第53話 彼女達はずっと彼の事を想っている

第53話


陽葵&暦side


「行っちゃったね…」

「そうだね…」


彼は今の愛している人の所へ向かった。


これは仕方がない結末だ。


もう、理解わかりきった終演の筈だ。


でも…


それでも……


「………悲しいね。」

「うん、自業自得だから余計にね。」


私達が犯した罪は許されない物だ。


私達、いやそれ以上に彼がそう思っているだろう。


それなのに、彼は…


「相変わらず、優しかったね。」

「うん、愛に満ちた人だよ人識くんは…」


私達は去りゆく彼にこう懇願した。


烏滸がましくも、縋る様に…


「「私達と一緒に居てください。私達の事をずっと許さないでください愛してください。」」


その言葉を聞いたひーくん(人識くん)は、さも当然の様に…


「はぁ、当たり前だろ!許さねぇよ大好きだよ、陽葵。暦。」


と答え、眩しい程の笑顔を見せる。


ああ、焼かれる。


私達にとって彼は眩しすぎて、この身全てが焼き尽くされそうだ。


「幸せだね、私達。」

「うん。人識くんに会えた事が私の一番の幸せ。その次に人織が産まれてきてくれた事。」

「…まだ解らないんでしょ?」

「だね。でも…確信はしてるよ。」


二人して顔を見合わせ、笑い合う。


もう、お互いの間に確執はない。


私達は二度と同じ舞台に上がれないと理解わかってるからだ。


まぁ、それで良いのだろう。


何の気兼ねもなく、親友で居られるのだから…


「えっと、名前なんだっけ…のび太君のお嫁さんみたいな感じだった気がするけど…」

「シズカちゃんじゃなくて、雫ちゃんよ。」

「そう、それ!雫ちゃん、頼むわよ…」

「……そうね。」


今の人識くん(ひーくん)を任せられるのは彼女だけだし、他の女には絶対に手出しをさせないから。


でも、出来るなら…


「「血は繋がってないし、私の娘と…」」


好きな人のお母さんになるのも、良いよね。


ちょっとだけお義母さんが羨ましいわ…


「ねぇ、陽葵ちゃん?」

「何、暦ちゃん?」

「元夫の事、どうするの?」

「どうって…」

「だって、もう逃げないって顔してるもん、陽葵ちゃん。それにさ…」


相変わらず、目ざとい親友ね暦ちゃん…


、完全に戻ってるんでしょ?」

「はぁ、やっぱり気が付いてたのね…」


まぁ、そろそろ私も話すつもりだったけど…


「ちゃんとケジメは着けるわよ。でも、それは娘達が成人して色々とゴタゴタに巻き込まれない様になってから。」

「ふーん、そうなんだ。」

「それに、暦ちゃんもそうでしょ。結果がもし、確信してる内容と違ったら…」

「…そうだね。とても、怖いよ私は……」


そう言う暦ちゃんは少し震えていた。


当然の話だ。


それでも…


「捨てる様な真似はしないでよ?」

「する訳ないじゃん!例え、そうじゃないとしても、絶対に人識くんの子供だと思ってるけど、本当にそうだったとしても…」


彼女は真剣な顔で…


「…人織は私の娘だ。絶対に捨てる事なんてしないわ。」


愚問だったわね、ごめんなさい。


「はぁ、失恋て辛いね陽葵ちゃん…」

「そうね、暦ちゃん…」


でも、それが私達への罰なのだろう。


それで良い。


これからも彼は私達と一緒に…


居続けてくれる罰しつづけてくれるのだから。


続く

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