第17話 冬の町
4つの国にはそれぞれ国名とシンボル、国旗のようなものがある。
春の国は桜のシンボルであり、国旗には太陽が描かれている。
夏の国はヤシの木がシンボルであり、国旗には月が描かれている。
秋の国は紅葉がシンボルであり、国旗には夕暮れが描かれている。
冬の国はもみの木がシンボルであり、国旗には雪が描かれている。
冬の国は本当にそのシンボルと国旗によく即している。
雪がシンシンと降り、もみの木には雪が溜まる。綺麗なイルミネーションが街のそこらに輝いている。
綺麗な場所だ。
「冬の国では全てのライトが暖かなオレンジ色であり、窓は二重であり、建築物は高い位置に設置してあるのですよ。これからここにはよくお世話になります。」
風月さんがニコニコと説明する。
「私は王都に頻繁に訪れるつもりは無いわ。」
しばらく人と会いたくない。
そんな気持ちである。
「春の国や秋の国ではそれは可能ですが、夏の国ましてや冬の国ではそれは難しいと思います。」
夏には台風や暑さ、冬には積雪や寒さがある。
きっとそういうのを個人の単位で乗り切ることは難しいのであろう。
以前とは異なり、永続的に続いているのだから仕方がないのかもしれない。
全く不便な国に越してきた。
サクサクと道を歩くとなる音、鼻の先が凍えている。
「きっと月雫様に適した土地だと思います。」
風月さんが笑顔で言う。
「私をなんだと思っているの?そんなの向いていないに決まっているのに。」
「1ヶ月後が楽しみです。」
とだけ言う。
風月さんは口数が多い。
だから取り繕うことを忘れてしまう。
「キリさんも職業に精が出ると思いますよ。」
「それなら良かったです。」
キリは風月さんに冷たくいつも答える。
私とキリは本来なら、もっと親しい関係だった。あの時はもっと世話焼きの感じであった。
「キリと風月さんは元々知り合いであったのかしら?」
その問いに対してキリが答えた。
「風月さんとは共有の知り合いがいます。しっかり会話をしたのはここ数日前からです。」
そういえば風月さんはキリに頼まれたと言っていた。きっとその時だろう。
「あちらに見えるのが冬の国の国王様が在宅されている城です。」
風月さんが手で指す場所を見ると、雪が屋根に積もっている綺麗な城があった。
「綺麗な城。」
春の国は昔で言う大阪城のような豪華絢爛の城であったが、ここの城はまるで貴族がひっそりとパーティーを開くような城であった。
「気に入って頂けたのなら嬉しいです。」
我が物顔で風月さんは言った。
雪が降っているというのに十分と人がいる。
吹雪ではないからか。
そんな事を思いながら歩いていくと、城はあっという間に辿り着いた。
懐に入れてある鈴を鳴らす。
冬の国の国王か。
この国の城は一般人の立ち入りを許可しているらしい。2階には禁止テープが貼ってあるが、1階にいる面々を見ると様々な人がいる。
兵士も楽な格好、といっても寒いため厚着であるが、をしている。
「春の国とは十分と違うのね。」
「そうですね。春の国より自由ですね。」
キリが私に同調してくれる。
「冬の国は環境が人が住みやすい訳ではありません。雪が酷い時に遠くから来たものでも大丈夫なようにと考えられています。それに高齢化率も高いですし、なにより職業は安定しているとも言い難いですからね。冬の国の国王は代々身分の差を気にされない方が多いです。」
と風月さんが説明した。
「――風月さん、風月さん!」
その声と共に風月さんにぶつかった小さな男。
「
弓月というらしい。
走ってきたからか、息が乱れている。
「はあ、はあ。」
十分とかしこまった格好した子どもだな。風月さんとは知り合いなのは確かだ。
すると男の子は前髪はボサボサのままだが、服をキリっと整えた。
「失礼しました。僕は春の国第1王女様のご案内役の弓月という申します。国王様の元へご案内させて頂きます。」
「よろしくね。」
としゃがんで答えた。
この子どもが国王様に仕えているなんて。
どの国も貧困の子どもはいるが、新しい形だ。
今考えれば城の中には度々、大人がいないでかしこまった服を来て歩く子どもがいる。
外は暗いのに不自然な光景だ。
こんなに小さな子どもが働くなんて、少し悲しい話だな。普通なら学校へ行くのに、本当なら家族の元へ帰る時間なのに。
「そんな顔をなさらないで下さい。春の国第1王女様はお優しいのですね。正直少し不安でしたのですが、これなら安心です。」
どんな顔だ。私は感情隠すのが得意だ。
お優しいは私から遠く離れた言葉だ。
私は優しい陽葵に酷いことを沢山思ってきたのだから。
それに不安ということはやはり冬の国で私の悪名は有名なのかもしれない。
「それにしても弓月、国王様の所まで案内といってもうすぐに着くではないですか。」
と風月さんが冷やかしたように言った。
すかさず、
「違います!本当なら入国から案内するつもりでしたが、あまりに早い到着でしたので。それに国に着いたらご報告してくださいと言ったはずです!」と強く反抗した。
「確かに言っていた気もしますね。」
風月さんがそう答えると弓月君は冷ややかな目を向けた。
「それより案内はしなくていいのですか?」
「はい。それでは後に着いてきてください。」
と切り替え、私とキリにお辞儀した。
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