EP32.「シュガータイム」後編
遅刻しないように頑張って走ったが、早朝から妙なトラブルに遭遇し、残念ながら遅刻となった……。
今まで、遅刻しそうで遅刻してこなかった僕だが、とうとう今日、初の遅刻をしてしまった。
畜生……一体、なんだったんだよ、あの赤毛の女の子は……。
昼休み。
映像科学研究部の部室(使われなくなったプールの着替え室)で、西川くんと南城くんと一緒に、ランチタイムをしていた。
僕はコンビニのカレー弁当、西川くんはサンドイッチと無糖コーヒー、南城くんは牛丼チェーン店の大盛り牛丼弁当を3つ食べていた。
食事をしながら、僕は今日の朝、赤毛の女の子に絡まれたことについて話した。
「ほほう。それは、摩訶不思議な話でありますな。本当に知り合いではないのでありますか?」
「うん、全く知らない子……。なのに、つまんねぇーとか、言われたよ……」
「酷い女子でありますな!東園氏は愉快な人間だと言うのに、失礼極まりないでありまする!」
「ハハハ……」
西川くんと会話している時、僕は、ふとあることを思い出した。
「……あ!あのさ……」
「どうしたでありまする?」
「以前、病院の近くで『金髪で白いブレザーを着た少女』を見かけたって言っていたよね……」
「んん?ああ。何故か、ワタクシたちが東園氏の見舞いに行くたびに、病院の近くで見かけた謎の金髪の少女の事でありまするか?」
……。
今朝、出会ったあの赤毛の女の子のせいか、僕は西川くんと南城くんが見たという『金髪の少女』のことを思い出した。
特に理由もないのだが、何故か急にその『金髪の少女』のことが気になり始めた……。
「その金髪の女の子って、どんな感じだったの?」
「んんー……。どんな感じと言われても……白いブレザーを着ていたぐらいしかわかりませんなー……」
西川くんは困った顔で答えた。
本当に、金髪で白いブレザー以外のことは知らないようだ。
「ただ……」
西川くんは口を開いた。
「あの金髪の少女は、なんと言いますか、どこか儚げな印象を受けましたなー……」
「儚げ?」
「それでいて、なんと言いますか……。どこか、申し訳なさそうな顔をしていたでありまする」
「申し訳なさそうな顔?」
「または、切羽詰まっているような表情……という感じでもありましたでしょうかね?」
儚げで、申し訳なさそうな顔をしていて、切羽が詰まっている表情……?
朝に出会った少女とは真逆だな、その少女……。
「んー。とにかく、不思議な少女でありましたな」
「……」
西川くんの話を聞いて、僕は何故か、妙な焦燥感を感じた。
理由はわからないが、僕は何故か、その金髪の少女に会いたいという気持ちにかられていた。
好奇心なのかもしれないが、なにか、別の……違った意味で、僕はその『金髪の少女』が気になって仕方なかった。
一体、その少女は何者だ?
どこに行けば、会えるんだ……。
僕はいろいろと考えた。
「おーい!東園氏ー!東園氏ー!!」
「はっ!」
西川くんの言葉で、僕は現実に戻された。
「どうしたでありまするか、東園氏?急に黙り込んだりして……ハッ!!まさか!!」
西川くんは急に顔が青ざめた。
「ま、まさか、頭をぶつけた時の影響がまだ残っているのでありまするか!?また、意識を失ったのでありますか!?」
普通に考え事をしていただけなのだが、どうやら、西川くんに要らぬ心配をさせてしまったようだ。
「いやいや、違うって!考え事をしていただけだって!考え事を!!」
「そうでありまするか?」
「そうでありまする」
「ほっ……。それなら、良かったでありまするよ」
西川くんは胸をなでおろした。
いかん、いかん……。女の子のことで、ボーっとするなんて……。
……だが、どういうわけか、僕は『金髪の白いブレザーの少女』のことが頭から離れなかった。
「ところで、東園氏。今日の部活はどうするでありますか?映画鑑賞会にするであります?それとも、まだ見ぬ幻の映画を求め、冒険に出るでありますか?」
西川くんがそう言った。
冒険に出る……ただのリサイクルショップ巡りのことである。
要するに、今日の放課後の部活動は映画を観るか、リサイクルショップに行くか、どっちにするかという話だ。
……。
西川くんに申し訳ないのだが、今日の僕は、映画を観る気分でも、冒険をする気分ではなかった。
放課後。
僕は電車に乗っていた。
西川くんと南城くんには悪いのだが、「今日は急な用事があった」と嘘を言い、授業が終わった後、部活動はせず、真っすぐ駅に向かい電車に乗った。
まだ帰宅ラッシュになる前の時間だからか、車内は人が少なく、混んでいなかったので、席に座って窓から街の景色を眺める。
『金髪で白いブレザーの少女』……。
何故か、その少女の事が気になって仕方なかった。
だから、部活よりも、その少女を探すことを僕は優先した。
……だが、電車に乗ったところで、どこの駅で降りて、どこの街に行けば、その少女に会えるのか、全くわからない……。
というか、普通に考えたら、西川くんが「病院で見かけた」と言っていたのだから、病院に行った方が会える確率が高いのではないだろうか……。
もしかしたら、その少女は医学生か、看護師さん……あるいは、誰かの見舞いに来ているのかもしれないし……。
だが、僕は病院には行かず、電車に乗っている……。しかも、病院とは反対方向の。
……。
直感なんだが、もう病院には、その少女は居ないと思う。
自分でも、何故そう言い切れるのか理由はわからないのだが……その少女は、もう病院には居ないと思った。
どういうワケか、そう思ってしまうのだ。
そんな感じで、「あの少女はどこに居るのか?」「どうすれば会えるのか?」などを考えている内に、『本郷町』という駅に電車が到着した。
『本郷町』……。
今まで、一度も行ったことのない町だ。
なのに、僕は何故か、本郷町で電車から降りた。
「え?」
自分で自分の行動に驚いた。
なんで、一度も行ったことのない町で僕は電車を降りたんだ?
