第25話 再び隣で

第25話


俺達は隣並んで、料理を作り始める。


「お前、本当に上手くなったんだな。」

「うん…頑張った覚えも記憶も無いのに、身体が技術を覚えてる感じなの。」


「変でしょ?」と悲しそうに、陽葵は笑った。


何も解らないのは怖いよな…


あまり覚えていないが、俺が転生した時も多分…


いや、バブみを感じてオギャる事が多かったら、そうでもないかもしれないが。


「昔はひーくんに頼り切りだったのにね。」

「だな。お前、ちょくちょく頑張っては『わーん、真っ黒クロスケだよ!』ってなってたもんな」

「懐かしい、本当に昨日の様に思い出せるわ。」


おそらく、これが本音なのだろう。


彼女の台詞を真正面から受け取るのなら、おそらく彼女には記憶がない。


あの時から、昔の彼女に戻るまでの記憶が。


「なぁ、陽葵?」

「何、ひーくん?」

「お前、記憶が無いのか?」

「…うん。気が付いたら、大人になってた。あの時、ひーくんが庇ってくれた時から、時が止まったみたいに記憶が留まってるの。気が付けば、私の知らないひーくん以外の夫、子供が出来ていた!」


最後は泣きそうに成りながら、吐き出していた。


地獄…


今の彼女の現状を現すのにピッタリな言葉だろう。


そうか、彼女も地獄を味わっているのだ。


多分、あの時の彼女も…


…色々と合点がいった。


「…ごめんなさい、ひーくん。私、約束を守れなかった!」

「良いよ、陽葵。それに、守れなかったのは俺もなんだよ。」


事情が解らないまま、俺は翻弄され、俺は君を諦めてしまった。


暦と出会った事で、救われた気になっていた。


今此処に、その結末の果てに泣いている女が居るというのに…


はぁ、俺は本当にバカだ。


「陽葵、俺は気にするなとは絶対に言わん。」

「うん…」


過去は消せない。


傷は治っても、傷痕は残り続ける。


例え、そうだとしても…


「…だから、一緒に乗り越えよう。」

「…………………………………………………え?」


俺は彼女を愛していた。


身を焦がす程に大好きで、彼女以外の未来を信じれなかった程の初恋の人。


そんな彼女がのだ。


「俺はお前を見過ごせない。」

「…ひーくん!」

「今度こそ、一緒になるぞ!例え、どんな奴が相手でも、俺はお前を守る!奪われたとしても、奪い返す!過去の二の舞には絶対にさせない!」


そうだ。


例え、過去がどうであろうと、俺達は今を生きているのだ。


生きているのなら、


なら、やり直しくらい…


「何度でもやり直そうぜ、陽葵。」

「ひーくん!」


これからが、スタートだ。


続く

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