第19話 過去は追ってくる

第19話


雫side


それ以上、たーくんは何も言わなかった。


でも、私には解った。


確実にたーくんは無理をしている。


溢れ出しそうな怒り、悲しみを背負いながらも笑って凄そうとしている。


見ていられない…


…たーくんには笑顔で居て欲しい。


なら、私に出来る事は1つだけ…


「…たーくん!」

「ん?何だ、雫?」

「私は絶対にたーくんを裏切らない!たーくんを諦めない!手放さないから!」


この誓いは絶対に汚さない!


「ありがとうな、雫…」


だから、私はたーくんを守る。


君は誰にも譲れない!


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巧望side


あれから、転校生を避け続けた。


下手に関われば、傷が開いてしまうから。


雫は何も聞かなかった。


多分、俺に気を使ってくれているのだろう。


コイツは本当に良い女だ。


ロリコンになるのも良いかもしれないと、時々頭の中に魔が過る。


まぁ、その分過剰に気を割く様になったが…


うーん、一長一短だなこりゃ…


しかし、事件は起こった。


「ふわぁ、相変わらず寝心地が良いな。」


今日の昼休み、俺は久しぶりに一人だった。


雫の奴は委員会の仕事、モブくんは休み。


何でも、親戚の葬式だとか。


で、俺は一人で弁当を食べ、屋上で一人うたた寝していた。


いやぁ、心地よい風だ。


これを味わえるのは春の間だけなのだ。


ゆっくり、堪能しないと…


「うーん、いい風!気持ち良い!」

「そうだな。いい風だ。」


はぁ、誰か来たみたいだ…


って、コイツ等は!


「ん?先客か…」

「って、あの時に倒れた奴じゃん!」


あの転校生達が屋上に来ていた。


自己紹介を聞いてないので、名前は知らないし、興味もない。


知った所で、不意に傷を付けられるだけだろうしな。


「…帰るか。」


俺は黙って、帰る事にした。


だが、そうは問屋が降ろさなかったらしい。


俺は男の方に肩を掴まれ…


「おい、お前…」

「………………何だ?」

「お前は何故、俺達を避ける?あの時物も、俺達を見て取り乱していただろう?」

「えっ、そうなの?」


女の方は気が付いていなかったみたいだ。


その様子も、どうしようもなく陽葵を思い出させる。


アイツも、少し鈍感な所があったな…


「お前達に話す事はない。だから、その手を放してくれ。」


と、手を払い除け、俺は屋上を去ろうとする。


だが…


「良いじゃん!教えてよ!確か、たーくん、だっけ?」

「なっ!?」


やめろ、そんな呼び方をするな!


お前が、そんな呼び方をしたら…


「ふざけるな!」

「ひっ!?」

「ほっておいてくれよ、陽葵!」


つい、アイツの名前を出してしまう。


しかし、それが悪かったのだろう。


「おい…」

「何で…」

「あ゛?」

「「どうして、私(俺)達のお母さんの名前を知ってるんだ?」」


どうやら、俺は地雷を踏み抜いたらしい。


お互いにとって、致命傷に成り兼ねない地雷を。


続く

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