EP.21「私はティア・ゼペリオ・シュガーライト」
私、ティア・ゼペリオ・シュガーライトは、県立加美野町病院に向かっています。
外は寒いですが、そんなこと気にしている場合ではありません。
とにかく、急がないと。
私は自分の両脚を魔力で強化して、病院まで走っています。
今、『カケラ』が体内に入っている西川映作くんの居る病室に誰かが侵入したのです。
私は彼の病室を訪ねた際、ドアに『結界』を張っておきました。
この結界は、魔力を持った人間が触れると『束縛魔法』が発動するように組んであります。
更に、この結界は私の魔力で作られているので、感覚で誰が西川映作くんの病室に居るのかを把握できるようになっています。虫が入ってきたってわかります。
今のところ、病室には魔力を持たない普通の女性看護師さん三人が食事を持ってきたり、食器の回収に来たり、様子を見に来ただけです。
ですが、数分前。魔力を持った『何者か』がドアに触れました。
それによって、結界に仕掛けてあった束縛魔法が発動。
誰が触れたのかが、何故かわかりません。
どうやら、ドアに触れた何者かが、自分の姿を感知されないように『妨害魔法』、別名、『ジャミング魔法』をしたようです。
なので、誰が触れたのかを感覚で感じ取ることが出来ないのです。
だから、私は急いで西川映作くんの居る病室に向かっています。
たぶん、侵入してきたのは、私の父、ロード・シュガーライトが発見した『ロード・ストーン』を奪い、宇宙船でこの星に逃げてきた『強盗団』だと思います。
強盗団が何人居るのかはわかりませんが、ロード・ストーンを奪った彼らの宇宙船はこの星の上で爆発しました。原因と理由はわかりません。
ですが、宇宙船に乗っていた強盗団は、宇宙船が爆発する前に脱出しており、そのまま、地球へ降りて行ったそうです。
この星にテレポートする前に、父、ロード・シュガーライトがパルフェガーディアンズのメンバー全員にそう言っていました。
そして、宇宙船が爆発したせいで、ロード・ストーンは粉々に砕けて『カケラ』になり、この星に降り注ぎました。
それで、西川映作くん、東園奏太くんの体の中に『カケラ』が入ってしまい、二人は『疑似魔法使い』になってしまいました。
この星の人間が『疑似魔法使い』になったら、危険です。
ロード・ストーンの『カケラ』がこの星の人の体内に入ってしまうと、その人の心の中にある『願い』、『願望』が魔法になってしまうのです。
なので、『疑似魔法使い』になってしまった人は、なにかのキッカケで無意識に魔法を使ってしまうことがあります。
そうなると、『疑似魔力器官』にある魔力を消費してしまい、魔力が尽きてしまいます。
魔力が尽きてしまうと、代わりに人間が生きていくのに必要な生命エネルギーが消費されてしまいます。
生命エネルギーを消費し、生命エネルギーがなくなってしまったら……人は死んでしまいます。
実際、『疑似魔法使い』になってしまった西川映作くんは、自分が欲しがっていた物を無意識に魔法で次々と作ってしまいました。
その結果、魔力が尽き、生命エネルギーを消費させて倒れてしまったのです。
東園奏太くんの方はまだなんともなっていません。
ですが、なにかキッカケがあれば、いつか無意識に魔法を使ってしまい、魔力が尽きてしまう可能性があります。
とにかく、『カケラ』は危険です。
人間の体内に入り込む特性があるので、探すのも大変ですし、この星の人が『疑似魔法使い』になってしまったら死んでしまう可能性だってあります。
私は絶対に誰かを死なせたくありません!
だから、私たち、パルフェガーディアンズは絶対にすべての『カケラ』を回収しなければなりません!!
『カケラ』も危険ですが、それによりも更に危険なのが、そもそもの原因を作った『強盗団』の存在です。
彼らは、きっと私の父であるロード・シュガーライトを良く思っていない人たちだと思います。
彼らはロード・ストーンを奪うことで、父を困らせようとしているのではないでしょうか?
いや、それとも、ただ単純に強大な魔力を秘めたロード・ストーンを奪い、悪事に使おうとしているだけの強盗なのでしょうか?
