EP.08「スキンヘッドに拘束されました」
白いスーツを着たスキンヘッドの男がソファーに座って、TVを観ていた。
この位置からだと、顔は見えず、ソファーが邪魔で後頭部と首筋、両肩しか見えない。
だが、首が太くて肩幅が広かったので、後ろ姿だけでもマッチョな体つきなのが分かる。
どうやら、この人、ゴツい筋肉質な男だ。
大型TVのスクリーンには、細マッチョなイケメンがタンクトップとランニングパンツ姿で爽やかに海辺を走っている映像が映っている。
画面が切り替わり、今度は水泳スパッツを穿いて、スポーツジムのプールをクロールで泳いでいる。
プールから出たイケメンは、青いラベルのペットボトルを手にし、それをグビグビ飲んだ。
イケメンはその端正な顔を正面に向けて、
「運動後の水分補給は、アポカリプスェットで決まり!!破滅的に美味いぜ!!」
画面には、大きく『アポカリプスェット』の文字が出てきた。
……。
この映像は、『アポカリプスェット』のTVCMだ……。
「いやぁあん!この
……。
ソファーに座るスキンヘッドの男が身体をクネクネさせて、野太い声で歓喜の声を上げた……。
ヤバイ……。
かなりヤバイ……。
このスキンヘッドの男もそうだが、今の僕の状況もかなりヤバイ。
気が付いたら、コンクリートの壁にはりつけにされているんだもの……。
首と両手両足には、壁に埋め込まれた鉄製の枷のような物が付けられ、全く身動きが取れない。
しかも、口の中にはボールのような物が入っており、その上から口にガムテープかなにかで塞がれている。
なので、全く声が出せない。出せても、「ん、ん。ん」しか出ない。
今できることは、鼻から息を吸って出すだけ。
……。
かなり、ヤバイ……。
あのシュガーライトという少女が、僕の頬に触れ、バチッ!と火花が散ったところまでは覚えている。そのあとの記憶はない。
気づいた時には、こんな状態になっていた。
しかも、数メートル前にはソファーに座ったスキンヘッド。
目だけ動かして、周囲を見渡す。
この部屋には電灯はあるが、窓はない。埃っぽかった。
ここは地下室なんだろうか?
それでいて、物置き部屋なのか、棚や箱があり、コンクリートの床には瓶や缶などが転がっており、更にチェンソーやノコギリ、ハンマーなどがあった。
……。
R15指定のスプラッター映画で、よく観る光景じゃないか、これ……。
絶対ヤバイ。かなりヤバイ……。
気がついてからの数分間、嫌な想像ばかりが脳に浮かんできて、胃液が逆流しそうになっている。
猿轡されてなかったら、今すぐにでも吐きたい気分だ。
一体、これからなにが起きるんだ?
僕はどうなってしまうんだ!?
「安心なさい、東園奏太くん。取って食べたりしないから……。それに、あなた、ギリギリあたしの射程外だし」
!?
スキンヘッドの男はTVを見つめたまま、僕の名前を言った。
何故、僕の名前を?
そして、ギリギリ射程外ってなに?
TVの画面は、いつの間にか砂嵐に変わっていた。
「東園奏太……誕生日は2005年7月7日。東京生まれの16歳。私立聖アルジェント学園の一年生……。現在の住所は、城宮県億台市風見町のアパート……」
なっ!?
なんで、コイツ、僕の名前と誕生日、学校や住所がわかるんだ!?
そう思っていると、スキンヘッドの男は前を向いたまま、手に持ったカードのような物を僕に向けた。
……。
アレは僕の学生証だ……。
なるほどねー、だよねー。そりゃあ、僕の個人情報がある程度わかるわけだ……。
いや、そうじゃない!!
なんで、僕は今こんな状態になっているんだよ!!
一体なにがどうなって、こうなったんだよ!!
それに、今は何時何分だよ!?
気を失ってから、何時間経ったんだよ!?
僕は目を動かして、また室内を見回す。
畜生!ここには、時計がないのかよ!!
「今は、夜の11時よ」
スキンヘッドの男はそう言った。
午後11時……。
リサイクルショップ『万物中古市場』に行ったのが、午後4時半ぐらい。
それで、西川くんが倒れたのが午後5時ぐらい……。
げっ!6時間も気を失っていたのか、僕は!?
