EP.16「ダイヤ・ソリッド・シュガーライト」

「あのー、キューティー・プリティー・ゴージャス・ビューティーさん……。あなたとお話がしたいのですがー……」


 すると、赤毛の少女は機嫌が良くなったのか……。


「んんー、良いぞー。お前、なかなか見所があるようだな。特別にあたいの名前を教えてやろう。感謝しろよ」


 あ。そういや、この少女の名前知らなかったな……。


「あたいの名は、『ダイヤ・ソリッド・シュガーライト』。キューティー・プリティー・ゴージャス・ビューティーのダイヤ様と呼んでも良いぞ」


 『ダイヤ・ソリッド・シュガーライト』……。

 これが、彼女の名前か……。

 確かに宝石のような瞳をしていたし、性格もソリッドな感じだ。

 そして、シュガーライト……。

 やはり、この少女も『ロード・シュガーライト』の娘か……。それでいて、ティア・ゼペリオ・シュガーライトとは姉妹なのだろうか?どっちが姉で、妹なのかわからないが。

 とにかく、今は、このダイヤ・ソリッド・シュガーライトに病院に向かってもらうか、今の病院がどうなっているのかを教えてもらうしかない。


「それで、ダイヤ様……」

「ああん!?」


 ダイヤは怒った。

 え!?なんでキレるの!?

 さっき、ダイヤ様と呼んでもいいと言ったばかりじゃないか!?


「テメー、嘗めてんのかコラ!?」


 なんなんだ、この少女!?

 数秒で記憶が書き変わるのか!

 沸点低すぎるにも程があるだろう!!?


 あっ!


 この時、僕は気づいた。

 ああ。そういうことか……。


「し、失礼しました……。キューティー・プリティー・ゴージャス・ビューティーなエンジェルのダイヤ様……」


 僕がそう言うと、ダイヤは……。


「なにか用か、ボンクラ」


 急にダイヤの態度がコロッと変わった。

 どうやら、彼女の名前を呼ぶ前に、とにかく褒めたたえないといけないらしい。

 かなりメンドクサイが、これでなんとかコミュニケーションが取れそうだ。


「あのー。キューティー・プリティー・ゴージャス・ビューティーなエンジェルのダイヤ様……。実は、お願いがあるのですが……」


 ダイヤはニヤニヤ笑いながら、


「おう。今のあたいは機嫌が良いからな。ほんの少しだったら、願いを聞いてやっても良い」


 よっしゃ!

 なんとか上手く行きそうだ!!


「はい。それで、キューティー・プリティー・ゴージャス・ビューティーなエンジェルのダイヤ様には、ティア・ゼペリオ・シュガーライトとソフィア・ニュートラムが居る病院に行ってもらいたいのですが……」

「断る」


 早っ!!

 ダイヤの顔が、またソファーに沈んで行った。


「え、ちょっと!キューティー・プリティー・ゴージャス・ビューティーなエンジェルのダイヤ様!!願いを聞いてくれるって言ったじゃないですか!!?」

「うっざい……。あたい、疲れてんだよ……。あんなポンコツ女と、気色の悪いオッサンの居ることなんかに行きたくないし……」


 マジかよ、嘘だろ!!

 機嫌取ってやったのに、いくらなんでもあんまりじゃないか!!?


「ちょっと待ってくださいよ!キューティー・プリティー・ゴージャス・ビューティーなエンジェルのダイヤ様!!」


 すると、ダイヤは……。


「本当のこととはいえ、なんか、もうそれ聞き飽きたわ……。普通にダイヤ様とだけで呼んでもいい……」


 と怠そうに言った。

 うわ、コイツ、面倒くせぇ!!


「だ、ダイヤ様!!あなたは、ティア・ゼペリオ・シュガーライトとソフィア・ニュートラムと同じパルフェガーディアンズの一員で仲間だと思いますが、だったら、彼らの様子を見に行くべきでは……」

「あたいは、あいつらのこと仲間ともなんとも思っていないしー……」


 うわー。こういうタイプか、こいつー。

 ソフィアからの通信を拒否してる時点でアレだとは思っていたけど、やっぱり、アレだったかー……。


「だったら、せめて、彼らに連絡をするだけでも……」

「嫌だ、メンドクサイ」


 お前の方が面倒くさいよ!


