その愛は・・・

埴輪モナカ

受け止めるだけ

 目が覚めてから、動けなくなっていた。

 別に関節が動かないわけではない。この場所を移動できなくなっていたのだ。

 だからまぁ、人が来るまでゆったりと待つことにした。


 数日して、幼馴染のシュウトくんが来てくれた。

 コップの水を入れ替えながら話しかけてくれた。

「こんな風に俺から声をかけたのは、もう何年振りになるのかな。」

「そうだねぇ、中学の頃からずっと避けてたもんね。」

「今更後悔してるよ、もっとかまって、もっと一緒に居ればよかったなって。」

「そりゃ私もだけど、あの時は嫌われてると思ってたからなぁ。」

 できる限りかかわらないようにされてしまっては、嫌われたと勘違いしてしまうだろう。

「俺さ、おととい、全国一位になったんだ。」

「えぇ⁉すごい!!頑張ったじゃん!」

「自分でも驚いてるよ。昔はユキにすら負けるほどだったのにね。」

「ほんと、あんなシュウトが全国一位になるなんて。・・・頑張ったんだね。」

「今さ、インタビューどころか、同じ学校の生徒に憧れの目で見られてるんだよ。そんでもって、この前、女の子に告白されたんだ。」

「へぇ、シュウトにもついに恋人ができたのかぁ。うん、良かったじゃん。」

「でも、振ったんだ。『今は忙しいから』って。」

「ふぅん、勿体ないじゃん。可愛くなかったの?」

「別に可愛くないわけじゃなかったよ。何なら、スクールカーストの上位だし、何人にも告白されたことあるらしいし。でも、なんとなく、この人じゃないって思ったんだ。」

「まぁ、趣味は人それぞれだし、後のこと考えて難しくなることもあるよねぇ。」

「『付き合ってほしい』って言われたときにさ、ユキのことが浮かんだんだよ。女の子の告白聞いてるときに、ほかの女の子のこと考えてるとかありえないでしょ。」

 自嘲しているが、やはり元気がない。

「そりゃまた随分とひどいことを・・・。学校に居場所あるの?」

「幸い、友達は結構いるから特別はぶられたりはしてないけど、それでももう少し自分はましな奴だと思ってたよ。」

「いじめられたり、はぶられたりしてるわけじゃないならよかったよ。」

「なあ、ユキ」

 泣きそうな声で、名前を呼んでくれる。

「なあに?」

若干揶揄うように聞いてみる。

「もしさ、もしもさ、俺がもっと素直だったらさ、部活なんてやらないで、モテるための自分磨きをしてたらさ、ユキは俺を追いかけてくれたのかな。」

「自分から逃げたくせによく言うよ。私はずっと追ってたよ。」

「そりゃ、全国一位になれなかったかもしれないし、友達が出来なくなってたかもしれないけど・・・それでも、ユキと一緒にいれたのかな。」

 それは無理な話だ。私はここまで来てしまった。できるはずがないのだ・・・。

「そう、だね。君が、何を犠牲にしてでも私を引っ張ってくれたら、変わってたかもね。」

 それは正直、うれしい言葉だった。

「やっぱり、そうだったんだな。」

 シュウトは確かめるようにそう言う。

「なにが?」

「俺さ、ユキのこと、好きだったんだよ。一緒に幸せに暮らしたかったんだ。ユキに笑顔でいてほしかった。」

 もう、泣きそうだった。

「それは、もう愛じゃん。」

「愛してたって言っても過言じゃないと思う。うん、言いたいこと言えてすっきりした。」

「そっか、私もいいこと聞けて良かったよ。」

「それじゃぁ、また来るから、本当は毎日来たいくらいだけど、学校もあるからどうしてもね。」

 彼はそう言いながら、小さなアイビーの花を添えてくれる。

「そりゃそうよ。さぼったりしないでよ。今までの優等生ずらが台無しじゃない。」

「また一緒に、ゲームでもしよう。」

「私の勝てるゲームがいいな。」

「ユキは何が得意だったっけな。」

 彼はそう言いながら歩いていってしまった。

 きっと、一週間後に来るだろうけれど、大雨だったりしたら来れないから、気長に待つとしよう。

 彼に会うことはできた。だから、次は彼に抱き着くことを楽しみにしよう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る