EP.10「ウーロンティー」

 ……僕は目を開けた。


 ……。


 大体、わかったような気がする……。

 つまり、あなたたち、ソフィア・ニュートラムさんとティア・ゼペリオ・シュガーライトは広い宇宙のどこかにあるもう一つの地球(地球B)からやってきた人々で、この地球(地球A)に住む人間と違って『魔力器官』と言う臓器があり、それによって不思議な力、『魔法』が使える……『魔法使い』ってことですか?


「その通り。ちゃんと理解したじゃないー。優しく教えた甲斐があったわ」


 ……確かに、ソフィアは優しく教えてくれた。

 SFフィクションだけの話だと思っていたが、まさか、本当にこの地球と同じような、もう一つの地球が宇宙には存在していて、そこに住む人間たちは全員、『魔法使い』だとは……。

 正直、まだ信じられない……。

 そう思うと、ソフィアは右手の人差し指を上に向けた。

 気のせいか、彼の目が光ったような気がした。

 すると、いきなり指先から、火が出てきた。ライターのように。

 す、すごい。

 なにもない指先から火が出るなんて……。


 ……。


 だが、手品じゃないのか?

 指先にガスバーナーのホースが隠してあるとか。

 ソフィアの眉がピクッと動いた。

 すると、ソフィアの指先の火が消えた。

 火が消えると、いつの間にか、なにもなかったはずの床にテーブルがあった。オシャレな喫茶店とかに置かれてありそうなデザインの。

 テーブルの上には、ティーカップと皿、スプーンがあり、ステンレス製のポットがあった。

 馬鹿な、いつの間に!?


 ソフィアは得意げに微笑みながら、ポットを持って、ティーカップに琥珀色の液体を注いだ。湯気が立っている。

 アレはコーヒー?いや、コーヒーの匂いではない。紅茶か?

 ソフィアはティーカップを、自分の唇に近づける。


「うーん、やっぱり、この星のウーロンティーって一味違うのよねー」


 ウーロン茶かよ。

 ソフィアはティーカップを空にすると、テーブルに置いた。

 すると、瞬きしている間に、テーブルとティーカップ、皿、スプーン、ポットが消えていた。

 マジかよ……嘘でしょ……。

 これには、さすがにたまげた。


 ……。


 でも、やっぱり、手品じゃないのか?

 なんか、床に一瞬でテーブルが出て、消える仕掛けとかがされてあるんじゃないのか?

 ソフィアの額に青筋が浮ぶ。

 すると、ソフィアはズカズカと歩き、僕の目の前に立った。

 なになになに、なんだ?なんだ?

 ソフィアは僕の頭に手を置いた。


「あなた、ちょーっと、お頭の働きがよろしくないみたいだから、すこーしだけ刺激を与えるわね……」


 え?え?え?

 ソフィアの目からバチバチと火花が散っている。

 そして、その巨体のあらゆるところから、紫色をしたエネルギーのようなモノがビリビリと飛び散っている。

 たぶん、電気だコレ。

 ていうか、この人、怒ってる!?

 いやいや、ちょっと待って!いきなり、そんな『魔法』とか言われても、そんなすぐに「はい、そうですね」と言えるわけないでしょう!?

 マジかよ、嘘でしょう!?

 僕に電気を流す気ですか!?


「ちょっと、痺れるわよ……」


 ソフィアは固い笑顔で言った。

 流す気だ、この人!?

 ちょっと、どころでは済みそうな感じではないんですけどォ!!

 ソフィアの目がまた光った。

 ぎゃああああーーー!!!!!と叫びたかったが、猿轡されているんで叫べなかった。


 ……。


 気絶はしなかった。

 ただ、痺れた。誤って、スーパー銭湯の電気風呂(強)に入ってしまった時より痺れた。

 シュガーライトから受けた電気ショックは気絶するぐらいのショックだったが、ソフィアは気絶しない程度に電気を加減してくれたらしい。

 おかげで、気を失わずに電気ショックをじっくり味わうことになったが……。


「まったく、もう!簡単な『魔法』とはいえ、無駄に私の『魔力』を消費させないでよね!」


 ……。

 僕は、『魔法』の存在を信じることにした。

 というか、既に心のどこかでは『魔法』を信じていた。ただ冗談半分で、手品じゃないかと疑っただけだ……。

 ここ最近の不思議な出来事も、シュガーライトから受けた電気ショックも、今こうしてソフィアに心を読まれ、電気を流されたのも、さっき話で聞いた『魔法』のような常識と現実の枠から外れた力でなければ説明が出来ないし。


「そうそう。素直でいいわね、あなた。あたし、物分かり良い素直な子は好きよ」


 ソフィアはニヤリと笑い、唇を舌で舐めった。

 僕はゾクっとした。まだ電気が体に残っているのか?

 ……あ!

 電気で、頭の働きが活性化したのか、あることに気づいた。


 そういえば、地球Bでの戦争を終わらせ、その星の頂点……つまり、王様になった男の名は『ロード・シュガーライト』。

 そして、金髪で紫色の目をしたあの少女は『ティア・ゼペリオ・シュガーライト』という名前だった。

 ……まさか。

 なにもない床に、オシャレなデザインの椅子が出現した。

 その椅子にソフィアは座る。


「そうよ、あの子……。ティア・ゼペリオ・シュガーライトは、我が星の頂点に立つ者、ロード・シュガーライトの娘よ」


 ……!?

 マジかよ、嘘だろ。

 僕を気絶させ、通信機の使い方もわかっていないようなポンコツで未熟な魔法使いのシュガーライト……いや、ティア・ゼペリオ・シュガーライトという少女は、戦争を終わらせた王様の娘だって!?

 つまりは、『お姫様』ってこと!?


「まあ、正確に言うと、我が王であるロード・シュガーライトには100人以上の奥さんが居て、同じく100人以上のお子さんが居るのよ。ティアちゃんは、その100人以上居る王の子供の一人。確か、あの子はゼペリオ家だから、王にとっては何人目の子供だったかしら……」


 ソフィアは指を使って、数を数えた。

 王には、妻と子供が100から先がわからないほどに居るって言うのか……。

 一夫多妻制なのか、そっちの星は?

 いろんな意味で大丈夫なのか、そっちの星は?

 ソフィアは数えるのをやめた。


「んー。正確な人数はわからないけど、とりあえず100人以上よ。ロードはあの星の頂点に立つ最高の魔法使いですもの、その血を受け継ぐ者が100人ぐらい居てもおかしくないわ」


 おかしいよ……。

 そして、ティアには母親違いの兄弟が100人以上は居るってことか……。

 お正月やお盆とか、大変だろうな……。

 いや、そもそも地球Bには、お正月やお盆とかってあるんだろうか?


 ソフィアは、またティーカップとポットを出現させた。

 そして、ティーカップに琥珀色の液体……ウーロン茶を注いでいる。


「私たちの住む星と王については、わかってもらえたかしら?」


 はい。


「『魔法』についても理解したわね」


 はい(半ば強引に理解させられた)。

 ソフィアはティーカップに口を付けた。

 そういえば、なんだかのどが渇いてきた。


「じゃあ、ここからが本題よ。何故、地球Bから、私たちがここに来たのか?そして、ここ最近のあなたの周囲で起きた不思議な現象はなんなのか?その、すべての原因となった出来事を話すわよ」


 ……。

 どうやら、まだ乾いたのどを潤すことは出来ないようだ。

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