語るだけ

 昔、仲良くしていた幼馴染が死んだと連絡が入った。部活の日本一になった直後だった。

 本当なら、インタビューで緊張したり、学校でもてはやされて調子に乗ったり、スクールカースト上位の女の子に告白されて付き合う事だったり、いいこと尽くしだと思っていた。だけど、どれも身が入らなかった。


大会が平日だったので、次の休日はすぐだった。

 今日は、お寺に来ている。線香は持ってこなくていいと言われてしまったので、ガラスコップの水を変えるだけである。

 着いて、さっそく水を入れ替える。

「こんな風に俺から声をかけたのは、もう何年振りになるのかな。」

 ずっと、しゃべっていなかったな。

「今更後悔してるよ、もっとかまって、もっと一緒に居ればよかったなって。」

 大切な幼馴染だったのに、本当におかしな話だ。

「俺さ、おととい、全国一位になったんだ。」

 良い事を伝えたい。一番に伝えたかった。

「自分でも驚いてるよ。昔はユキにすら負けるほどだったのにね。」

 昔みたいに雑談がしたい。

「今さ、インタビューどころか、同じ学校の生徒に憧れの目で見られてるんだよ。そんでもって、この前、女の子に告白されたんだ。」

 うれしくはあった、だけど、

「でも、振ったんだ。『今は忙しいから』って。」

 容姿も悪くなかった。

「別に可愛くないわけじゃなかったよ。何なら、スクールカーストの上位だし、何人にも告白されたことあるらしいし。でも、なんとなく、この人じゃないって思ったんだ。」

 今だけは、何を言っても許してもらえないだろうか。

「『付き合ってほしい』って言われたときにさ、ユキのことが浮かんだんだよ。女の子の告白聞いてるときに、ほかの女の子のこと思ってるとかありえないでしょ。」

 我ながらひどい話だ。

「幸い、友達は結構いるから特別はぶられたりはしてないけど、それでももう少し自分はましな奴だと思ってたよ。」

 会いたいと、思ってしまう。

「なあ、ユキ」

 会えるなら、何でもしたいと思ってしまう。

「もしさ、もしもさ、俺がもっと素直だったらさ、部活なんてやらないで、モテるための自分磨きをしてたらさ、ユキは俺を追いかけてくれたのかな。」

 自分から逃げたくせによく言うよ。

「そりゃ、全国一位になれなかったかもしれないし、友達が出来なくなってたかもしれないけど・・・それでも、ユキと一緒にいれたのかな。」

 一緒に居たかったんだ。

「やっぱり、そうだったんだな。」

 一人でしゃべってると、この気持ちを再確認できる。

「俺さ、ユキのこと、好きだったんだよ。一緒に幸せに暮らしたかったんだ。ユキに笑顔でいてほしかった。」

 死んでも好きなら、それはもう、

「愛してたって言っても過言じゃないと思う。うん、言いたいこと言えてすっきりした。」

 もっと早く伝えるべきだった言葉を、口にすることができた、彼女に一番近いであろう場所で。

「それじゃぁ、また来るから、本当は毎日来たいくらいだけど、学校もあるからどうしてもね。」

 そう言いながら、アイビーの花を供える。

「また一緒に、ゲームでもしよう。」

「ユキは、どんなゲームが得意だったっけな。」

 帰り道、家のそばに、白いカーネーションが咲いていた。


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