EP.01「僕は流れ星にぶつかりました」

 ……。

 なんだ、この映画……。

 真っ暗な部屋の中で、僕はポカーンとしていた。



 今は、2022年1月17日。月曜の夜。

 僕はアパートの自室に居た。

 部屋の電気を消し、今日、学校帰りにリサイクルショップで買ってきた中古の映画DVDをTVで観ていた。


 映画のタイトルは「仮面ニンジャー対悪魔のトカゲ人間」。

 1971年にアメリカで制作、公開された低予算のB級映画だ。

 内容は突然、現れたトカゲの姿をした着ぐるみ感バリバリのモンスターと、安っぽい感じの黒い装束と黒い仮面を身に付けた忍者ヒーロー……仮面ニンジャーが戦う映画だ。

 タイトルからして、この仮面ニンジャーが忍術を使ってモンスターと戦う映画に思われるが、この映画に出てくる仮面ニンジャーを忍術をまったく使わない。

 刀でモンスターに斬りかかるも、すぐに刀は折れ、何故か命中率の高い手裏剣を投げる。そして、鎖鎌を振り回す。

 クライマックスでは『ジャパン神秘の光!サムライニンジャーパワー!!』という謎のパワーが発動し、怪力になった仮面ニンジャーが素手でトカゲのモンスターと殴り合いをして倒している。

 かなりバカバカしい内容だ。


 だが、これが良い。

 僕はむしろ好きだ、こういう映画。


 『仮面ニンジャー対悪魔のトカゲ人間』はそのトンチンカンな内容から、一部の映画マニアの間ではカルト的な人気を得ている。

 しかも、続編が7作も出ており、2ではサメ人間と戦っている。

 何故、トカゲからサメになったのかがわからないが。


 僕はこういうB級映画を観たり、珍しい映画のDVDやVHSなどを集めたりするのが趣味だ。

 趣味というか、ライフワークというか。

 亡くなった僕の爺さんが、こういうマニアックなB級映画が大好きだったから影響されたのかもしれない。


 映画を観終わり、僕はリモコンでTVの電源を切った。


 ん?


 映画を観ていたから気にならなかったが、カーテンの隙間から光が漏れている。

 今は夜のはずだ。何故、外から光が漏れているんだ?

 僕はカーテンを開き、窓を開けた。

 すると、外には信じられない光景が広がっていた。


「なっ、なんだ!?」


 夜空に、数え切れないほどの多くの星が流れている!

 まるで雨か、霰のように。あるいは黒い紙に、白いインクで次々と横線を引いているかのように。

 流星群って言うのか、あれは?


「あっ、そうだ!!」


 確か、流れ星に願い事を言うと、その願いが叶うって話があったな。

 あまり幽霊とか、おまじないとか、オカルトじみたことは信じないタチだが、こんなにも星が流れているわけだし、試しに願い事でも言ってみるか。

 まあ、流れ星に願いを言っただけで、願い事が叶うのなら誰も苦労はしないけど。

 僕は目をつぶり、手を合わせた。


「……」


 目をつぶると、いろんな願い事が次々と頭の中に浮かんでくる。

 大事から小事まで、様々な願い事が頭の中に浮び、また別の願い事が出てきたりと、頭の中は願い事の渋滞が起きていた。

 そのせいか、これだという願い事が出てこない。


「えっと……。えー、えっと……」


 願い事を考えている内に、だんだん願い事ではなく、さっき観た『仮面ニンジャー対悪魔のトカゲ人間』の映像が頭に流れ始めた。

 頭の中で、仮面ニンジャーとトカゲ人間が戦っている。

 ええい!今、仮面ニンジャーはどうでもいいんだよ!!願い事だよ!願い事!願い事を考えろよ!!

 すると、急になにか圧を感じた。


「ん?」


 目を開けてみる。


 ……。


 星……というか、光?

 それが、だんだんと部屋の窓に……いや、自分に向かって来ている。

 まるで、スマートフォンをいじりながら運転している自転車か、よそ見運転をしている車、バイクのように。

 あるいは、ドッジボールをやってて、ボールが自分の顔に向かって飛んでくるかのように。


 え?え?え?


 なにこれ?

 丸い光が、ドンドン僕に迫ってきている。

 まさか、この光、僕にぶつかろうとしているのでは?


