EP.22「私はポンコツな魔法使いです」
私が居た地球と、この星は非常によく似ています。
ですが、この星には、私たちの星に居るキメラやオークのような怖い生物は居ません。
それ以外は、私の居た地球とほとんど同じ動物たちがこの星には居ます。
カラスやハト、トカゲやカエル、蜘蛛やコークロッチも……私の居た地球に居ます。
だからこそ、おかしいのです。
今、この星は冬の季節になっているはずです。
この城宮県億台市にはあまり雪は降っていませんが、間違いなく、今、この星は冬の時期です。
なのに、さっき、トカゲが病室の床に居ました。
おかしいです。
トカゲは冬になれば、冬眠しているはずです。
この星のトカゲは、冬眠しないのでしょうか?
冬のトカゲを見たせいか、また私の中でもう一つ、疑問が生まれました。
結界に触れ、トラップを発動させたのは西川映作くんです。
それは間違いありません。
でも、今さっき、この目で見るまで、誰が結界に触ったのかわからない状態でした。
私は結界を通し、魔力で病室内を把握することが出来ます。実際に病室には女性の看護師さんが三人、入ってきたのがわかりました。
ですが、結界に触ったのが、西川映作くんだということがわかりませんでした。
まるで、霧がかかったかのように、結界から病室の内部が見えなくなったからです。
これは、ジャミング系の魔法……つまり、『妨害系魔法』です。魔力センサーや視界などを見えなくさせる魔法です。
もしかして、西川映作くんが使った……?
いや、そんなわけがありません。
西川映作くんは『擬似魔法使い』です。
『擬似魔法使い』は、自分の願いを叶える魔法しか使えないはず。
なので、ジャミング系の魔法を使えるはずがありません。
むしろ、彼はジャミング系の魔法の存在すら知らないでしょう。
というより、そもそも、西川映作くんは魔法すら知らないはずです。
彼は無意識に魔法で物を作り続け、魔力が尽きて倒れたのです。
それで、ずっと病院で治療を受けていました。
なので、『カケラ』や『魔法』について、まだ誰からも説明を受けていないはずです。
ですが、一応、聞いてみましょう。
「あの、西川映作くん……」
「え?は、はいであります。あなた、急に頭を抱えたり、急に謝罪したり、急に静かになったりと、忙しい方でありますな……」
「あなた、ジャミングは使えますか?」
私がそう聞くと、彼は……。
「ジャミング?……ええ、知ってますとも……」
え!?
「ジャミングって、通信機やレーダーなどを妨害する装置でありましょう?戦闘機が出てくる映画に、よく出てくる装置でありますよー。トミ・ハンバーグ主演の映画『トップサンダー』にも出てきますしー……」
西川映作くんがなにを言っているのかはわからないですが、少なくとも、魔法のジャミングについての話ではないようです。
「あ、もしかして、ミュージシャンのジョン・ジャミングのことでありますか。ワタクシ、大好きでありまする」
やっぱり、西川映作くんはジャミング系どころか、魔法そのものを知らない。
じゃあ、一体、誰がジャミング系魔法を使ったのでしょう……?
コツン!コツン!と、廊下から足音が聞こえました。
誰でしょうか?
私は二つの疑問を一旦放置し、病室から出て、廊下に立ちました。
ソフィアリーダーが来てくれたのでしょうか?
あるいは、今になって強盗団が……?
「おや、どうかしましたか?」
廊下には居たのは、ライトを持った二十代ぐらいの男性でした。
紺色の帽子を被り、同じ紺色の制服を着ています。
たぶん、この病院の警備員の方です。
見回りに来たのでしょうか?
警備員の方は、こちらに近づいてきます。
……。
あっ!いけない!!
患者でもない私が夜の病院に居るのは、明らかに怪しいです!
なにか言い訳をしないと!
しかし、言い訳を考えている暇もなく、警備員の男性が私の前に立ちました。持っているライトをあちこちに向けます。
そして、開きっぱなしになっている西川映作くんの病室をライトで照らしました。
「キミ、ここでなにをやっているの?」
警備員さんは私が着ているブレザーの服にライトを当てます。
「キミ、その服装だと、看護師さんじゃないよね?」
「あ、えっと、そのー……私は、そのー……」
しまったー!
