EP.19「僕の願望ってなんなんだ?」
本当に、それでいいのか?
このまま、見て見ぬふりをして、何事もなかったことにしていいのか?
『カケラ』のせいで、西川くんは大変なことになったんだぞ?
そして、その『カケラ』による被害を防ぐために、ティアとソフィアが一生懸命頑張っているんだぞ?
なにより、西川くんは『ロード・ストーン』を奪った強盗たちに狙われているんだぞ?
それで、ティアも、ソフィアも、必死になって病院に居る西川くんを助けに行ったんだぞ。
いろんなことを知ってしまい、今、西川くん、ティア、ソフィアが大変だってわかっているのに、それを見て見ぬふりして、本当にそれでいいのか?
なぁ、東園奏太?
死んだ爺さんの部屋から映画が処分された時も、見ているだけしか出来なかったのに、また見ているだけしか出来ないのか……?
「そんなことはわかっている!!」
思わず、声に出してしまった。
なにが起きているのかを知ったのに、見て見ぬふりなんて、できるわけないじゃないか!!
だけど、なにも出来ないんだよ!
『擬似魔法使い』とかいう偽物の魔法使いになれても、なにも出来ないじゃない!
だから、強盗団とかいう連中と戦う力もない!
僕が病院に行ったって、邪魔になるだけじゃないか!!
だけど……。
その時だった。
(助けて……!)
!?
声が聞こえた。
女の子の声だ。
僕は周囲を見渡した。
僕以外に誰もいない。
気のせいか……?
「誰か、助けて!!」
また聞こえた!?
今度はハッキリと!
だけど、周囲には誰もいない!
どこだ!どこからの声なんだ!?
それに、この声は……。
「助けて!!」
ティア・ゼペリオ・シュガーライトの声だ!
な、なんで、この場に居ない彼女の声が、僕の耳に聞こえたんだ?
幻聴なのか?それにしてはハッキリと聞こえたし、切実な声だった。
まさか……。
まさかだけど、どこかに居るティアの声が僕の耳に届いたのか?
ハハッ、まさか……。
そんなバカなことがありえるわけ……。
「誰か……誰か、誰か助けてくれでありまする……」
またまた、声が聞こえた!
しかも、男の声だ!?
この声が誰の声か、すぐにわかった。
毎日のように聞いていた、この「ありまする」という口調は……。
「助けて、くださいでありまする……」
西川くんの声だ!!しかも、かなり弱っている声だ!
何故、遠く離れた場所に居るティアと西川くんの声が聞こえてくるのかはわからない!
だけど、今、病院か、どこかの場所ではなにかが……なにかが起きている!
『カケラ』を狙う強盗団が本当に現れたのか!?
それで、ティアと西川くんがピンチになっているのか!?
ソフィアは!病院に行ったソフィアはどうしてるんだよ!!
今、ティアと西川くんになにが起きているんだよ!!!
「あ」
僕は自分の右手を見た。
僕の右手は黒くなっていた。
いや、『黒いドロドロしたなにか』が僕の右手にへばりついている。
まるで手袋のように、その黒いドロドロしたものが僕の手を黒く覆っている。
左手もだ。
左手にも黒いなにかが、僕の手を手袋のように覆っている。
「な、なんだこれ……」
僕は自分の手ついた黒いドロドロしたなにかを、震えながら見ていた。
手で剥がそうとしたが、剥がれない。間違って、接着剤が手についてしまったかのように。
しかも、この黒いドロドロは手から腕へ。腕から肩にもへばりついてきた!
いきなり、ティアと西川くんの声が聞こえてきたり、身体が黒いドロドロしたなにかに覆われ始めたりと、もはや、僕の脳はなにが起き始めているのか、理解が出来なくなっていた。
すると、
「アハハハハハ!!」
背後から笑い声がした。
近所迷惑になりそうなほど、大きな笑い声だった。
僕は振り返る。すると、僕の両足にも黒いドロドロがへばりつきはじめた。
振り返った先に居たのは、大正時代の女性が着ていたような赤い着物と黒いブーツを身に着けた赤毛の少女……ダイヤ・ソリッド・シュガーライトだった。
な、なんで、お前がここに!?
「ほらよ」
ダイヤは笑うのをやめると、急になにかを僕を投げつけた。
その物体は僕の顔に当たり、床に落ちた。
それは四角く、革で出来た黒い物体……というか、これ、僕の財布だ。
「それ、お前の財布だろ?テーブルの上にあったから、わざわざ、あたいが届けに来てやったんだよ」
……意外と親切。
そう思っている間にも、黒いなにかが徐々に僕の身体を覆っている。
「てか、この星も食べモンを手に入れるんなら、金が必要なんだろ?それなのに、なんでテメー、財布を持って行かねーんだ!?ああん?どうやって、食べモンを手に入れるつもりだったんだ、コラ!?盗むつもりだったのか!?それとも、お前、このあたいを騙して外に出ようとしてたんじゃねーだろうな?」
……いろんな意味でヤバイ。
財布がないのに気づいたのは、本当についさっきで、それに関しては僕のドジだった。
だが、病院に行くため、ダイヤに「食べ物を持ってくる」と嘘の約束をし、拘束を外してもらったことに関しては、彼女の言う通り、僕はダイヤを騙していた。
そのことが、バレてしまったようだ……。
だから、今、この黒いドロドロが僕の身体を覆っているのか?
