第34話 愛してる/大好きだ

第34話


その後、タガが外れたかの様に陽は泣き始めた。


こらこら、泣くのは良いんだが俺の服をティシュ替わりにするのは止めなさい。


…子供が出来たら、こんな感じだったのだろうか?


転校生、俺はお前の事を許さない。


まぁ、でも…


…この子を作った事だけは評価してやるよ。


絶対に陽葵には言えないけどな…


「お母さん…」

「あらら、寝ちゃった…」


と、彼女は俺にのしかかったまま寝てしまった。おそらく、泣き疲れたのだろう。


「…可愛いね、ひーくん。」

「だな。…陽葵?」


先程まで俺と陽を怯えた目で見ていた陽葵が意外な言葉を発した。


…お前、大丈夫なのか?


「大丈夫だよ、とは言えないよ。」

「何で君達はナチュラルに心を読んでくるかな?」


苦笑いが止まらない。


それに陽葵が言う事も仕方がないのだろう。


彼女にとって陽は知らない間に、俺以外に股を開いて産まれた異物。


そう簡単に認められる訳がない。


それでも…


「でも、何故か愛おしく映るの。」

「…そうか。」

「知らない子なのに、認めたくない現実なのに、今の私はこの子に泣いて欲しくないの。」


「原因は私なのにね。」と、少し悲しそうな微笑みを浮かべる陽葵。


俺はそんな彼女を抱き寄せ…


「そんなに気負うな、陽葵。」

「ひーくん…」

「これは俺達の問題だ、巻き込んでしまった俺達のな。」

「……うん。」

「だから、一緒に乗り越えるぞ。今度こそ、一緒にな。」

「…………うん!」

「まずは、お前はこの子…いやこの子達と向き合え。お前がこの子達の親という事実はどう足掻いても消えないんだ。だから、逃げるな。逃げずにちゃんと立ち向かえ。俺が支えてやるから。」


見ているか、転校生。


俺は何をしてでもお前から全てを奪い返すぞ。


何もかも、全てだ。


「うん、もう逃げない。今度こそ、絶対に。もう逃げて酷い目に遭うのもごめんだもの。」

「ふふ、だな。さて、陽をどうするか…」


ちゃんと帰すつもりだったが、少し予定が狂っちまったな…


「今日は私の家に泊まらせる事にするわ。色々と話したい事もあるしね…」

「そうか…」


大丈夫…いや、任せるか。


俺は陽葵が困った時に出てくれば良いだけだ。


そう思い、帰ろうとしていると…


「ひーくん!」

「うおっ、陽葵!?」

「私、乗り越えられるかな?また、逃げちゃわないかな?不安で、不安で、どうしようもなくて…」

「お前もバカだな、陽葵…」


俺は彼女を抱き返し、頭を撫でながら見つめ合い、耳元でそっと囁く。


「その為に俺が居る。一緒に乗り越えると言ったばかりだろう?」

「ひーくん…」


撫で続けると、落ち着いたのか陽葵は離れていく。


俺も安心したので、帰ろうとするのだが…


「ひーくん…」

「何だ、陽葵?」

「これからも私をずっと許さないでくれる愛してくれる?」

「当たり前だ。許さないよ大好きだよ、陽葵。」


多分、何かが徹底的に噛み合っていない。


あの時に入った亀裂はもう二度と埋まる事はないのだろう。


でも、それで良い。


これが今の俺達の在り方なのだから…


続く

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