……。
どうして、なんだろうか?
さっきから、どうも、僕は変だ……。
自分の考えや行動が理解できない。理解出来ないのに、身体が動いている。
まるで、勝手に身体が動いているような感覚だ……。
僕の頭の中に、もう一人の僕が居て、そいつが僕を動かしているのか?
そんなSF映画みたいなことを考えながら、とりあえず、僕は駅から出て本郷町に入った。
駅前は商店街だった。
この商店街をしばらく進むと、レンタルビデオ屋があり、その向かい側には古本屋の「古本の江野」という店が……。
……。
「アレ?」
思わず、僕は声に出してしまった。
なんで、初めて来た町なのに、僕はここにレンタルビデオ屋と古本屋があると知っているんだ?
しかも、「古本の江野」という店名まで……。
どうしてだ?
ここには、本当に初めて来たはずなんだぞ……。
なのに、なんでこの場所を知っているような気がするんだ?
……。
思わず、僕は走り出した。
何故、この街に来たのか?
何故、この街の事を知っているのか?
何故、僕は『金髪の少女』に会いたがっているのか?
頭の中がゴチャゴチャしていた。
でも、僕は走った。
とにかく、走った。
根拠も理由もないんだが、その古本屋に、『金髪の少女』……『ティア・ゼペリオ・シュガーライト』が居るような気がしたからだ。
僕は彼女に会いたかった。
どうしても、会いたかった。
あの初めて出会った古本屋に、彼女……ティアが居るかもしれない……。
もう一度、ティアに会えるかもしれない……。
僕はレンタルビデオ屋を見つけた。
そして、レンタルビデオ屋の向かい側には……やっぱりだ。
古本屋があった……『古本の江野』があった。
僕は『古本の江野』に駆けこむように入った。
「……らっしゃい」
坊主頭で髭面の中年男性の店主が、そっけなく挨拶をした。
店内に入り、僕は周囲を見渡した。
周りには雑多に本が置かれ、客もまばらに居た。
僕は探した。
金髪で白いブレザーを着た少女の姿を。
……。
どこにも居ない……。
やっぱりというか、当たり前というか……。
金髪の少女がここには居ないとわかっていながら、僕は店内を歩き回った。
すると……。
本棚に妙な存在感を放つ本を見つけた。
『忍者入門書 〜これで、あなたも明日から忍者〜』
……。
こんな変な本に、僕は既視感を感じた。
タイトルからして、かなり胡散臭いこの本……。
僕はこの本に触れようとした時、『彼女』と出会った……。
そうだ……!
僕はこの本を掴もうとして、『彼女』と手がぶつかった……!!
そして、僕は『彼女』……『ティア・ゼペリオ・シュガーライト』と出会ったんだ……!!
僕は本棚にある『忍者入門書』を取ろうと、手を伸ばした。
この本に触れたら、きっと、もう一度……。
もう一度、ティアに……。
ティア・ゼペリオ・シュガーライトに会える……。
そう思った時だった……。
「うぐっ!!」
本に触れようとした瞬間、強烈な頭痛がした。
なんだ、この強烈な頭の痛みは!?まるで、頭の中を万力かなにかで挟まれているかのような!?
頭がスイカのように、割れてしまいそうなぐらい痛い!!
な、なんで、いきなり、頭が痛くなるんだよ……!?
痛い!痛い!痛い!!
僕は両手で頭を抱えた。
吐きそうなぐらいの頭の痛さに、意識がだんだんと遠のいていく……。
なんなんだよ、これ……。
なんで、急に頭が痛くなるんだよ……。
もう少しで、あの子に……。
ティアに会えるというのに……。
なんで、どうして、急に頭痛が……。
痛みに耐え切れず、僕はその場で膝をついた。
だんだん、意識が遠のいていく……。
……。
僕は頭の痛みにもがき苦しみながら、ふと顔を上げた。
「……」
僕の目の前に……。
金髪の……。
白いブレザーの服を着た……。
紫色の瞳をした少女が立っていた……。
……。
僕は、目の前の少女を見つめた……。
ああ。そうだ……。
僕は……。
僕は、君に会いたかったんだ……。
僕は、キミに会いたかったんだよ……。
ただ、会いたかったんだよ……。
……。
少女は、何故か悲しそうな表情をしていた。
どうして、そんなに悲しそうな顔をするんだ?
すると、金髪の少女は僕を見つめ、その紫色の瞳から大粒の涙を流した。
完
シュガータイム 〜映画マニアくんとポンコツ魔法使いちゃん〜 団子おもち @yaitaomodhi78
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