EP.15「キュートでプリティー・ゴージャス・ビューティーな女の子」

「おーい、生きてるのかー?死んでるのかー?返事しろよ、つまんねぇーなー」


 ……。

 誰だ?

 声からして、女の子のようだけど……。


「まあ、いいや。生きてようが、死んでようが、コイツ、『擬似魔法使い』みたいだから『擬似魔力器官』ってのが、どういう風になってんのか、腹切り裂いて見てみっか……」


 バルバルバルバル!

 ブォォォーーン!!と大きなエンジン音が鳴り響いた。


 !?


 僕は両目を大きく開いた。

 なんと、目の前で、赤い着物服姿の赤毛の女の子がチェンソーを持っているではないか!?

 チェンソーは激しくエンジン音を響かせ、マフラーからガスを吐き出し、キィーンと鋭い刃を回転させている。


「おおい!なにをやろうとしてんだ!生きてるよ!!僕は生きてるよ!!」


 思わず、大きく叫んだ。

 すると、赤毛の少女は、


「んだよー、生きてたのかよ。つまんねー」


 と、つまらなさそうに言い、チェンソーを止めた。

 そして、そのまま床に放り投げた。


 なんなんだ、この少女は……?

 着物服姿で、寝ている人間の体をチェンソーで切り裂こうとか……一体、なにを考えているんだよ。

 しかも、切り裂けなくて「つまんねー」とか、スプラッター映画のサイコキラーでもあんまり言わないよ。


 あまりにも、ショッキングな出来事に直面したせいか、寝ぼけていた頭の中が急激にだんだんハッキリしてきた。

 どうやら、ソフィアに放置された後、はりつけにされたまま寝てしまっていたようだ。

 未だに首と両手両足が、金属製の枷で壁に固定されいる。


 ……。


 アレ?口に付けられてあった猿轡がなくなっている。

 あの赤毛のサイコ少女が外してくれたのか?


「あー、だりー。ねみー」


 赤毛の少女は大きくあくびをした。

 少女は、大正時代の日本人女性が着ていたような赤い着物服姿で黒いブーツを履いていた。

 赤い色の髪の毛はセミロングで、ちょっとパーマがかかっているような感じだった。

 肌は色白く、瞳は緑……いや、翡翠色というのだろうか、キラキラした緑だった。

 お顔は……ぶっちゃけ、カワイイ……。

 そして、どことなく、あのティア・ゼペリオ・シュガーライトに似ていた。


「オイ!なに、ジロジロ見てんだ。腹切り裂くぞ」


 この少女も、たぶん、この地球の人間ではなく、地球B(仮)からやってきた魔法使いだろう……。

 さっき、『擬似魔法使い』と『擬似魔力器官』とか言っていたし。

 それにここに居るってことは、ティア、ソフィアと同じく『パルフェガーディアンズ』とか呼ばれる組織の一員であり、彼女も『カケラ』の回収しに来たティア、ソフィアの仲間……だと思われる。

 だけど、性格がティアとも、ソフィアとも違う。

 なんていうか、ものスゴい高圧的な少女だ。

 まるで、昔ラーメン屋で読んだヤンキー漫画のキャラみたいだ。


「てか、お前、誰だよ?なんで、ここに居んの?」


 僕は恐る恐る口を開いた。


「キ、キミこそ、誰なんだよ?なんで、僕の腹を切り裂こうとか……」


 すると、少女の顔つきが変わった。


「テメー!質問を質問で返すな!あたいが、テメーの名前聞いてんだから、まず、テメーが名乗れ!!」


 ヒィイー!!

 ヤバイ!なんか怒ってる!

 というか、怒りの沸点が低い!!

 チェンソー持ったり、人の腹を裂こうとしたり、この赤毛の少女、かなりヤバイ!!

 ソフィアとは違った意味で、かなりヤバイ!

 魔法使いってのは、こんな人ばっかなのか!?


「東園奏太です!!2005年7月7日生まれの16歳!!出身地は、東京!現在は、聖アルジェント高校で……」


 赤毛の少女は僕の胸ぐらを掴み、その鋭い眼光で僕を睨んだ。


「名前だけでいいんだよ、バーカ!誰もテメーの個人情報なんか、興味ねぇーよ!マヌケ!!」


 本当にヤンキー漫画のキャラみたいじゃないか、この少女!?

 やだ、怖い!

 あと、顔近い……。

 少女は僕の胸ぐらから手を離し、


「んで、テメーはアレか?『擬似魔法使い』になったってわけ?それで『カケラ』を切り取るために、あのソフィアのオッサンにはりつけにされたってワケ?」


 彼女はソフィアのように、僕が考えていることを魔法で読んでいるわけではないようだが、勘が良いのか、洞察力が優れているのか、この状態を見ただけで大体の事情は把握したようだ。

 たぶん、彼女は人の心を読むことが出来ないから、僕の口から猿轡を外して、会話ができるようにしたのだろう。


 ……念のため、心が読まれていないか、テストしてみよう……。


 えー……っと……。

 反応がすぐにハッキリとわかるようなのが良いかな……。


 ……。


 いきなり、チェンソーで人の腹を切ろうとするとか、バカはそっちだろ、バーカ。


 ボコッ!


「グハッ!!」


 名も知らぬ赤毛の少女は、僕の腹部を殴った。

 赤毛の少女は怒っている。

 ヤバイ!彼女も心を読めるのか!?


