゆうこと。じゃあ素直に刈られて」


 振り上げられる鎌。しかし、俺が切られることはない。死神は振り上げた状態で硬直していた。

 何が起こったのだろうか。分からないが、俺ができることは何もない。ただただ死神が動き出すのを待つだけだ。

 何分経ったのだろうか。やがて死神が鎌を下ろした。もう鎌で俺のことを切る雰囲気はなかった。


「あんた…………」


 そう言うと、死神は再び黙ってしまった。その表情は少し哀しそうだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る