警備員さんや看護師さんに見つかった時の言い訳を全く考えていませんでした……。
本当に自分のポンコツっぷりが嫌になります……。
すると、警備員さんは、
「『パルフェガーディアンズ』のメンバーなんだろ、お前?」
と言いました。
……。
え?
私は自分の耳に入ってきた言葉が、一瞬、理解出来ませんでした。
チョロッ。
同時に、私は目を疑いました。
警備員さんの肩に小さな『トカゲ』が乗っています。
さっき見たトカゲと同じような……。
そのトカゲは、まるで私をじっくりと見つめているようでした。
呆然としている私に、警備員さんはまた口を開きました。
「お前かぁ?あの結界を張った魔法使いは?シンプルで幼稚な仕組みの結界だから、ドアを見ただけで結界が張られてあるのがわかったけど、なかなか効果はあったぞー。おかげで、この病室に入ることが出来なかったんだからなー」
ヤバイ、です。
私の直感がそう言いました。
「シンプルな結界だから、解除しようかと考えたけど、もし失敗して下手に触れたら、即トラップ発動だもんなぁー。ホント、どうするか困ったわー」
警備員さん……いや、警備員さんの姿をした『何者』かが、話を続けます。
「外の窓をぶち破って、中に入ることも考えたけどさー。さすがに、ここ病院じゃん。俺も人の子よ。患者さんたちが居る夜の病院で騒ぎを起こすなんて、酷いことしたくないわけよ。あ、一応、アドバイスしておくけど、今後は窓にも結界を張っておいた方が良いぞー。二つの結界を作り出せる技術があればの話だけど」
私は考えました。
どう動くべきかを。
「んで、どうしようか悩んでいる時に、このメガネのガキがトラップに引っかかってくれたわけ。助かったわー。やっぱ、トラップを解除するなら、トラップを仕掛けた本人に解除させた方がベストじゃん。お前が今こうして来てくれたおかげで、ドアが開いてくれた……」
私は西川映作くんに向かって、走り出しました。
ヤバイです!!
まさかとは思いましたが、やっぱり、そうでした!
やっぱり、『強盗』が現れました!!
今、目の前に!!
「あ、ちなみにジャミングしたのはさ、病室の様子を見えなくしたら、すぐに来てくれると思ったからよ。このメガネがトラップに引っかかっただけだとわかったら、そのまま放置される可能性もあるっちゃあるわけじゃん。病室の中が見えなきゃ、不安になって仕掛けた本人が確実にすぐ来てくれるだろうと思ってなぁ」
なにがなんだか、わけがわかっていない様子の西川映作くん。
「あの、ティア・ゼペリオ・シュガーライター氏……さっきから、あの警備員さんはなにを言っているのですか?」
「あの人は警備員さんではありません!!『敵』です!!」
私は、急いで西川映作くんの左腕についてある点滴とスタンドを外しました。
「痛っ!なにをするであります!?」
「ごめんなさい!事情は後で話します!」
そして、私は西川映作くんの腕を掴みました。
すると、警備員姿の強盗は笑いました。
「そうそう!俺は、敵!悪者!!メガネくんのハラワタから、『ロード・ストーン』の『カケラ』を盗みにきた『強盗』さんよ、あははは!!」
私は西川映作くんの腕を掴んで、病室から出ようと思いました。
しかし、ドアの前には強盗が立っています。
ここで戦闘になるのだけは、絶対に避けたいです。
強盗はさっき騒ぎを起こしたくないとは言っていましたが、そんな言葉、信用できません!
だって、明らかに怪しいからです!!
なにか仕掛けてくるかもしれません!
ドアから出るのはダメです!