「ティアちゃんはね、ペーパーテストでは優秀なんだけど、実技で魔法を使うのがどういうワケか、未だに下手なのよねー……。日本語の習得、言語調整もまだ完全に出来てないし、あなたを電気ショックで気を失わせるのは一、二時間程度で良かったのに、上手く加減が出来なかったから、あなたを6時間も気絶させてしまったのよー……。彼女に代わって謝るわ、ごめんなさいね」
よくわからないが謝られた。
なんか、どう反応していいのか困ってしまうな ぁ……。
……。
アレ?なんか、おかしくないか?
僕は猿轡をされている。それは間違いない。
なので、さっきから一言も言葉を発していない。
なのに、なんで、このスキンヘッドの男は、僕が頭の中で思っていることに答えているんだ?
……。
え?まさかだけど……。
え、もしかして、心読まれてる?
ハハッ、まさか、そんなバカな。
「うん。そのま・さ・か。私は今、あなたの心の声を読んでいるわ」
ああ、やっぱりそうですか。なるほど。
……。
うそーん……。
マジかよ!嘘だろ!?なんでだよ!!
なんで、僕の心の声が読めるんだよ!?
「魔法使いですもの。人の心の声を読むぐらい出来るわよ」
スキンヘッドの男は、TVの砂嵐を見つめながら言った。
……。
いよいよ、本格的にヤバくなってきた。
なにがヤバいのかは具体的にわからないが、ここ数日、流星がぶつかってきたり、西川くんが入手困難になっている映画のビデオを何回も入手したり、さらに西川くんが吐血して『アポカリプスウェット』で息を吹き返したり……。
そして、シュガーライトという名の少女と出会ったり……。
こんなにもわけのわからないことが続いている。
だが、これだけは理解し始めた……。
僕はいつの間にか、現実や常識、当たり前だった日常という世界の枠から外れたところに足を踏み込んでしまったことに……。
リサイクルショップで、シュガーライトが言った『カケラ』や『魔力』とかいう単語の意味は、まだわからない。
だが、少しずつだが、だんだんわかってきた……。
あのティア・ゼペリオ・シュガーライトという金髪で紫の瞳をした少女と、今、目の前にいる白いスーツ姿のスキンヘッドは……。
「私の名前はソフィア・ニュートラムよ!失礼ね、あなた、さっきから人の事をスキンヘッド、スキンヘッドって!?」
僕の心を読んだらしいスキンヘッドから、野太い声で怒鳴られた。
だったら、僕の意識が戻った時点で名前を名乗ってくれよ……。
「あ、あん。そうだったわね……。ごめんなさいね」
そんな風に素直に謝られると逆に困るし、いちいち人の心を読まないでくれ……。
あと、この猿轡、そろそろ外して……。
話がズレたが、仕切り直して……。
正直、まだ信じられないのだが……。
こんな立て続けにワケのわからないことが起き続けているから、もはや、こう思うしかなかった……。
今、目の前にいるスキンへ……ソフィア・ニュートラムという男と、あのティア・ゼペリオ・シュガーライトは、普通の人間じゃない……。
「そうよ。この世界の人間にとっては、私たち、普通じゃないわ。だって、この世界とは異なる世界から来た魔法使いですもの……」
ソフィアはそう言った。
そんなバカな……と言いたいところだが、僕は不思議とその言葉を違和感なく受け止めた。
まだ半信半疑ではあるが、シュガーライトからスタンガンもなしに電気ショックを食らったし、目の前のソフィアからは現在進行形で今、心を読まれているし。
魔法使いだと言われても、30%ぐらいは信じてしまうよ……。
……。
それにしても、このソフィアとかいう人……。
なんで、TVの砂嵐をずっと見つめているんだ?さっきは数秒間だけ、アポカリプスェットのTVCMを観ていたが。
「そろそろ、定時連絡が来るからよ」
ソフィアはそう答えた。
すぐ答えてくれるのはありがたいんだけど、心の声をいちいち読むのは、ちょっとやめて……。
ん?
定時連絡だって?
すると、砂嵐だったTVの画面が急に鮮明な映像に切り替わった。
TV画面に映っているのは、金髪で紫色の瞳で白いブレザーを着た少女……ティア・ゼペリオ・シュガーライトだ。
何故、彼女が今、TVに映っているんだ?
「こちら、ティア・ゼペリオ・シュガーライトです。ソフィアリーダー、通信は届いてますか?」
シュガーライトは、キリッとした表情だった。
彼女の顔は古本屋とリサイクルショップで間近に見たが、TV画面であっても、彼女の顔はとてもキレイで可愛らしかった。
やっぱり、この少女……普通に喋っていると、キレイで可愛いな……。
って、あ、ヤバっ、今の心の声、聞かれたか?