「あたい、疲れてんだよ……。寝かせろ……」


 ヤバイ!このままだと、本当に寝てしまうだぞ!!

 病院に行かせるのは無理だとしても、せめて、連絡だけはしてもらって、病院の状況だけは知っておかないと!

 そのためには、今、ここでダイヤを寝かせるわけには行かない!!

 なんとか、話を繋いで起こしておかないと!


「あの、ダイヤ様!!なんで、そんなにお疲れなのですか!?」

「ああー!うるせーな、テメー!腹切り裂くぞ!!あたいも『カケラ』調査のため、いろいろ動き回って、調べているからに決まってるからだろう!ボケ!」


 ……ああ、なるほど……。

 この少女、ダイヤ・ソリッド・シュガーライトもパルフェガーディアンズの一員として、この星に散らばった『カケラ』の調査を夜遅くまで行っていたわけか……。

 だから、疲れているのか……。


「あたいはなー。『カケラ』の調査のため、ショッピングモールとかいう大きな施設に行ってみたりー、なんかオシャレな服やアクセサリーのあるショップを何軒か巡ってみたりー。美味しいスイーツのある店で美味しいスイーツを食べたりー。あと、この星の若い男たちに誘われて、一緒にボーリングとか言う遊戯をやる場所に行ったりー……」


 ……。

 お、おまえ……。

 おまえ……。おまえ……、おまえ!!!

 おまえは、ただ遊んでいただけじゃないか!!


 ふざけるな!!

 ティアやソフィアは必死で『カケラ』を捜索し、今、強盗団と戦っているかもしれないのに、お前はこの星で遊んでいただけなのかよ!!


 ふざけるな!!ふざけるな!!


 と、声を大きくして叫びたかったが、このダイヤの機嫌を損ねると、なにが起きるかわからないのと、唯一の頼みの綱を失ってしまうことになるから、黙った。

 しかし、もの凄く腹が立っていた。

 はらわたが煮えくり返るような思いだった。


 どこの学校にも、授業を真面目に聞いていなかったり、みんなが学園祭の準備をやっている時にさぼって遊んでいる奴が居たりする。

 このダイヤも同じタイプだ。


 そういうタイプが、僕は嫌いだ。


 去年の学園祭の時。

 クラスで浮いている僕と西川くんと南城くんですら、ちゃんと学園祭の準備を手伝っていたのに、なにもせずにサボって遊んでいる奴らが居た。「なに学園祭ごときでマジになってるんだ、こいつら」みたいな態度だった。

 周りが一生懸命になっているのを、横から見て鼻で笑っているような。

 僕はそういうのが、嫌いだった。

 頑張っている人間を見下すような、そんな態度が大嫌いだった。


 あの日の父もそうだ。

 爺さんが趣味で集めていた大好きな映画のビデオを、爺さんが亡くなった後、不要だと言って平然と捨てた。

 あの日の父も同じだ。

 なにもわからないくせに、人を見下す人間だ。

 そういう人間が、僕は……嫌いだ。


 だけど、このダイヤに対しては我慢だ。

 我慢するしかない。

 このダイヤ・ソリッド・シュガーライトは魔法使いだ。

 しかも、気分の波が激しい性格だから、なにをするかわからない。

 なので、ここは怒りを堪えるしかない……。

 怒れば、またあの時のような……。

 とにかく、我慢だ。我慢しろ、東園奏太……!

 僕は唇を噛んで、余計なことを言わないように耐える。

 同時に、この状況をどう打破するかを考える。

 それにしても、この両手両足についている枷が邪魔だ……。

 これさえなければ……。


 ……!


 すると、頭の中で一つのアイデアが生まれた。

 そうだ……。ダイヤが動かないのなら、僕が動けばいい……。動けるようになればいいんだ……!

 この邪魔な枷さえなくなれば!

 そのために、ダイヤを利用するしかない!

 ……上手くやれるかどうかわからないが、とりあえずやってみるか……。

 ここからが正念場だ……。

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