「テメー、さっきから黙ってねぇーで、さっさとあたいの質問に答えろ、タコ!!」


 腹部を殴られて痛いが、僕は安心した。

 どうやら、心は読まれていないようだ。

 だが、彼女の機嫌を損ねると、かなり危険なのがわかった……。

 黙っているだけで、殴るとか……。


「は、はい!僕は『擬似魔法使い』です。それで、『カケラ』が体内に入っているので、ソフィアさんから『擬似魔力器官』を切り取ってもらおうと思いましたが、いきなり、ティアさんから敵が現れたと言う連絡があったので、ソフィアさんは僕から『擬似魔力器官』を切り取らず、ここから出ていきました……」


 赤毛の少女は黙って、僕の話を聞いていた。

 ……この少女、口を開けばアレだが、黙っていると普通にカワイイな……。


「敵が現れた?」

「は、はい……」

「あー、ストーンを奪った強盗団の奴らが、『カケラ』奪いに出てきたってわけなー。ああー。それで、ソフィアのオッサンがさっきから何度も通信してきたわけか……めんどくさいから無視したけど」


 な、なんなんだ、この少女!

 たぶん、ティアさんと同じくソフィアさんの部下なんだろうけど、上司であるソフィアさんからの通信をめんどくさいから拒否だと!?

 それでも、社会人か!?

 いや、彼女は魔法使いか……。

 あ、でも、パルフェガーディアンズとかいう組織の一員だから、一応、あちらの世界での社会人ってことにはなるのかな……。


 赤毛の少女は、だるそうに大きくあくびをした。

 そして、僕から離れ、ソファーの方に歩いて行った。

 僕が眠る前。ソフィアさんが通信機のように使っていたTVにはなにも映っていなかった。電源が切られたのか、砂嵐もなにも映っていない。


「まー、あのポンコツ女はともかく、ソフィアのオッサンがいるんなら、なんとかなるっしょ……。それに、あのシスコン野郎とブラコン女も居ることだし……」


 少女は背伸びをしてから、そのままソファーに倒れ込んだ。


 ……。


 ポンコツ女……たぶん、ティア・ゼペリオ・シュガーライトのことだ。間違いない。すぐにわかった。

 シスコン野郎、ブラコン女は誰の事なのかわからなかったが、たぶん、同じパルフェガーディアンズの仲間のことだろうか?


 ……。


 ソフィアが居なくなった後、僕は眠ってしまったが、あれから何分経ったのだろうか?

 そして、病院の方は今どうなっているのか?

 本当に強盗団がいて、今、ティアとソフィアは戦っているのだろうか?

 だとしたら、病院に居る西川くんが心配だ。

 それどころか、病院に居る患者さんたちも心配だ。

 魔法使い同士が戦っているのなら、きっと、今とんでもないことになっているはずだ。


 ティアは電気を出した。

 ソフィアは指から火を出し、僕の心を読んだりと、テレパシーのようなものを使っていた。さらにテーブルや椅子を出したり、手術で使うようなメスを出した。

 魔法使いには、僕、いや、この地球(A)に住む人々の想像を超えた力がある。

 そんな彼らが、病院で戦うなんて、とんでもなく危険だ!

 ソフィアは病院内では戦わないと言っていたが、万が一と言う場合もある!

 よく考えたら、病院の近くで戦うのだって危険だ!


 ヤバイ!なんとかしないと!!


 ……って、僕になにが出来るんだ?

 『カケラ』が体内に入って『疑似魔法使い』という存在になったそうだが、僕にはなにが出来るんだ?

 実は言うと、ソフィアが出て行った後、魔法が使えないか、心の中でいろいろ試していた。

 火が出ろーとか、水が出ろーとか、雷が出ろーとか。

 あるいは、ナイフが出ろとか、槍が出ろとか、銃が出ろとか。

 この手錠が外れろとか。

 でも、全然なにも起きない。

 そうしている内に、寝てしまったようだ。


 本当に僕は『疑似魔法使い』なのか?

 僕の体内には『カケラ』が入り込んでいるそうだが、それなのに魔法もなにも全然使えていないじゃないか。

 一体、どういうことなんだよ、これは?


 まあ、それはいいとして、病院の方がどうなっているのか、気になって仕方ない。

 出来ることなら、今すぐにでも病院に向かいたい。

 だが、今は身動きが取れない状態だ。

 あの通信機のような役割をしていたTVは電源が切られているし……いや、電源がついていたところで、僕にはなにも出来ないが……。


 こうなってくると、頼れるのは……。


「あー。かったりー。喉乾いたー、腹減ったー」


 今、ソファーの上で横になって、「あー。かったりー。喉乾いたー、腹減ったー」と言っている赤毛の少女だけだ……。

 この人に頼るしかなさそうだ……。

 下手なことを言ったら、また腹パン(腹にパンチ)を喰らいそうだが。

 ……なんとか、機嫌を損ねないように、慎重に頼むしかない。


「あのー。そこの着物が似合う素敵でキュートなレディーのお方ー」


 僕は彼女の機嫌を損ねないよう、できる限り、褒め称えるようにして、名も知らぬ赤毛の少女に話かけた。

 すると、少女はソファーから勢いよく起き上がり、顔を出した。


「ああん!!?」


 ヤバイ!怒らせたか!?


「テメー!今、あたいのこと、着物が似合う素敵でキュートでプリティー・ゴージャス・ビューティーとか言ったか!?」


 そこまで、言ってないんですけど!!

 ヤバイ!なんか、この感じは怒ってるみたいだ!!

 だが、赤毛の少女はニヤリと笑った。


「お前……あたいのこと、よぉく、見てるじゃねーか。お前、見る目あるな。褒めてやる」


 赤毛の少女は、ニヤニヤ笑っている。そして、ちょっと喜んでいる。

 怒ってなかったー!!よっしゃー!!

 この少女、沸点は低いけど、トコトン褒めれば、なんとかなりそうだ!

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