「……。通信はちゃんと届いているわよ、ティア・ゼペリオ・シュガーライト。そちらの状況は?今、どこに居るの?」
ソフィアの口調はそのままだが、声音がさっきと違った。
少しだけ、貫禄のようなものが感じられた。
TV画面に映るシュガーライトは暗い場所に居るのか、彼女の姿以外はなにも見えず、どこに居るのかわからなかった。
ソフィアに、さっきの僕の心の声が聞かれていなければいいが……。
シュガーライトは真剣な表情で、更にこう言った。
「……ソフィアリーダー……。通信は届いてますか?」
「……届いてるわよ」
「リーダー?通信届いてますー!?アレレー、おっかしいな……。この通信機、もしかして、壊れてる?」
シュガーライトは困った顔をしている。
ソフィアは後ろ姿しか見えなかったが、背中越しに困惑してるのが伝わってくる。
……。
TVの画面が大きく上下に揺れ始めた。
「リーダー!聞こえてますかー!?リーダー!!」
「聞こえているわよ!ティア・ゼペリオ・シュガーライト!!ホント、バカな子ー!?」
……。
たぶん、シュガーライトは携帯電話か、スマートフォンみたいな感じの通信機器を持っていて、その通信機から発信した映像がなにかで受信され、現在のシュガーライトの映像がTVの画面に映し出されているのだろう。
そして、こちらからはシュガーライトの姿が見えているが、彼女からは、こちら側の姿と声がわからないようだ。
それで、今、シュガーライトは通信機的なモノを上下に揺らしているのだろう……。
だからか、画面が激しく上下に揺れて、気持ちが悪くなってきた……。
「ああん、もう!こちらで調整するから、揺らすのをやめなさい!!」
ソフィアはTVに、右手を向けた。
そして、手を大きく広げると……。
画面の揺れがピタッと止まった。
再び、TVの画面にシュガーライトの顔が正面で映っている。
「あ、リーダー。通信がつながりましたね」
「こちらで通信を調整したのよ……」
「さすがです、リーダー」
どうやったのかはわからないが、シュガーライトの通信機がちゃんと機能し、こちら側の映像と音声が送られたようだ。
もう少し画面の揺れが続いていたら、猿轡されたままリバースして、吐瀉物で喉を詰まらせるところだった……。
仕切り直すように、ソフィアは咳払いをした。
「それで、ティア・ゼペリオ・シュガーライト。そちらの状況は?」
「はい!私は現在、西川映作さんが入院している病院の近くに居ます。この場所は、ちょうど、西川映作さんの居る三階の病室の窓が見える位置です」
僕が気絶した後、西川くんは救急車で病院に運ばれたようで、今は病室で安静にしているようだ。
それで『万物中古市場』の近くとなると、今、シュガーライトの居る場所は『県立加美野町病院』か?
「西川映作さんは医師から栄養剤を注射されたようで、腕には点滴が付けられ、現在、病室のベッドで眠っています。明日は精密検査をして、問題がなければ退院できるそうです」
それを聞いて、僕は心の底から安心した。
ここ数日、西川くんは体調が悪そうだった。それで、今日、店の中で血を吐いて倒れたので心配だったが、もう大丈夫なようだ……。
良かった……。
本当に良かった……。
「どうやら、彼の消費した『魔力』と『生命エネルギー』は点滴と栄養剤で回復したようね……。それにしても、ティア・ゼペリオ・シュガーライト……」
「は、はい!」
シュガーライトは背筋をピン!とさせた。
「あなた。ちゃんとあたしが教えた通り、『カケラ』の魔力が尽きて倒れた人間に『アポカリプスウェット』を飲ませたのは偉かったわよ。あと一歩遅かったら、彼、生命エネルギーが尽きて死んでいたかもしれなかったわ。グッジョブよ!グッジョブ!」
ソフィアは親指を立てた。
シュガーライトは満面の笑みを浮かべた。
「は、はい!ありがとうございます!これもすべて、ソフィアリーダーのご指導のたまごとじです!!」
「それを言うなら、ご指導の賜物ね……。早く、この世界の言葉、日本語をちゃんと話せるようになりなさいね」
「はい!」
……。
ティア・ゼペリオ・シュガーライト……。
リサイクルショップでは変な女の子だと思ったけど、やっぱり、この子、可愛いな……。
『ご指導の賜物』を間違えて、『ご指導のたまごとじ』と言うなんて、バカワイイ……。
なんというか、しっかり者に見えてポンコツなところが、実にあざとカワイイというか……。
とにかく、もう、本当にカワイイな……。
もし、良ければ、今度一緒に映画館でホラー映画か、ゾンビ映画を鑑賞をしたいな……とか、思っている場合ではない。
一体、なにを言っているんだ、この二人は?
