EP.24「私は魔法使い失格です」

 紺色の帽子……紺色の制服……。

 間違いなく、病院に居たあの警備員……いや、『強盗』です。

 そして、肩には、また小さなトカゲが乗っています……。


 私は焦りました。

 予想していたよりも、早く『強盗』が来てしまったのです。

 強盗は帽子を脱いで、その場に捨てました。すると、地面に落ちる前に青い粒子になって霧散し、消えました。

 茶色い髪の毛で、耳には沢山のピアスをつけています。


「あーあー、俺の大事な大事なトカゲちゃん1号を消してくれちゃって……。でも、1号チャン、ちゃんと役目を務めてくれたし、ま、いっか」


 男は着ていた制服をパンパンと叩くと、制服が霧散していきます。

 すると、男の服装は蛇柄の革のジャケットに、黒い革のズボンと黒い革靴に変わりました。

 元々、着ていたのが、あの服で、警備員の制服は魔法で作った物だったようです。

 男は涼し気な顔でした。まるで、この星のTVに映るイケメンのタレントさんのようでした。


 だからこそ、余計に不気味です。


 私たちがここに居るのは、さっきのトカゲからの魔力でわかったんだとは思いますが、どうして、病院からこんなにも早くここに来れたのでしょうか?

 私は右手を向けます。


「おおっと!!」


 男はわざとらしく驚いて、両手を上げています。

 このまま、電撃を放とうかと思いました。

 ですが、何度も威力の加減に失敗しているので、もし、このまま電撃を放ってしまったら、いくら『敵』であっても死なせてしまうかもしれません。

 だから、敵であっても電撃は撃てません。

 あくまで、牽制するだけです。


「あなたは、ロード・ストーンを奪った強盗団の一人なんですか!?」


 私は右手を敵に向け、叫びます。

 敵は両手を上げながら、

 

「うん。そーだよ。ロード・ストーンを奪った強盗団『ブレイクソルト』の一員でーす!」


 敵は緊張感なく、そう言いました。


 『ブレイクソルト』!?


 それが、強盗団の名前なんでしょうか?

 初めて聞きました……。

 この星に来る前。パルフェガーディアンズの招集でも、『ブレイクソルト』という名前は聞いていません。

 再び、男は口を開きます。


「そんでもって、俺の名前は『リザリザ・リザルド』。『ブレイクソルト』のメンバーの一人。好きなものは、ワカメとかめかぶのようなヌメヌメしたもの!嫌いな物は乾いたもの!クッキーとか、マカロンとか最悪!」


 男はいきなり自己紹介を始めました。

 な、なにを考えているのでしょうか?

 こんな状況下で、いきなり自分の名前を名乗るなんて……。

 わけがわかりません。

 ……アレ?なにか、既視感を感じる……。

 いやいや、そんなことより、何故この男が自分の組織の名前を言ったのかがわかりません。

 『リザリザ・リザルド』と名乗った男に、私は質問を投げるにします。


「ロード・ストーンを奪ったのは本当にあなたたち、『ブレイクソルト』とかいう組織なんですか?」

「そうだよー」

「あなたたちが乗っていた宇宙船が爆発したのは何故です!?」

「なんでかな?」

「宇宙船には何人、乗っていたのです!?」

「教えない。それ教えたら、キミたちに敵の人数を教えることになるじゃん」


 男は……いや、リザリザは私の問いに緊張感なく答えます。

 本当に不気味です。そして、私を苛立たせます。

 この余裕、一体なんなんでしょうか?

 そして、私は最も気になっていることを聞きました。


「どうして、ロード・ストーンを盗んだんですか!?」


 すべての事の始まりであるロード・ストーンの強奪。

 この『ブレイクソルト』という強盗団が盗んだせいで、(理由はわかりませんが)ロード・ストーンは爆散。『カケラ』となって、この星に降り注ぎました。

 そして、西川映作くん、東園奏太くんは『疑似魔法使い』になってしまい、危険な状態になってしまったのです。


 私は、許せませんでした。

 こんなことをした強盗団も。強奪に加わった者たちも。


 私の問いに対し、リザリザは涼しい顔をしていました。

 そして、口が開きました。


「なんでかな?」


 リザリザはそう言ったあと、口笛を吹きました。

 私の中で、なにかがカチンと音を立てました。


 バチ!バチ!!バチバチバチ!!!