これは、彼女の魔法なのか?
だんだん、僕の身体が黒いドロドロに覆われていく……。
立っているのも、キツくなってきた……。
激怒していたダイヤだったが、黒いドロドロに覆われた僕を見て、急に鎮まった。
「でも、ま、いいか。今、お前、面白いことになってるから、どーでもいいや」
なんだって?
この黒いドロドロは、ダイヤの魔法じゃないのか?
「ちょっと、待ってくれ!一体、この黒い物はなんなんだよ!?キミの魔法じゃないのか!?」
すると、ダイヤは笑いながら、
「知らねーよ、バーカ。ていうか、その黒い気持ちわりー物体は、お前の『魔力』から出来ているんだよ」
な、なんだって!?
この黒いドロドロが僕の『魔力』から出来ているだって!
つまり、これは『僕の魔法』なのか!?
「一体、なにが起きているんだよ!さっきから、遠くにいるティアや西川くんの声が聞こえてきたり、この黒いドロドロが出てきたり……一体、僕の身体になにが起きているんだよ!?」
ダイヤはまだ笑い続ける。
「だから、知らねーって言ってんだろ、ボケ!アハハ!あたいは、お前になにが起きているのか、ただ見てるだけだっての……」
こ、こいつ、やっぱり相当、性格が歪んでいる……。
なにを考えているんだ、この少女は……。
ぐわっ!
僕の身体は顔以外のすべてが黒いドロドロに覆われ、まともに立てなくなった。
地面に倒れ込んだ。
黒いドロドロは、首を覆い、だんだん僕の顔にまで迫って来る。
すると、ダイヤは口を開いた。
「それで、お前の『願い』ってなんだ?」
……。
はい?
「だから、お前の『願い』、『願望』ってなに?」
黒いドロドロが口元まで来た。
「なにを言っているのか、意味が分からないだけど……」
ダイヤは大きくため息をついた。
「んだよ、ソフィアの野郎!どこまで説明して、どこまで説明してねーんだよ!ったく、本当にめんどくせーなー」
「んぐ!!」
黒いドロドロは、とうとう僕の口までやってきて、僕の口を塞いだ。
「あ、もう喋れなくなったかー。まあいいや、面白い物を見せてもらっているから、特別に教えてやるよ……。あたいら、魔法使いは火を出したり、電気を出したり、物を出したり、心を読めたりすることができる。まあ、個人差で向き不向き、得意不得意はあるけどさー……。『疑似魔法使い』の方はなー……」
今、僕の身になにが起きているのか、全くわからなかった。
更に、このダイヤの考えていることもわからなかった。
だが、ダイヤがこれからなにかとんでもないことを言おうとしていることだけは、なんとなくわかった。
「『カケラ』が体内に入った時、自分の心の中にあった『願望』を叶える魔法しかできねーんだよ」
な、なんだって……!?
自分の願望を叶える魔法しか出来ない!?
ど、どういうことだ!?
「あたいら、オリジナルの魔法使いは努力次第でどんな魔法も出来るようになる。だけど、お前ら、『擬似魔法使い』は『自分の願望』が形になったような魔法しか出来ないんだよ……」
嘘だろ……マジかよ……。
いや、嘘でもないし、マジだろう……。
現に僕は火や水、棒などを魔法で出そうと思っても作れなかった。
そして、西川くんは『自分が欲しがっていた映画のビデオ』を手に入れていた。いや、『自分が欲しがっていた映画のビデオ』を魔法で作っていた。
だから、西川くんはリサイクルショップに行くたびに、無意識に自分の欲しい映画のビデオを魔法で作ってしまっていたんだ。
『魔力』が尽きて、倒れるまで。
このダイヤの言っていることは、本当のことだ……!
それだと、『擬似魔法使い』は本当に『擬似』でしかなく、自分の『願望』から生まれた魔法しか使えないのか!?
じ、じゃあ、今、僕の身体にまとわりついているこの黒いドロドロも『僕の願望』だって言うのか!?
ダイヤは冷ややかに笑みを浮かべた。
「んでさぁ……。お前の願望ってなんなの?その黒い気持ち悪いのが、お前の願い?」
そんなわけあるか!
だけど……『僕の願い』……『僕の願望』って……なんなんだ……?
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