EP31.「シュガータイム」前編

 ……。

 ……。

 ……!


 ハッ!

 僕は目を開いた。

 そして、周囲を見渡す。部屋の中に居るようだ。

 部屋の窓から、太陽の光が差し込む。

 どうやら、今は朝のようだ。

 この部屋にはTVがある。ブルーレイデッキもVHSのビデオデッキもある。

 そして、なにより今まで集めてきたマニアックな映画のブレーレイ、DVD、VHSが置かれた棚がある。

 部屋の壁には、B級ホラー映画のポスター……。


 間違いない……。

 ここは、どう見ても僕のアパートの部屋だ。

 そして、僕は今、ベッドの上に居る。

 枕元に置いてあったスマートフォンを手に取って、電源を入れる。

 ディスプレイには、日付と時間が表示された。


 今日は『2月28日』……今の時間は……ゲッ!!

 しまった!寝坊してしまったじゃないか!!

 僕は慌てて、ベッドから飛び出し、急いでパジャマからブレザーの制服に着替えた。


 そして、朝食も食べずに、急いでアパートから出た。



 ……。

 約一か月前の1月17日の夜……。

 その日、空から奇妙な流星群が大量に降り注いだ。

 僕はその日、中古で買った映画DVDの『仮面ニンジャー対悪魔のトカゲ人間』を観終わった後、窓からその流星群を見ていた。

 その時、僕はどうやら足を滑らせてしまい、背中から倒れ、床に後頭部を強打。

 どうやら、頭の打ち所が悪かったらしく、そのまま意識を失ってしまったらしい。


 あまりにも大きな音だったので、様子を見に来た(あるいは、文句を言いに来た)アパートの大家さんがカギを開け、部屋に入ると、気を失って倒れている僕を発見。

 急いで救急車を呼び、そのまま、病院に入院となったそうだ。

 床に激突した際のショックが強かったせいか、三日間ずっと意識を失い、病室で眠っていたそうだ。

 そして、気づいた時には、僕が居たのは自分の部屋ではなく、病室のベッドの上だったので、メチャクチャ驚いた。

 脳に異常はないが、倒れた際、床に全身を強打したため、身体が所々痛んだ。

 なので、安静のために二週間、病院に入院することになった。

 頭と背中を強く打ったとはいえ、骨折もしていないのに二週間も入院っていうのは長いような気もしたが、お医者さんから「絶対に安静にしなさい」と念を押されたので、大人しく二週間、入院した。


 この時のお医者さん、身体の大きい、スキンヘッドの男性だった。

 かなりインパクトのある外見だったんで、やけに印象に残っている。


 入院中は、西川くんと南城くんが毎日のように見舞いに来てくれた。

 西川くんもあの日、バイトの帰りに流星群を見ていたそうだ。

 だが、その時、流星群に気を取られたのか自転車で転んでしまい、ケガをしてしまう。

 それで、僕と同じように、救急車で病院に運ばれたそうだ。

 しかも、運ばれたのが同じ時間、同じ病院だというのが、変な偶然だった。


 西川くんの方は軽い打撲で済んだのですぐ退院できたが、僕の方はなかなか目を覚まさなかったので、ヤバいんじゃないかと不安になったそうだ。

 心配をかけて申し訳ないと、僕は西川くん、南城くんに言った。


 それにしても、流星群を見て、足を滑らせて、しばらく気を失っていたなんて……。

 ドジというか、なんというか……。


 ……あ。そういえば、西川くんが不思議なことを言っていた。

 西川くんと南城くんが病院に行くと、いつも、病院内か、病院の近くで『金髪で白いブレザーの制服を着た少女』をよく見かけたそうだ。

 僕の見舞いに行くたびに、何故かいつも見かけるので、西川くんも南城くんもその少女を不思議に思っていたそうだ。

 それに、この街には白いブレザーが制服の学校はなかったはず……。

 だとしたら、あの少女は何者なんだろうか?


