第5話 6月13日
(くるしい、くるしい、くるしい。さむい、さむい、さむい。いたい、いたい、いたい。)
身体の奥から乾涸びてからからだ。もう私が逃げないと確信したのか、最近は鍵すらかけて行かなくなった。毎日毎日、どこに出掛けているのかは知らないが、あいつが居なくなる時間は、本来は逃げ出す絶好の機会となるはずだった。しかし、十分な栄養を摂取していないこの身体は、思ったように動かず、蓑虫のように床で身じろぐことしかできない。
カーテンも閉め切られていて、太陽の光が届かない部屋の中は空気もどんよりと重い。家具は古びたテーブルと椅子が置いてあるのみで、恐らくこの部屋を生活の拠点としては使用していないのだろう。
(はやく、うちへ、かえりたい…。)
朦朧とする意識の中、そればかり考える。最初の頃こそどうやって逃げ出そうかと策を練っていたが、失敗するたびに痛めつけられた。腹を蹴られ、足は折られ、今では起き上がることすら困難だ。
(かえりたい、かえりたい、かえりたい、たすけて、かえりたい、かえりたい、かえりたい、かえりたい。)
ここがどこかも分からない。外に出れたとしても、どこに逃げたらいいのかも分からない。でも、なんとか外に出なければ。
最後の力を振り絞り、腕を前に出しては床を這って進む。少しずつ、少しずつ。ここ数日、あいつが帰ってくるのはいつも日が落ちてからだ。カーテンの隙間から僅かに漏れる陽の光は、まだ太陽が高い位置にある証拠だ。時間にはまだ余裕がある。少しでも進まなければ。
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