また『カケラ』とか、『魔力』とか言っているし、そんでもって『生命エネルギー』が点滴と栄養剤で回復したとか、魔力が尽きて倒れた人間には『アポカリプスウェット』を飲ませるとか……。
本当になにを言っているんだ、この二人は?
一体、どういうことなんだ!?
ちゃんと、わかるように説明してくれよ!!
ここ最近いろいろありすぎて、いいかげん、頭がパンクし……、
「ちょっと、東園奏太くん!心の声がうるさいわよ!あとで、ちゃんと説明してあげるから、今は静かになさい!こっちは、通信に『魔力』を集中しているんだから!!」
ソフィアは大きく怒声を放った。
思わず、怯む僕。
は、はい……。静かにします……。
……。
しかし、勝手に心の声を読まれているのに、「うるさい」と注意されるのは、なんか理不尽なような気がするのだが……。
……。
いや、なんか、もう今は黙ってた方が良さそうだ……。
このソフィアとかいう男、怖いし……。
「どうかしましたか、リーダー?東園奏太さんがどうかしましたか?」
「別に。気にしなくていいわ」
画面のシュガーライトはポカンとした表情をしていた。
「あ。そういえば、西川映作さんが救急車で運ばれた際、東園奏太さんが興奮状態だったので落ち着かせるため、軽く電気ショックを与えましたが、彼、どうなりましたか?」
「ちょっと、ショックが強すぎたみたいね……。彼、ついさっき目を覚ましたところよ。……まあ、それはいいけど、あんな場所に人を放置しちゃあ、ダメじゃないー。あたしが来なかったら、彼、今頃どうなっていたことやら……」
シュガーライトは、急に顔が青ざめ、申し訳なさそうな表情になった。
「ええっ!?あ、あの……すみません!!焦ってたんで、つい!!本当なら、東園奏太さんをリーダーの元へ連れて行く予定でしたが、想定外の出来事が起きてしまったので、つい……!ごめんなさい!本当に、ごめんなさい!!」
彼女は物凄い勢いで、何度も何度も頭を下げた。
僕に謝っているのか、ソフィアに向かって謝っているのかがわからなかったが、シュガーライトは僕を気絶させた後、一体、どこに僕を放置したのだろ……。
「まあ、それはいいから、話を続けなさい」
ソフィアが冷たく話を軌道に戻した。
……。
いくらなんでも放置された僕に対して、冷たすぎない?
シュガーライトは頭を上げた。
「は、はい!」
シュガーライトは再び、表情をキリっとさせ、背筋をピンとさせた。
彼女の生真面目な性格が伺える。
「電気ショックで気絶した東園奏太さんを放置した後、私は……」
なんか傷つくから、もうこれ以上、放置したとか言わないで……。
「西川映作さんが乗った救急車を追って、午後5時30分頃に病院に着きました。西川映作さんの病室は一人部屋になっており、病室には救急車に一緒に乗っていた友人の南城大福さんが居て、午後6時前ぐらいには、西川映作さんのご両親がやってきました。一応、私は東園奏太さんの知り合いということで、急用ができた東園奏太さんに代わって見舞いに来たと言い、西川映作さんの病室に入りました」
僕を放置した上に、僕の名前を利用したのか……。
「この病院は午後7時で面会終了なので、私と南城大福さん、西川映作さんのご両親は午後7時前には病院から出ました」
「……。病院から出たあと、西川映作くんに近づいてきた人間はわかる?」
急にソフィアの声色が変わった。
背中しか見えないので表情はわからないが、ソフィアの様子が変わったのを感じた。
この部屋に少しだけ緊張感が漂い始めた。
「はい。病室にいた際、ドアにこっそり『結界』を張っておきました。この『結界』は、私が病室から離れても、『魔力』と『生命エネルギー』で誰が出入りしたかがわかるようになっています。例え、ドアの隙間から虫が入ってきてもわかりますし、『魔力』のある人間がドアに触れたら即、『結界』から『束縛魔法』が発動するようにしておきました」
「さすが、アカデミーでは学力だけは高かったティア・ゼペリオ・シュガーライトね。病室に『結界』を張ったのはグッジョブよ、グッジョブ」
ソフィアはまた親指を立てた。
シュガーライトはエヘヘ……と照れ笑いしてる。かわいい。
二人の会話の内容はよくわからなかったが、「学力だけは高かったティア・ゼペリオ・シュガーライト」という一言がちょっと気になった。褒めているのか、それ?