 リザリザの態度に、私は腹を立ててしまいました。

 私の怒りに反応してしまったのか、右手に魔力が集中してしまい、右手のひらからバチバチと火花が飛び始めました。


「おおっ!怖っ!!」


 リザリザは、またわざとらしく驚きました。

 この人、本当に人の神経を逆なでるのが得意なようです。

 ですが、こんな人であっても、私は電撃を撃つつもりはありません。

 我慢です。冷静になるんです、私。

 今、怒りに任せて加減もせずに電撃を放ってしまったら、いくら許せない相手であっても死なせてしまうかもしれません。


 私は『困っている人を助けたり、守るため』に、パルフェガーディアンズに入ったのです。


 人を傷つけるためでありません。


 例え、それが『強盗』だったり、『悪人』だったとしても。

 だから、今、この力はあくまで牽制のために使うのです。


 とにかく、冷静に落ち着いて、もう一度聞くのです。

 誇り高きパルフェガーディアンズの一員として、相手の話を聞くのです!


「もう一度、聞きます……。どうして?どうして、ロードストーンを盗んだのですか!!?」


 大きな声で私は、リザリザに聞きました。

 リザリザは真顔になりました。さっきのように、余裕のある涼しい顔はしていません。

 私の質問に答えてくれる気になったのでしょうか?

 リザリザの口が開きました。


「時間稼ぎのため……」


 ……。

 え?

 リザリザの言っていることの意味がわかりませんでした。

 もう一度、リザリザは口を開きます。


「あのさー。キミー……。本当にパルフェガーディアンズの人?鈍くない?あんまりにも鈍いからサービスで忠告しとくけどさ、俺の事より、もっと気にしなければならない人が居るんじゃないの?」


 リザリザは呆れた顔でそう言いました。


 あ。


 私の背筋が凍りました。

 リザリザがここに来た時、彼の肩には小さなトカゲが乗っていました。

 ですが、今、リザリザの肩にはあのトカゲが居ません。

 そして、悔しいけど、彼の言う通りです……。

 私は、なんてバカなんでしょうか……。パルフェガーディアンズ失格です……。

 いや、パルフェガーディアンズ失格どころか、もはや、魔法使い……人間失格レベルの問題です。

 リザリザを牽制する前にすべきことがあったのに、頭に血が昇り、すっかり失念してしまったのです。

 西川映作くんの無事を確保することを……!


「西川くん!!」


 私は西川くんが座っているベンチの方に、顔を向けました。

 西川くんが座っていたベンチには……。


 大量のトカゲが居ました。

 数えきれないぐらい、多くの小さなトカゲが。

 おびただしいほどに大量のトカゲが塊になっていました。

 そして、そのトカゲの群れは人の形をして……。


「ああああああーーーーー!!!!」


 私は大声をあげて、そのトカゲの塊に向かいました。

 トカゲが!大量のトカゲが!数えきれないほどの多くのトカゲが!!

 いつの間に、いつの間にか!

 西川映作くんの身体を覆っていたのです!!


「西川くん!西川くん!!」


 全身がトカゲに覆われた西川くんは、ベンチから滑り落ち、そのまま倒れました。

 横になった彼の身体は、頭から足のつま先まで大量のトカゲに覆われていました。

 私は倒れた西川くんに近づいて両膝をつき、急いで西川くんの身体を覆う大量のトカゲを手でむしり取るように、何匹か掴み、掴んでは投げ、掴んでは投げを繰り返しました。


 私のせいだ!私のせいで、こんなことに!!

 あんなヤツに気を取られていたせいで、西川くんがこんな目に!!

 あの男、リザリザは『時間稼ぎ』と言っていました。

 私はそれに引っかかってしまったのです。

 アイツは私と話している間、大量のトカゲを魔法で作り出し、西川くんを襲っていたのです。


 それに、気づかなかったなんて……!!


 トカゲを何匹か手で払うと、西川くんの顔が見えてきました。トカゲや牙の爪のせいか、顔に無数の傷が……。

 なんてことを!

 大量のトカゲに襲われてショックを受けたのか、呼吸はありますが、西川くんは白目を剥いて気絶しています。

 トカゲの群れは、次々と西川くんの顔を覆うようにして動きます。

 その度に、私は彼の顔にひっついてくるトカゲを何度も何度も手で払いました。

  

「西川くん!西川くん!!」


 西川くんの名前を何度呼んでも、返事はありません。

 本当に私は大バカです!

 どうしようもないほどの大バカ者です!!

 目の前に現れた強盗団のメンバーよりも、まず先に、強盗団のターゲットである西川くんの無事を確保すべきだったのに!!

 リザリザが現れた時、すぐに西川くんと一緒にここから離れるべきだったのに!!

 私は、リザリザの方に注意が行って、西川くんのことを忘れてしまったのです!

 最低です!本当に最低です!!


 私は、あまりの自分の情けなさに涙が出てきました。

 泣きながら、西川くんの顔にひっついてくるトカゲを掴んで投げます。

 手から血が出ました。トカゲの牙か、爪で切ったのでしょうか。

 でも、そんなこと、どうでもいいのです!!

 早く!早く!!なんとかしないと!!


