EP.13「シュガー」

 話をまとめると、『魔法使い』は自分が作ろうとしている物の構造を理解していれば、魔法で本物と同様に使うことが出来る『偽物』を作ることができる。

 それで、西川くんは『プレーンデッドリーマイフレンズ』、『バッドビップボーイ』、『クレイジーマッドハンバーガー』の偽物ビデオを作った。彼はDVDとVHSの構造を理解していたから、プレーヤーで本物同様に再生ができる偽物ビデオを作った。


 しかし、映画の内容は本物ではない。

 西川くんも、僕も、南城くんも、この三本の映画を観たことはない。この映画三本は入手困難になっていて、観る方法がないのだから。

 西川くんの魔法で作った偽物ビデオは本物通りに再生できても、画面に映ったのは『西川くんの妄想か、想像で出来た映像』。あるいは、『西川くんが想像する映画の内容』だった。


 要するに、『魔法使い』は作ろうとする物をよく理解していれば本物同様の偽物を作れる。

 逆によく理解していない物を『魔法』で作ってしまえば、デタラメな偽物が出来上がってしまう。


 西川くんは『疑似魔法使い』になり、完璧な形のDVDとVHSを魔法で作った。

 それは、リサイクルショップ『万物中古市場』の中古DVDコーナーにいきなり置かれてあっても違和感がないほどに。

 あまりにも、完璧なパッケージだったんで、店員もこの店の商品ではないのに会計してしまったのだろう(たぶん、千円で購入出来たのは値札シールまで魔法で作ったからか?)。

 だが、彼は映画の内容を知らなかったので、中身の方は彼自身の想像か妄想の産物になっていた。

 そして、西川くんは自分の想像と妄想でできた映画を観て、興奮していたというわけか……。

 なんて皮肉なんだ、この『魔法』ってヤツは……。


「そんなデタラメな偽物を無意識で作って、『魔力』を消費し、『生命エネルギー』まで削ってしまったんだから、尚更、皮肉よね」


 ……ソフィアから考え事を読まれ、横から口を出されるのにも、さすがに慣れてきたな……。

 『魔力』を消費して『魔法』を使うのは分かった。

 そして、『魔力』を使いすぎると『生命エネルギー』を消費する……。


 『生命エネルギー』……。


 つまり、『命』ってことか?


「そうよ。実際に『生命エネルギー』を消費……『命』を削って倒れた西川映作くんを見たから、その辺はわかるようね」


 『命を削る』……。

 具体的にはどういうことなのかはわからないが、西川くんは『魔法使い』になり……


「正しくは、『擬似魔法使い』ね。擬似とオリジナルの『魔法使い』は大きく違うんだから」


 なんか、嫌味に聞こえるな……。

 それに、また『本物』と『偽物』かよ……。


 ええっと、つまり、『擬似魔法使い』は『魔力』を使いすぎると『生命エネルギー』、つまり『命』を使ってしまい、それで西川くんは体調が悪くなって、最終的に吐血した。

 吐血をしたってことは、たぶん、『生命エネルギー』がなくなると、身体の内部、内臓などが壊れていくのだろう……。

 あのまま、無意識に魔法を使い続けて『生命エネルギー』を消費させていたら、西川くんは死んでいた……。


「……そういうことよ」


 ……。

 だから、あの時、ティア・ゼペリオ・シュガーライトは僕に何度も何度も「カケラを切り取りましょう」と必死に言い続けたのか……。

 リサイクルショップで会った時も。

 西川くんが血を吐いて倒れた時も。

 こんな危険な『カケラ』が身体に入っていたら、死んでしまうかもしれないから、切り取れと。

 つまりは、そういうことだったのか……。


 彼女は、僕のことを心配していたんだ……。


 ……。


 知らなかったとはいえ、ティアのことを、わけのわからないことを言うおかしな少女だと僕は思ってしまった。

 しかも、必死だった彼女に僕は何度も罵声を浴びせてしまった……。

 ティアが西川くんを助けていた時も、僕は彼女に酷いことを言ってしまった……。


 ……。


 ティアに会いたい……。

 誤解していたことを、謝りたい。

 そして、僕のことを心配してくれたことと、大事な親友である西川くんを助けてくれたことに、心の底からありがとうと言いたい……。

 ……さらに、あわよくば、友達になってくださいと伝え、今度一緒にゾンビ映画でも観に……。


「あのー、下心が漏れ始めてるわよー」


 人の下心を読むな!!

 あっ、そういや、なんで、生命エネルギーが尽きて倒れた西川くんが『アポカリプスェット』で回復したんだ?

 そして、何故、西川くんは無意識で魔法を使っていたのに、僕はまだ魔法を使えていないんだ?

 更に言うと、オリジナルの『魔法使い』と『擬似魔法使い』は違うって言ってたけど、具体的な違いってなんだ?

 『オリジナルの魔法使い』と『擬似魔法使い』は、どこがどう違うの?

 あと、僕はいつまで縛りつけられているんだよ!!

 さすがに、そろそろしんどくなってきたんですけど!