いやいや、それとも、なにか別の目的があるのでは……などと、いろいろ考えている間に、加美野町病院に着いてしまいました。
強盗団の目的がなんなのか?については、あとでソフィアリーダーたちと一緒に考えましょう。
今は、私にできることをやるのです!
病院の中へは、なんとか侵入出来ました。
どうやって侵入したかは内緒ですが、とりあえず魔法を使って、病院内には入れました。
病院内の廊下は薄らと灯りがついていました。巡回している看護師さんや警備員さんが歩いています。
私は看護師さんや警備員さんに見つからないよう、音を立てず、素早く階段を登り、三階の西川映作くんの居る病室に向かいます。
三階の廊下には誰も居ません。
西川映作くんが居る病室のドアの前に立ちます。
病室のドアには『313号室 西川映作 様』というネームプレートがありました。
間違いありません、ここです。
ここに西川映作くんと、この病室に侵入してきた誰かが居ます。
バタン!バタン!
ひっ!?
病室の中から、なにか音が聞こえてきました!?ちょっとだけ、驚きました。
なんの音でしょうか?
……正直、ちょっと病室のドアを開けるのが怖くなってきました。
でも、私は誇り高きパルフェガーディアンズの一員です!
こんな事で怯んでいては、パルフェガーディアンズのメンバーに相応しくありません!
中に誰がいようと、勇気を出して、このドアを開けるのです!!
どのみち、侵入してきた誰かは私の結界に触れたので、仕掛けてあったトラップの束縛魔法で今、身動きが取れなくなっているのだから大丈夫です!
私は病室のドアに触れようとしました……。
あっ。
いけない、いけない。
この結界は魔力を持った人間に反応するようになっています。
作った本人である私が触っても、トラップの束縛魔法が発動するようになっているのです。
今、間違ってドアに触っていたら、自分で自分を束縛することになっていました。危ない、危ない。
私はドアに向けて、右手をかざします。
「解除」
たった一言だけ、そう言います。
それだけで、結界はなくなります。
しかし、結界が消えたと同時にトラップである束縛魔法も消えないよう、結界だけを消しました。
だから、病室に居る侵入者はまだ束縛されたままの状態です。
私は深く息を吸って、大きく息を吐きました。
よし!
私は気合を入れました。
頭の中では、なにがあっても良いように、いろいろ対処法を考えてあるから、中に凶悪な強盗が居ても大丈夫です!
いよいよ、西川映作くんと侵入者が居る病室へと入ります!!
病室のドアを開けると、窓から月灯りが差し込んでいました。
そして、病室内では予想だにしていない異様な光景が広がっています。
「んぐぐぐ!!」
長髪で眼鏡をつけている患者服を着た男の人が居ました。
彼の口と首から下の身体全体はテープのような物でグルグル巻きにされ、点滴スタンドと一緒に倒れていました。
……。
この人は、西川映作くんです……。
そして、このテープのような物は私が魔法で作った束縛魔法です。
魔力を持った人が結界に触れると、テープが飛び出し、結界に触れた人の身体をグルグル巻きにして動けなくさせてしまうのです。
私の束縛魔法にかかってしまった人は、まるで蝶々のサナギのような姿になってしまいます。
それで、何故か今、西川映作くんが束縛魔法でサナギになっちゃっています……。
……どういうことなんでしょうか?
ハッ!まさか、この西川映作くんが強盗団の一味!?
……いや、そんなわけがありません。
彼は『カケラ』で擬似魔法使いになったこの星の人です。ロード・ストーンを盗んだ強盗なわけがありません。
彼が強盗団だなんて、いくらなんでも急展開にも程があります。
ですが、何故、西川映作くんが私の束縛魔法にかかってしまったのでしょうか?
「んぐぅ!んぐぅ!!」
西川映作くんは身体を必死に動かし、なにかを伝えようとしています。
あ、いけない!早く束縛魔法を解除してあげないと!?