シュガーライトはゆるんだ表情を戻し、またキリっとした表情になった。
「それで現在まで、病室にやってきたのは夕食を持ってきた看護師さんと、食器を回収しに来た看護師さんの二人です。消灯時間後、見回りでやってきた看護師さんも居ますが、ドアを開けて中を見ただけでした。『結界』が発動しなかったので、この人たちは『魔法使い』ではなく、この世界の普通の人間です」
「……。もう一度聞くけど、本当に看護師が三人来ただけ?」
また、ソフィアの様子が変わった。
口調が緩くなったり、固くなったりとどうも掴みどころがわからない人だな……。
「はい。三人は二十代から三十代の女性で、この世界の人間です。『魔力』は一切感知されませんでした。それに、病室には虫や小動物も入ってきていません」
シュガーライトの報告を聞いて、ソフィアはなにか考え込んでいる。
「わかったわ、ティア・ゼペリオ・シュガーライト……引き続き、西川映作の警護を。夜中に、『奴ら』が『カケラ』を奪いにやってくるかもしれないから、徹夜になるけど、しばらくしたら、ダイヤか、ライラ、エイグル達もそちらに向かわせるようにするわ」
ソフィアは厳格な態度でそう言った。
ダイヤ?
ライラ?
エイグル?
……人の名前だろうか?
シュガーライトやソフィアのような者達が他にも居るのか?
「決して気を抜かないようにね。病院の関係者以外、西川映作くんには誰も近づけさせないように。また、病室に虫一匹でも入ってきたり、『結界』になにか動きがあったら、すぐ私に連絡するのよ。いいわね」
「はい、了解しました。ティア・ゼペリオ・シュガーライト、任務を続行します」
シュガーライトがそう言うと、TVの画面が砂嵐に戻った。
ソフィアはテーブルの上にあったリモコンを持って、TVを消した。
……今の会話。
シュガーライトが、西川くんを警護しているだって?
それに、まるで何かを警戒しているような話だった……。
西川くんは、誰かに狙われているか……?
一体、なにに?
ただでさえ、訳の分からないこと続きなのに、一体なにに警戒しているんだ、彼らは?
「さぁてと……んんー」
ソフィアが背伸びをして、ソファーから立ち上がった。
で、デカい……。
身長180センチ以上はあるんじゃないだろうか?
そして、僕に後頭部と背中しか見せていなかったソフィアが振り向いた。
……。
スキンヘッドで、筋肉質な巨漢だった。
いかつい顔をしているかと思ったが、想像していたよりも中性的で優しそうな顔をしていた。
両目には青いアイシャドウ、唇には紅い口紅とメイクが施され、両耳にはキラキラと輝くピアスがぶら下がっている。
白いフリルのついたシャツの上に白いスーツを着ており、太く長い脚には白いスラックスを穿いていた。全身真っ白な服装だったが、靴だけは茶色だった。
甘い香りの香水の匂いが漂ってくる。
……。
正面から見て、僕は確信した。
明らかにヤバイぞ、この人……。
「ヤバイ人って……失礼ね、あなた。むしろ、あなたにとってのヤバイ人とヤバくない人の基準ってなにかしら?」
ッ!しまった!!
忘れていたが、心を読まれているんだった!
ソフィアは一歩一歩、僕に歩み寄ってくる。
僕は未だに首と両手両脚が縛られ、猿轡がされたままだ。
……一体、これからなにをするつもりなんだ?
「なにをするつもりって……。決まってるじゃない。成熟した男の私と、まだ青い果実の男の子がこんな狭いお部屋に二人で居るのよ……。なにも起きないわけがないじゃない……」
血の気が一気に引いた。
いや、血が全身から抜けたかと思った。
待て待て待て待て!!
もしかして……と思ったけど……。
ソフィアは舌を出し、ぺろりと自分の唇を舐めた。
「優しく、教えてあ・げ・る……」
甘い声音でソフィアが言った。
大きく叫び声を上げたかったが、猿轡をされているので出来なかった。
ソフィアが僕の目の前に立った。
「さぁて、覚悟は出来たかしら……。ボ・ウ・ヤ」
ソフィアの大きな手が僕に向かってくる。
ひぇええーー!!やめて!!やめてくれ!!
身動きが取れなかった僕に唯一出来たことは、目をつぶることだけだった……。
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