 せめて、猿轡ぐらい外し、


「お黙り!!」


 物凄い野太い怒声が響いた。

 鼓膜が破れるかと思った。

 部屋にあるものすべてが揺れた。


「ちゃんと説明するから、一気にゴチャゴチャ考えるのはおやめなさい!!あたしの脳にどれだけ負担がかかっているか、わかっているの!?」


 は、はい……。

 再び、僕は余計な事を考えるのはやめた方が良いと思った……。

 だが、勝手に人の心を読んでおいて、怒鳴られるのは、やっぱ理不尽……。

 ハァーと、ソフィアは息を吐いた。


「……とりあえず、わからない事だらけで困惑している、あなたの気持ちはわかるわ……。怖いわよね、ワケのわからない物が体内に入ってしまったのだから……」


 気が付いたら、両手両脚を固定され、猿轡もされ、心を読まれて、怒られるのも怖いんですけど……。


「ハァー……そろそろ、頃合いかしらね……」


 ソフィアはため息をついて、椅子から立ち上がった。


「んじゃあ、一番肝心な『オリジナルの魔法使い』と『擬似魔法使い』の大きな違いを教えてあげるわ。『魔力器官』と『擬似魔力器官』の仕組みが大きく違うからよ」


 そう言って、ソフィアは手から光るなにかを出現させた。

 ソフィアの手から出たソレは、医療や病院がテーマの映画や、スプラッター映画などでよく見る銀色の光りモノだった。


 ……。

 メスだ。


 性別の方じゃなく、人の身体を切る方の。

 メスを持ちながら、ソフィアは僕に近づいてくる……。

 嫌な予感しかしない。


「私たち、地球Bの人間の身体にある『魔力器官』はね、身体の一部、内臓として『魔力』を作り出し、『魔力の貯蔵』をちゃんと行なっているの。魔法を使ったら『魔力』は消費されるけど、その分、ちゃんと『魔力』を作り続けるのよ。骨髄が血液を作るように……ね」


 メスを持ちながら、ソフィアは淡々と説明している。

 それが、余計に恐怖心を煽った。


「だけど、『擬似魔力器官』は違う。『魔力』は貯蔵できるけど、ある『物質』がないと魔力を作り出せない……。だから、『魔力』を使ってしまったら、『生命エネルギー』を代わりに使ってしまうのよ……」


 メスを持ったソフィアが、僕の目の前に立つ。

 怖い!怖すぎるんですけど!!


「繰り返すわよ……私たち、魔法使いの『魔力器官』は魔法を使えば『魔力』は減るけど、『魔力器官』が『魔力』を作り出して補充してくれる。だけど、『カケラ』で出来た『擬似魔力器官』は魔法を使えば使うほど『魔力』はなくなっていき、『生命エネルギー』を消費させ、人を死に至らせる!!」


 ソフィアはメスを僕に向けた。

 ひぃい!!


「だから、ね……ボウヤ……」


 ソフィアは僕が着ている制服とワイシャツのボタンを一つずつ、一つずつ外していく。

 僕はガクガク震えていた。

 ソフィアは銀色に光るメスを使って、これからなにをするのかがわかってしまったから。


「『擬似魔力器官』なんて危険なものは、すぐにでも身体から切り離さないとならないのよ……。今すぐにでも……」


 ソフィアは、ワイシャツの下に着ていたTシャツをメスで切った。

 ぎゃあああーーー!!!

 切られたTシャツから、僕の胸元、心臓がある位置が露わになった。

 ソフィアはメスを僕の心臓に向けた。


「長々とお喋りしてあげたのは、あなたの身体から電気が抜けるのを待ってたのと、『カケラ』によって作られた『擬似魔力器官』がいかに危険なものか、十分に理解させるためよ……。もう十分わかったでしょ?覚悟はできたかしら?」


 出来てない!出来てない!!

 『カケラ』と『擬似魔力器官』が危険なのはわかったけど、それを切り取るってことは手術するってことだろ!

 僕、今まで手術したことなんてないんだぞ!いきなりにも程がある!!

 そ、それに、あんた!手術するってことは医師免許持ってるのかよ!?

 医師免許がなしで手術なんかやったら……


「安心なさい。あたし、こう見えて、医師免許は持ってるわ」


 持ってるんだ。

 いやいやいや、だからって、ちょっと待って!

 普通、手術をするんなら、麻酔とか打ってからだろうが!!


「麻酔なんて持ってないわよ。でも、安心なさい。魔法であなたを眠らせてから神経を麻痺させて、痛みを感じせないようにするから。ただ、『擬似魔力器官』は心臓の近くにあるから……その、手が滑ったとかでミスっちゃったら……」


 ミスっちゃったら?


「ごめんなさいね……」


 おおい!!

 自信がないなら、やめてくれ!!

 今は『擬似魔力器官』より、あんたの方が危険だ!!

 あ!

 ちょっとタンマ!!


「なによ」


 うっかり聞き流すとこだったけど、『擬似魔力器官』はある『物質』がないと魔力は作れないって言ってたよな?

 つまり、逆に言うと、その『物質』があったら『擬似魔力器官』は魔力を作り出せるってことなのか!?


「……ええっ。確かに、そうよ。あなた、なかなか鋭いわね」


 鋭いメスを光らせながら、ソフィアは言った。

 刃物を人に向けるなよ……。


「確かに、『擬似魔力器官』は魔力を全く作り出せないわけじゃないわ。ある『物質』を体内に入れれば、『疑似魔力器官』であっても魔力を作り出すことは出来るのよ」


 そ、その『物質』ってなに?


「……『シュガー』」


 しゅ、シュガー……?

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