EP.25「シンプル・イズ・ベストなのです」

 私はズタボロで真っ赤になった手を一旦、止めます。

 この閃きが上手く行けば……西川くんにへばり付いたトカゲたちを、一瞬で吹き飛ばすことができます。

 そして、電撃と違い、西川くんの身体にダメージを与えることもありません。

 ですが……、失敗ばかり繰り返している私に出来るのでしょうか……?

 状況を悪化させてしまうだけではないのでしょうか?


 私がそう考えている間にも、次々とトカゲの群れが西川くんの身体を覆っていきます。

 今は、考え込んだり、悩んだり、凹んだり、落ち込んでいる場合ではありません。

 私が手を止めている間にも、西川くんは苦しんでいます。

 このトカゲたちを一瞬で吹き飛ばせる可能性があるのなら、今はそれをやってみるしかありません!

 出来なかったら、この両手がなくなっても、私は西川くんの身体からトカゲが消えるまで、手を動かし続けます!


 私はボロボロの両手で顔を叩きました。

 きっと、私の頬は血で染まっているでしょう。

 そして、


「あああああーーー!!!!」


と、気合の雄たけびを上げます。


「なんだ?なんだ?気でもおかしくなったか!?」


 リザリザの声を無視し、私は頭に浮かんだ閃きを実行します。


 まずは、両手で何匹かのトカゲを西川くんの顔から一気に引き離します。

 傷だらけになった西川くんの顔が見えました。

 トカゲの群れが彼の顔を覆う前の、この瞬間がチャンスです。

 ですが、もし、しっぱ……いや、絶対に成功させます!

 少しだけ見えた西川くんの顔に向けて、右手に魔力を集中させます。

 そして、魔力をある形へと組み上げていきます。


「おお?もしかして、魔法でトカゲを吹っ飛ばす気?だけど、キミ、さっき見た感じだと、電撃も、水も上手く出来ないようだけど、だいじょ……」


 リザリザが私に話しかけてきたので、思わず、


「うるさい!黙ってろ!!!」


と叫びました。

 人が集中して魔力を組んでいる時にうるさいです!

 それに、今、私がやろうとしているのは『電撃』でも『水』でもありません。

 右手の集中した魔力が一つの形に組み上がりました。


 今だ!!


 私は組み上げた魔力を右手に充填します。

 そして、その右手でトカゲの群れから露出した西川くんの顔に触れます。

 私が組んだ魔力が、西川くんの顔に張り付きました。


 お願い……!!上手く行って!!!


 私は祈りました。

 どうか、この方法が上手く行くことを……。

 西川くんが助かることを。

 そして……。


 バァアアーーーン!!!


 リザリザは驚いていました。


「嘘……でしょ?」


 私も驚きました。

 ですが、同時に安堵しました。


 西川くんの全身を覆っていたトカゲの群れが、四方八方に吹っ飛んでいきました。

 まるで、この公園にある噴水のように。

 大量のトカゲが、まるで雨のように地面に叩きつけられていきます。


 私の閃きは上手く行きました!

 一瞬にして、西川くんの身体から大量のトカゲを引き離すことに成功したのです!


 しかし、まだ安心はできません。

 トカゲが離れても、西川くんの全身はボロボロです。服も皮膚も。全身がトカゲの牙や爪でズダズダにされていました。眼鏡も割れています。

 呼吸はありますが、意識はなくなっている様子でした。

 私は右手を西川くんに向けます。


「解除……」


 そう言ってから、私はすぐに彼の頬に直に触れ、自分の魔力を送り込み治癒魔法を行います。こうすることで、彼の身体の自然治癒力を活性化させるのです。

 ですが、受けた傷が多いのか、少々、彼の傷が直りが遅いです。

 また、私の両手も先程、大量のトカゲを払ったからか、痺れています。


「なにをやった……?」


 リザリザがそう言いました。

 私は振り向きます。

 リザリザの顔は、さっきまでの涼し気で余裕のある表情ではなくなっていました。


「なにをやったって、聞いてんだよ!!このガキ!!」


 険しい表情で、リザリザは吠えます。

 トカゲの群れを吹っ飛ばされて、悔しかったのでしょうか、表情から怒りが滲み出ています。

 そもそも、トカゲは群れはこの男の魔法です。魔法を破られて悔しいのでしょうが、そんなこと、私にはどうでもいいことです。


 ……でも、この男は私に『サービス』と言って『忠告』をしてくれました。

 あの『忠告』がなかったら、私は西川くんの危機に気づかないでいたままだったかもしれません。


 本当に私はバカです。


 なので、敵に『忠告』されたままで居るのも気分が良くなかったのと、自戒の意味も込めて、私がなにをしたかを伝えることにしました。


「簡単な『結界』と『トラップ』魔法を使っただけです……。上手く行くかわかりませんでしたけど、上手くいきました。シンプルで幼稚な結界とトラップでしたけど……」

「結界!?トラップ……だと?」

「そうです……。簡単な『結界』と『トラップ』を西川くんの身体そのものに張ったのです。この結界はシンプルに『西川くんに触れたモノは、吹っ飛ばすという仕組み』で組みました」


 リザリザは悔しそうな顔をしました。


「なっ!?そ、そんな幼稚な結界で、俺のトカゲちゃんたちを吹っ飛ばしただと……!?」


 電撃などの魔法でトカゲを攻撃すれば、西川くんの身体に危険が及びます。

 なので、西川くんの身体に結界と即効性のトラップを仕掛けました。


 つまり、彼の身体そのものを『結界』と『トラップ』にしたのです。


 それにより、西川くんに触れたモノ……生物、物質、または魔法で作った物などは、なんであれ、すべて吹っ飛ばすという仕組みにしました。

 シンプル故に、上手く行きました。

 身体がトラップそのものになった西川くんに触れていたトカゲの大群は、見事に吹っ飛びました。


「もう一度、言います!シンプルで幼稚な結界とトラップで、あなたのトカゲを吹っ飛ばしました!!」


 私は大きな声で言ってやりました。

 リザリザは悔しそうな顔をしています。


 ……ですが、西川くんの意識が戻りません。さっきは少しだけ戻ったというのに。

 彼の頬に触れ、魔力を送り続けているというのに傷の直りも遅いのです。

 それに気のせいか、私の手の痺れもだんだんひどくなってきました。

 無茶をしすぎたのでしょうか?ですが、まだ私の魔力は残って……。


 バタン。


「アレ?」


 気がつくと、私は仰向けなって倒れてました。


 え?ウソ?なんで?

 なんで、私は地面の上に仰向けに?

 今まで、西川くんに治癒魔法を行っていたのに。

 疲れてはいます。

 でも、まだ体力はあります。魔力だって使い切っていません。

 なのに、なんで?


「あ、ああ……ま、まさか……」


 視界には入ってませんが、今の私を見て、嘲笑うリザリザの顔が目に浮かんできました。

 私は自分の身体になにが起きたのか、だんだん気づいてきました。


 身体が……身体が痺れて、動けなくなっているのです!

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