私は西川映作くんに、右手を向けました。
「解除!」
西川映作くんの身体中に巻き付いていたテープが一瞬で消えました。
「ぷはぁー!!一体なんで、ありますか、これは!?」
西川映作くんは大きく息を吐きました。
私はすかさず、西川映作くんに近寄り、
「一体、なにがあったのですか!?」
と聞きました。
すると、西川映作くんは大きな声で、
「こっちが聞きたいでありますよ!!ワタクシは、どうにも眠れなかったので、ちょっと病院内を散歩しようと思い、このドアに触れたところ、変なテープが飛び出してきて、身動きが取れなくなってしまったのであります!!なんでありますか、これは!?」
と叫んだ。
私は西川映作くんの口を手で塞ぎました。
「フガ、ムググ!」
「ここは夜の病院です、静かにして下さい」
私は小声で、西川映作くんに注意しました。
えっと……つまり、西川映作くんはこのドアに触れてしまったわけですね、それで束縛魔法が……あ。
……。
私は、身体中の血液が一気に抜けていくような感覚に襲われました……。
私は……私は、なんてポンコツでダメダメな魔法使いなんでしょうか……。
『擬似魔法使い』とはいえ、『カケラ』が体内に入ってしまった以上、西川映作くんも『魔力』を持った人になのです……。
そんな彼が、魔力に反応する結界に触れてしまえば、束縛魔法が発動してしまうことを、私はすっかり失念していました……。
そうです。私は西川映作くんがドアに触れる可能性があることを、全く想定していませんでした……。
なので、私の作った結界は、無差別に魔力を持った人間を束縛してしまう設定になっていたのです……。
よく考えたら、この結界、私も触ったら束縛魔法が発動する設定になっていました……。
私は結界を作る際、結界を作った本人である私と、西川映作くんは例外にしておくように、ちゃんと設定をしていなかったのです……。
私は、頭を抱えました。
「わ、私はなんてポンコツでダメダメで、アンポンタンな魔法使いなんでしょうか!?こんなんだから、アカデミーのポンコツ魔法使いランキング第1位に6年連続で選ばれるんですよ!!うわーん!!」
と、病院内なので、なるべく声のボリュームを下げ、私は私のポンコツダメダメっぷりを嘆きました。
すると、点滴スタンドを持ち上げつつ、立ち上がった西川映作くんは私に近づき、
「大丈夫でありまするか……?えっと、確か、あなたは、東園氏のお知り合いで、お名前はティア・ゼペリオ・シュガーライダーさんでありましたっけ?」
少しだけ間違っていますが、もはや、今の私はティア・ゼペリオ・シュガーライトでなく、ティア・ポンコツダメダメ・アンポンタンという名前が相応しいです!
私は西川映作くんに向けて、頭を下げました。
「ごめんなさい!私のミスなのです!ごめんなさい!!本当にごめんなさい!」
「え?え?え?なんで急に謝るのですか!?一体、なんなんでありますか、あなた!!」
困惑する西川映作くんでしたが、とりあえず、今の私には謝ることしか出来ないのでした。
ああ……。これからやって来るソフィアリーダーに、なんて説明しましょうか……。
実は、侵入者なんて居なかった。私の結界の設定ミスによる誤作動でしたと、説明しなくてはなりません……。
ソフィアリーダーは優しい人だけど、怒ったらメチャクチャ怖いだろうなぁ……。
エイグルくんはまた私のことを「ポンコツ」、「ダメダメ魔法使い」、「こんなんで、よくパルフェガーディアンズになれたな」とか言ってくるのかな……。
ライラさんは優しくしてくれるかな?でも、あの人も怒ったら怖そうだなぁ……。
ダイヤさんは、私になんていうのでしょ……?
ん?
なにか、今、カサカサって音がしました。
音がした方に目を向けてみました。
わっ!
少しビックリしました。
『トカゲ』です!
小さなトカゲが病室の床を、カサカサと動いているのです。
そして、そのまま、ベッドの下へ隠れていきました。
あー、ビックリした。
病院の中にも、トカゲって居るんですね……。
虫や爬虫類とかは別に苦手ではないんですが、ああいう風にコソコソ動いて、突然現れる小動物はビックリします。
特に、あのコークロッチ……別名、ゴキ……。
アレ?
私はなにか違和感を感じました。
ポンコツな私ですが、急になにか妙だと感じ始めました。
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