第4話 光莉の部屋

 光莉の部屋は階段を上がってすぐの右側の扉だ。ピンクに彩られたネームプレートから女の子らしさが滲み出ている。そっとドアノブに手をかけると、きい、と軽い音を立ててドアが開いた。くまのぬいぐるみ、ピンクのカーテン、筆記用具が散らかったままの机、赤いランドセルが目に入る。光莉の好きなもので出来ている部屋だ。自分の部屋を思い浮かべると、無機質な家具ばかりで、光莉の部屋とは対照的である。実の母親にすら何故光莉と仲が良いのかと疑問に思われたくらいだ。

 光莉は女の子らしい物や可愛いものが好きだった。少女漫画も好きで、少女漫画雑誌をよく購入していた。光莉はその少女漫画雑誌の後半に載っている星座占いを毎月楽しみに読んでいたのだが、次第に占いから星座、その星座にまつわる神話、神話に出て来る神具、呪物、呪術、そこから呪いや怪談へ興味が移っていった。それから一緒にいる時間が増えていった気がする。

 そっと机に手を乗せる。片付けが苦手な光莉らしく、筆記用具がばら撒かれている。鉛筆にはめられているうさぎ柄のキャップは、誕生日に光莉へ贈ったものだった。キャップを見るなり教室で飛び跳ねていた光莉を思い出す。感情があまり顔に出ない自分とは対照的に、光莉は感情を全身で表現する性分だった。光莉は気が付いていなかっただろうが、その姿を見て安心したものだ。

 机に付属している本棚へ目を移す。ノートが数冊、漫画雑誌が数冊立てられている。ノートを1冊1冊人差し指で引き出すと、気になるノートを見つけた。

 ピンク色で花柄のシールがぺたぺたと貼られているノートだ。角が少し縒れているそれには、『怪談ノート』と書かれていた。いつも光莉が持ち歩いていたノートだ。なんて安直なネーミングなんだと馬鹿にした思い出がある。ぱらぱら捲ると、光莉の字が並んでいた。1ページずつ、花子さんやら、くねくねやら、交差点に出る幽霊の話やら、これまで光莉が集めた怪談が綴られていた。読み進めていくと、あるページからぱらりと紙切れが落ちた。膝を折って拾い上げる。それは、探していた『呪いの電話番号』のメモだった。そしてその紙切れがでてきたページは、その電話番号に纏わる怪談話をまとめたものだった。

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