「アハハハハハ!!!すっげぇ、無様だな、オイ!!ブアハハハハ!!!」


 リザリザは大きな声で笑っています。

 ですが、今の私にはそんな笑い声に腹を立てる余裕も、耳にする余裕もありませんでした。

 私はひたすら、トカゲを払い続けます。

 トカゲはいくら払っても、次々と現れてきます。

 リザリザが、次々と『魔力』でトカゲを作っているからです。

 このまま、手で払い続けてもキリがありません。


 ……ここは、魔法を使うしかありません。


 でも、私の電撃魔法は失敗続きです……。

 今、西川くんの身体を覆っている大量のトカゲに電流を流して、追い払うことが出来ても、その電気ショックで西川くんの身体がどうなるかわかりません。

 ただでさえ、彼の身体はボロボロになっています。そこに電気を流してしまったら……。

 失敗は絶対にできません。だから、今、電撃は使えません。

 他にこの状況を打破できる魔法はないか、私は必死で考えました。

 どうすればいいのか考えながら、私は両手でトカゲを払い続けますが、そんな私を嘲笑うかのように、トカゲは次々と増えて行きます。

 私の両手はトカゲの爪や牙によって皮膚がズダズダに裂け、血塗れになっていました。

 私はリザリザの方に首を向けます。


「このトカゲを止めて下さい!!彼の身体が危険です!!お願いです!!やめて下さい!!」


 私は、情けなく敵であるリザリザに魔法を止めるように懇願しました。

 しかし……。


「やだよー。べーっ」


 リザリザは舌を出して、笑いました。

 私は頭に血が昇ってしまいました。


「ふ、ふざけるな!!」


 思わず、大きな声で叫んでしまいました。

 ですが、リザリザは笑いながら、


「口より手を動かしたら?これは、キミのミスなんだから……」


 !?

 そう言われると、私にはなにも言えませんでした。

 本当にその通りです……。

 優先すべき人間を優先せずに、敵を優先してしまった私のミスなんですから……。


「うあああああーーー!!!!」


 私はおかしくなってしまいそうでした。何度も、何度も、何度も西川くんの顔からトカゲを引き離します。

 西川くんの顔が見えたと思ったら、すぐまた大量のトカゲが覆い被さり、そして、手で払うたびに、西川くんの顔には次々と傷が増えて行きます。 

 このままでは西川くんが、西川くんが……。

 私の目から涙がこぼれ来ました。


「助けて……!」


 思わず、口から漏れてしまいました。


「あん?」


 リザリザに、私の声が聞こえてしまったようです。


「誰か、助けて!!助けて!!」


 私は情けなく、泣きながら大きな声で叫んでしまいました。

 大量のトカゲによって塗りつぶされた西川くんの姿と、どうにもならない絶望感で私の心は折れてしまいました。


 ソフィアリーダー!私はここにいます!助けてください!!

 ライラさん、エイグルくん、ダイヤさん、助けて!!

 誰でもいいから、お願い!助けて!!

 すると、


「ブッ!!ブアッハハハハハハ!!!」


 リザリザは大きな声で笑いました。


「オイオイオイ!!パルフェガーディアンズの一員のくせに、ベソかいて、人に助けを乞うのかよ!!ブアハハハハ!!!」


 もう、私は自分がパルフェガーディアンズの一員であるとか、プライドとか、そんなものはどうでも良くなってしまいました。

 ただ、西川くんを……。


 彼を救いたい!!


 それだけしか、もう頭にありませんでした。

 お願い……!誰か!誰か、助けて!!

 私がそう願うと、


「誰か……」


 大量のトカゲの中から、弱々しい声が聞こえてきました。

 それは、まるで残った力を絞り出すかのように、弱々しい声でした。


「誰か、誰か助けてくれでありまする……」


 この声は……。


「助けて、くださいでありまする……」


 西川くんの声です!!


「西川くん!!」


 トカゲに埋もれながらも、彼は意識を取り戻したようです。

 ですが、声を聞く限り、彼はかなり衰弱しています。

 こんなに大量のトカゲに覆われながらも、彼は必死に生きようと戦っている……!

 私は再び、手を動かしました


「絶対に助けます!!絶対に助けますから!!」


 西川くんの声を聞いて、私はもう一度、手を動かします。

 次々と出現するトカゲは私の手に噛み付いたり、爪で引っ掻いたりします。

 それでも、私は手を止めずに、西川くんを覆う大量のトカゲを引き離します。


「マジかよ……。すげぇ」


 リザリザは驚いているようでした。

 ですが、どうでもいいです。

 消えかけている蝋燭の火なような西川くんの命を、私は全力で絶対に助けます。

 なにがなんでも、私は彼を助けます!!


「あ!」


 この時、私の頭の中で一つの閃きが生まれました。

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