 さらに西川くんは、こうも言っていた。


『その金髪の少女は、何故か、いつも哀しそうな顔をしていた』


 ……。

 本当に何者なんだろう、その金髪の少女は?

 なんか、気になるな……。




 退院後は、ただひたすら平凡な毎日を過ごしていた。

 いつものように学校へ行き、放課後は西川くん、南城くんと部室(仮)で一緒にマニアックな映画の鑑賞会。

 そして、リサイクルショップで、レアな映画探し……という、高校生らしからぬ、アグレッシブさのない灰色な毎日を過ごしていた。

 なんの変哲もなく、平凡な毎日……。

 きっと、映画にしたら、B級……いや、Z級にもならないような毎日だろうな……。



 そして、今日は遅刻をしてしまい、急いで駅まで向かっているわけである。

 昨日、リサイクルショップで買った中古の映画DVD『悪魔の半身浴~恐るべき健康体~』なんてB級ホラーなんて観たからか?

 変に胸糞の悪い映画だったんで、寝つきが悪かったな……。

 そう思いながら、駅までの道を走っていると……。


「……」


 道の途中で、赤毛の着物服姿の少女が立っていた。

 まるで、僕を待ち構えていたかのように……。

 誰だ、この娘?なんで、着物なんか着ているんだ?

 少女はパーマがかった赤毛で、翡翠色の目をした少女だった。

 それでいて、刺々しい雰囲気が漂っている。


 少女は、まるで僕の行く道を塞ぐようにして、目の前に立ちはだかる。

 僕は思わず、足を止めた。

 なんだ、この子?なんで、僕の行く道を塞ぐんだ?

 少女は僕の顔をジロジロと見つめる。

 ……結構、カワイイ顔をしている子だな……。

 いや、そうじゃない!このままだと、遅刻してしまう!


「あの……。キミ、誰?なんで、道を塞ぐのかな?悪いんだけど、急いでいるから、どいてくれない?」


 僕がそう言うと、少女は露骨につまらなさそうな顔をした。


「……お前。マジで、『記憶』を消されたのかよ……」

「は?」


 彼女の言っている言葉の意味がわからなかった。

 『記憶を消された』……?

 なんで、急にSFじみた話をするんだ、この子?

 誰かと勘違いしているのか?

 それとも、ちょっと……なのか?

 僕がこの少女について、いろいろ考えていると……。


「ようやく面白そうなヤツを見つけたと思っていたのに……。ソフィアの野郎、つまんねぇことしやがって……。ああー、つまんねぇ……」


 少女は舌打ちをした。

 そして、


「どけ……邪魔」


と、少女は僕を睨みながら言った。

 ええー?

 いきなり、人の足を止めたくせに、なんでそっちから「どけ」と言われなきゃならんのだ?

 だが、あまりにも少女の圧が凄かったので、僕は身体を横にズラして道を譲った。

 仏頂面で少女は、僕の横を通り、そのまま去って行った。


 ……。


 少女の背中から、とてもイライラしている感じが伝わる。

 なににイライラしているのかはわからないが、まるで予告編で期待していた映画が、実際に観たら大外れだった時のような……そういう感じだ。

 一体に、なににイライラしていたのか?


 ……もしかして、僕のせいなのか?


 いやいや、僕が、あの子になにをしたっていうんだ?

 僕はあの子を知らないし、今まで会ったこともないんだぞ。

 なのに、なんで、『ダイヤ・ソリッド・シュガーライト』はあんなにイラついてい……。


 ……。


 ……?

 僕は強烈な違和感を感じた。

 なんだ?今の?

 今、僕の頭の中になにかが……。

 さっき、『ダイヤ・ソリッド・シュガーライト』って、名前が頭に出てきたのか?

 なんだ、これ?

 人の名前なのか?まさか、さっきの少女の……。


 !!


 あっ!いや、今はそれどころじゃない!!

 学校に遅刻してしまうじゃないか!!

 僕は再び、走り出した。

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