 ハハ、まさか、そんなことあるはずが……。

 流れ星にぶつかった人間なんて、聞いたことないし。

 B級映画でも、そんなマヌケなシーン見たことないし。

 流れ星が僕にぶつかるとか、そんなことあるはずが……。


 あった。


 僕は流れ星とぶつかった。

 避けようと思ったが、なんか、わけがわからなくて避けれなかった。

 星とぶつかった僕の身体には強い衝撃が走り、僕はそのまま足を滑らせた。

 そして、バランスを崩して、背中から倒れた。


「ぐわっ!」


 その時、後頭部を床にぶつけた。

 脳が揺れている。

 だんだん、意識が遠のいてきた……。


 意識を失う寸前。

 僕の揺れる脳の中に浮かんできたのは、あのでたらめな忍者……仮面ニンジャーの姿だった。




 ……。

 ……?

 ……??

 ……!?


「はわっ!!」


 気がついた僕は、変な声を出して物凄い勢いで起き上がった。

 ぱっちりと目を開いて、周囲を見渡す。

 カーテンと窓が開きっぱなしになっている。

 部屋にはTV、ブルーレイ・DVDプレーヤーとビデオデッキがあり、趣味で集めた映画のブルーレイ、DVD、VHSソフトが棚に並んでいる。

 そして、壁にはB級ホラー映画のポスターが何枚も貼られている。

 間違いない。ここは僕の部屋だ。

 窓を見ると、空は明るく、鳥の鳴き声が聞こえる。

 朝になっていた。

 窓から冷たい風が入ってきたので、僕は窓を閉めた。


 僕は昨日、窓から流れ星を見ていた時に足を滑らせ、頭を打って気絶したらしい……。

 うっ!今になって、後頭部と背中が痛くなって来た。

 記憶を失っていないか、確認する。


 僕の名前は東園奏太あずまその かなた。誕生日は7月7日。通っている学校は、私立聖アルジェント学園。

 好きな食べ物はハンバーガー。特にチーズ入り。

 嫌いな食べ物はグリーンピース。理由はなんの栄養があるか、わからないから。

 好きな映画監督は、ポーター・ジョンソン、ラピッド・ピンチ、ディオ・アルジェナ。

 好きな映画は……ありすぎて、すぐには出てこない。

 ……ここまで思い出せるなら、多分、脳は大丈夫だろう。


 確か、昨日の夜、流星群を見ていたら、星の一つが僕に向かってきて……あ、そうだ!僕は流れ星にぶつかったんだ!!

 そして、その衝撃で足を滑らせたんだ!

 バカみたいな話だが、本当に起きたことだ!!

 この頭と背中の痛みが証拠だ!


 しかし、何故、空から降って来た流れ星が僕に迫ってきたんだ?

 あと、流れ星とぶつかったはずなのに、僕の身体は頭と背中が痛む以外は無事だ。どこにも傷はないし、着ている服も破れたりはしていない。

 さらに言うと、流れ星が入ってきた窓も壊れたりしていない。

 なんなんだ?なにが起きたんだ?

 やっぱり、アレは幻覚か、夢だったのか?


 部屋にも異常はないようだし……。

 ふと、テーブルに置いてあったスマートフォンを見る。

 ゲッ!!もうこんな時間!?

 急がないと、学校に遅刻してしまう時間じゃないか!!

 僕は急いで、服を脱ぎ始め、ブレザーの制服に着替えた。

 着替えが終わり、カバンを持って、急いでアパートから出た。

 ドアに鍵をかけ、僕は駅に向かって猛ダッシュした。



 数分後。風見駅に到着した。

 これなら、なんとか遅刻せずに済みそうだ。

 僕は定期を持って、改札口を抜けた。


 駅の中は多くの会社員や学生達が駅内を忙しく行き来したり、ホームに立って電車が来るのを待っている。

 僕は乱れた制服を直しつつ、駅のホームに立って、電車を待った。

 改めて、昨日のことについて考えた。


 昨日は流れ星を見ていた。

 そしたら、流れ星がこっちに迫ってきて激突。

 そして、床で倒れた。

 だけど、どこも異常なし。

 なんだったんだ、アレは?

 やっぱり、幻覚か、妄想だったのか?

 ちょっと、最近、映画を毎日のように観ていたし。


 すると、近くにいた別の学校の女子生徒たちの声が耳に入ってきた。


「ねぇ、昨日の流星群見た?」

「うんうん!見た!見た!マジ、凄かったー」

「超、キレイだったよねー。ほら、スマホに写真も撮ったし」

「でも、ちょっと怖くなかった?なんか、世界の終わりみたいな感じでさー」

「ちょっと、怖いこと言わないでよー」


 昨日、見た流星群は、夢や幻覚ではないようだ。

 だが、昨日、僕にぶつかった流れ星は一体?

 そう思っていると、電車がやって来た。

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