そうなると、今、私と西川映作くんがここから出る方法は……。
「この場合だと、窓から出た方が良いよなー。病院からエスケープもできるし」
強盗が嘲笑うかのように言います。
悔しいけど、その通りです。
病院での戦闘だけは絶対に避けなければいけません。
だから……。
「……窓から出ます」
私はハッキリ言いました。
「え!?ちょっ!一体、なんなんでありますか!!窓から出るって!!え、窓から出るんでありますか!?」
西川映作くんは、激しく混乱し、狼狽しています。
いきなり、わけのわからない状況になったので、彼がこうなる仕方ありませんよ……。
でも、私は窓を開けました。
冷たい風が病室に入り込みます。
「本当に窓から飛び降りるんでありますか!?」
西川映作くんの青白い顔が更に青白くなりました。
私は西川映作くんの腕を掴み、
「はい、窓から飛び降ります!」
「ウソー!!でありまする!!」
窓から飛び出しました。
西川映作くんは声にならない大きな叫び声を上げます。
私は窓から出た際、後ろを振り返りました。
警備員姿の強盗は、さっきほどから1mmも動いていません。ただ、ニヤニヤと笑っているだけ。
私たちを追ってきません。
それが不気味でした。
アレ?さっき、あの強盗の肩に乗っていた小さなトカゲが居なくなって……。
そんなことを考えている間に、この星の重力によって、私と西川映作くんは落下しています。
「落ちる!落ちてる!落ちてるでありまする!!」
下を見ると、固そうなコンクリートの地面が見えます。
このまま落下したら、大怪我をするでしょう。
しかし、私は『魔法使い』です。
近づいてくる地面に向けて、手を向けました。
魔法を使います!
「うわあああーーー!!!」
私と西川映作くんは、地面に落下しました。
ですが、地面は私の魔法により、ゴムか、プリンのように柔らかくなりました。
「アレ?」
西川映作くんは驚いています。
それはそうです。落下した地面が柔らかくなり、落下の衝撃を吸収したのですから。
しかし、私はやっぱり、ポンコツでした。
地面が柔らかくなったのは良いのですが、柔らかくなった地面がトランポリンのように反発してしまい、私と西川映作くんの体は宙に飛びました。
そして、そのまま、地面に激突。背中を打ちました。
怪我はしてませんが、痛かったです。
私と西川映作くんは痛みを堪え、なんとか起き上がりました。
「だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫じゃありませんよ!!」
西川映作くんはズレた眼鏡を直しながら、叫びました。
どうやら、無事みたいです。
ちょっと怒っていますが……。
「いたたた……であります」
「ご、ごめんなさい……」
西川映作くんは、自分の腰をさすっています。
いや!今は、痛がっている場合ではありません!!
今すぐ、ここから移動しないと!!
私はまた西川映作くんの腕を掴みます。
「とりあえず、逃げましょう!」
「一体、なにがどうなって、こうなったのでありまするか!?説明をしてくださいであります!」
「逃げ切ってから、説明しますんで、とりあえず走ってください!!」
私は強引に西川映作くんを走らせました。
そして、私も走り出します。
走りながら、ブレザーの内ポケットから小型の『通信機』を取り出しました。
この通信機は、この星のスマートフォンというツールと似た形をしています。
「リーダー!ソフィアリーダー!!こちら、ティア・ゼペリオ・シュガーライト!応答お願いします!!」
通信機に反応は全くありません。
あ!そういえば、あの強盗、ジャミング魔法を使ったと言っていました!
さっき、あの強盗は結界から病室内を見えなくするためにジャミングを使ったと言っていましたが、同時に、私がリーダーや仲間たちと連絡が出来ないようにするために!?
そう思っていると、通信機のスクリーンにヒビが入ってきました。
そして、通信機はボロボロと部品や破片を落としていきます。
……。
あ、もしかして、さっき地面に叩きつけられた時に壊しちゃった?
……。
どうしよ……。
どうやら、私、一人でなんとかするしかなさそうです。
それにしても、ソフィアリーダー。来るのが遅いです。もう、とっくに来ても良いはずです。
それに、リーダーならテレパシーで連絡をすることが出来るはずなのに。
まさか……。
嫌な考えが頭に浮かびました。
ですが、強盗が現れた今、そう考えるしかありません。
『他にも強盗が現れた……』
もしかしたら、ソフィアリーダーは今、その強盗と戦っているのでは!?
もし、そうだとしたら、本当に私一人でなんとかしないと……。
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